第9話 宿


「本当にありがとう」

 ゴリラパパは涙を流して汚い顔で俺に抱きつく。

「だからはなーせーって」

「じゃ、私はこれで」

「待て!」

 俺はタキラさんの肩を掴むと、

「これは貸しですよ?」

「なんのことかなー?私はただ、職務を全うしただけだが?」

 しらばっくれる大人は嫌いだ。ジト目でみていると、

「分かった、借り一つな」

 と、手を振って帰って行った。


「はぁ、宿も探さないといけないのに」

 なんでゴリラを助け、警察に貸しを作らないといけないのか。

「なんだ?宿を探してるのか?俺んとこくるか?」

「ん?」

 ゴリラが日本語喋ってる?

「宿探してるんだろ?部屋は余ってるから貸してやるぞ?」

「ご、ゴリラパパ大好き」

「ゴリラじゃねぇ!ゴラムだ!んじゃいまから行くぞ、助けてくれた礼に美味い飯食わしてやる」

 ゴラムは肩にマルミを乗せ、俺の手を引っ張って歩いていく。

「分かったって、とりあえずなんでも掴むなよ」

「お、悪りぃな」

「っとに」

 その後はゴラムのやってる料理屋で飯をたらふく食わされた。動けなくなるほど。ゴラムにここに住めと言われて部屋に担ぎ込まれ、ベッドで横になる。

「一応、宿はなんとかなったし、タキラさんに貸しも出来たな。……しかし、あの子供たちはどうする気だったんだ?」


 悩んでもしかたないので少し埃臭いベッドで寝る事にする。



「朝だぞシュウ!起きろ!」

「起きたぞ!うるせーな!」

 扉を壊す勢いでドンドンされ起こされる。


「飯だ、残さず食えよ」

「俺は子供か!ちゃんと食うから少し減らせ」

「パパ、マルミのも多い」

「ハンターだろ?それくらい食って一人前だ!マルミは残しても俺が食ってやる」

 どこの大食いハンターだよ。そして娘に甘すぎる。

 マルミちゃんと一緒に朝飯を食って、洗い物くらいは手伝う。


「んじゃ荷物取ってくるわ、それと警察署にもいってくる」

 白馬の宿でアズベルさんやカラさんにも礼を言わなきゃだし、子供達も気にかかる。

「おう!いってらっしゃい!」

「いってらっしゃい」

「い、いってきます」

 何年ぶりにこのやりとりをしただろうか、何故か元気になるな。


「アズベルさん、一日早いですが今日から宿を変えますのであの部屋はキャンセルして下さい。そしてありがとうございました」

 白馬の宿のロビーで寛いでるアズベルさんに挨拶をする。

「そうですか、こちらこそ助けられてありがとうございました。あまり力になれずに「そんなことないです」」

 俺は泣きそうになりながら話す。

「話を途中で遮ってしまいすいません。本当にとてもありがたかったです。世間知らずな俺に優しくしてくださりありがとうございます」

 アズベルさんは肩を叩いて、

「若いんだからこれからです。貴方はこれから大きく成長すると私の感がいってます」

「そんなことは」

「大丈夫。大なり小なり人は日々成長するものです。またいつの日か私に貴方の成長を見せてくださいね」

 アズベルさんはカードを一枚渡してくれた。

「はい、必ず」




「カラさん、今日でこの宿から移るのでご挨拶にきました。色々と教えてもらいありがとうございました」

「そうですか、シュウさんはここを拠点にするんですか?」

「まだ分かりません。なんせ世間知らずなんで」

 カラさんと二人で笑い、

「そうですね。シュウさんは世間知らずですから、見聞を広げて色々考えてみるのもいいです。それにはこの町はいいと思いますよ」

「はい」

 カラさんと固く握手をして白馬の宿をあとにする。

 少しの間だったがとてもいい出会いができた。



「おや、昨日ぶりですね。シュウくん」

「タキラさんは飄々としてますね」

「そんな褒めても何も出ませんよ?まぁ座って下さい」

 署長室のソファーに座る。

「で?聞きたい事は子供達のことですか?」

「良く分かりましたね」

「あの子らは孤児です。奴隷商人にでも売るつもりだったのでしょう」

 奴隷商人?

「奴隷は犯罪じゃ?」

「裏取引ですね。奴隷商人なんかは狡猾で尻尾を出さない。今回の件も証拠がないからシュウくんの跡を追ったのが事実です」

「そうですか。証拠は見つかりました?」

 タキラさんは首を振ると、

「だから難しいのです。冒険者などをやってると、死んでしまうこともある。子供を残してね。そうなると子供は自分達でどうにかしないと生きて行けない」

「組合は?」

「引き取りに行った時にはもう」

 なんて最低な奴らだ。親が亡くなってすぐの子供達を奴隷にするなんて、

「今回はシュウくんのお陰で売られずにすんだ。子供達は組合と教会が合同で出資してる孤児院にいきます。なので安心して下さい」

「そうですか、俺にも何かできたらいいんですが」

「孤児院は食料なんかも寄付できますから冒険者ならそういう事もできますよ。でも、一番は自分が死なない事。大事な人を残してね」

「そうですね」

 二度目の人生だ、安全第一で生きていこう。

「それはそうと、これが今回の報奨金です。

あとこれが前の盗賊からの防具武器などの額ですね」

 しんみりしたとこでぶっ込んできた。

「賞金首もいたので金貨五十枚。あと盗賊のはミスリルなどの高額な物もあったので金貨百三十枚になります」

「は、はぁ、まぁ貰いますけど話の流れをぶった斬るのやめて下さいね」

「ハハハ、男の泣き顔なんか見たく無いですからね」

「くっ!」


 いつかこの署長に貸しを返してもらう!倍だ!倍!

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