第35話 秘密の隠し場所
白のメルセデスは中央分離帯で標識をなぎ倒して止まっていた。ハンドル操作を誤って突っ込んだらしい。ジャンニは運転席をのぞいた。壊されたステアリングロックから伸びる配線コードが見えた。
レオネッティ巡査部長が経緯を説明した。
「通りを流していて偶然見かけたんです。停止を命じると、スピードをあげて逃走を図ろうとしました」
「てっきり、カー・チェイスで大破させたかと思ったのに」
「バラバラになっていたほうがよかったですか? でも、書類が増えるんじゃないですか?」
パトロールカーの後部座席に、10代後半に見える少年が座らされていた。横で、もうひとりの少年がしょんぼりしている。どちらも痩せてひょろっとしている。
「乗っていたのはあの2人です。GPS電波妨害装置で盗難車の追跡サービスに信号を送れないようにして乗りまわしていたみたいです」
「そういうハイテク機器の話は、おれと話すときは割愛してよろしい。で、問題ってのは? スパッと単刀直入にな」
「了解。サイドミラーの鏡が浮いていたんです。衝突で壊れたわけじゃなさそうでした。ここです」
レオネッティが左のサイドミラーを外し、内部の空洞から何かを取り出した。黒っぽい布製の袋だった。食品用のラップフィルムで小分けにされた包みが十数個、中に入っている。
中身は白い粉のようだ。ジャンニはげんなりした。
「うへっ、こんなことじゃないかと思ってたんだよ。車内にもあるかもしれない。調べてみてくれ」
「めぼしい箇所はもう
グローブボックスが開けられた。ラップと粘着テープで梱包されたレンガ大の塊、4個。ラクダの絵がついた煙草の箱。額面の異なる紙幣が折り曲げて突っ込んである。ざっと2千ユーロ。
ジャンニはパトロールカーのほうを見やった。2人の少年も、ジャンニたちをちらちら見ながら聞き耳を立てていた。
「あの坊やたちは何て言ってる?」
「車の窃盗は認めていますが、見つかったものについては関与を否定してます。入っていたのも知らなかったと。兄弟で、両親はチュニジア出身、市内在住です」
「じゃ、ひとっ走り行ってきてくれるかい? それと指紋採取を依頼したい。車の持ち主には知らせるな」
「所有者はマッシモ・ボスコでしたよね。ラプッチに個人的に捜索を頼んでいたとか」
「そうだ。やばいブツをすみやかに回収したかったんじゃないかな」
「こんな誰でも思いつく場所に隠して? まんまと手元に戻ると思ってたなら、こっちも見くびられたもんですよ」
「だから、あの代議士先生は餌をぶら下げてるんだよ。われらがお人好しの刑事部長を釣るために」
「ああ、そういうことですか」
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