第2話 血の繋がり

翌日…


エナ「おはよう。お母さんお父さん。」


父「おはよう。エナ。」


母「おはよう。エナ。よく眠れた?」


エナ「うん。大丈夫だよ。」


しっかりしなくちゃ。しっかりするの…。

心配かけてしまわないように…。


みんなで朝ご飯を食べて、洗濯物を干す。

いつもと変わらない朝。


エナ「お母さん。そろそろ行ってくるね。」


母「気をつけて行くのよ。」


エナ「うん。行ってきます。」


紙に書いてある住所は家からバスと電車で2時間。


エナ「こんなに遠くまで行くなんていつ以来だろう…」


そんなこと呟きながらバスを待つ。


バスに乗ると座席がほとんど埋まっている。

空いてる座席はあと1つ。

なんとか座ることができた。


ひとつまたひとつとバス停を過ぎ

5つ目のバス停に止まった時

小さな男の子を連れた妊婦さんが乗ってきた。

駅へ向かうからなのか変わらずバス内は混んでいる。

声をかけようとしていると隣に座っていた人が降り

小さな男の子が横に座った。


エナ「あの…、もしよろしければここ、座ってください。私は大丈夫なので…。」


妊婦「そう?でも悪いわ。あなたが立たなければいけないじゃないの。」


エナ「私は大丈夫です!息子さんもきっとお母さんが隣にいた方が安心すると思いますし…。」


妊婦「そうかしら…。ごめんなさいね。ありがとう。」


勇気をだして話しかけてよかった…

もうすぐ駅だ…緊張してきたな…


駅に着きバスを降りる。

電車に乗り緊張が更に強くなる。


男の子「あ!さっきのおねーちゃん!」


妊婦「あら、先程はどうもありがとう。助かったわ。」


エナ「いえいえ!まさか電車まで同じだったなんて…」


妊婦「偶然ね。」


エナ「そうですね!」


世間話で緊張を誤魔化していると目的の駅に着く。


エナ「あ!私はここで降りるので…」


妊婦「あら?私達と同じ駅だったのね!」


エナ「こんな偶然あるんですね!」


妊婦「せっかくだし途中まで一緒に、とも思ったのだけれど、ごめんなさいね。私達はスーパーに寄らないと…」


エナ「全然大丈夫です!たくさんのお話ありがとうございました!またどこかで!」


2人と別れると、ものすごい緊張が襲ってきた。

地図を見ながら1歩1歩踏みしめて歩く。


エナ「ここだ…」


そこにはすごく大きな家が建っていた。

大きな門を見上げると腰が抜けそうになる。

インターホンに手を伸ばす。


どうしよう…手が震えて力が入らない…


妊婦「あら?あなた…。そこのお宅になにか御用?」


エナ「え!?あ、えっと…。人を…探してて…」


妊婦「そうなの。そこは私の兄の家なの。」


エナ「え…、そうだったんですか…」


妊婦「今呼ぶわね。ちょっと待っていて。」


エナ「えっ…あっ……。ありがとう、ございます…」


どうしよう…心の準備が…


妊婦「あ!お義姉さん。お客さんよ。」


エナ「あ、あの…はっ、はじめまして…」


実母「エ、ナ?エナなの?」


エナ「はい。」


実母「そう。大きくなったわね。」


妊婦「本当に知り合いだったのね」


実母「とにかく3人とも中に入りなさい」


実母に言われ妊婦さんと男の子と一緒に中へ入る。


実母「エナ。あなたはこちらへ来なさい。主人がこっちにいるから。」


エナ「 はい。」


実母の後ろを歩き奥の部屋に通される。

部屋に入ると奥に男の人が座っていた。


実母「あなた。この子があの時の子らしいわ。エナと言うのよ。」


実父「…。」


エナ「はじめまして。エナです。先日養子であることを聞き、こちらの住所を教えてもらいました。突然の訪問すみません。」


実母「そんなかしこまらなくても…」


実父「…。」


エナ「すみません…」


実父「…。なにをしに来た。」


エナ「え…?」


実父「なにをしに来たのかと聞いている。」


エナ「え、っと…。」


実父「特に用がないのなら帰りなさい。もうお前と私達は無関係だ。わざわざ会いに来る必要なんて無いんだよ。」


冷たく放つ実父の言葉に何も言えなかった。

こぼれてしまいそうな涙をぐっとこらえた。

実母は黙って気まづそうな顔をしている。


エナ「ご、めんなさい…。ただっ、私は、成長した姿を…見て…もらおうと……」


泣きかけているからだろうか。

声は裏返り上手く喋れない。


実父「お前がどこでなにをしていようがどんな暮らしをしていようが私達には関係ない。興味もない。もう2度とここへは来るんじゃないよ。わかったね。」


エナ「はい…」


震える声ではそう答えるのが精一杯だった。

そっと部屋を出る。

あぁ、私はなにをしに来たのだろうか。

そう思うと涙がこぼれそうになる。


実母「ごめんなさいね。ああいう人なのだけれど悪気はないの。」


エナ「はい…。」


実母「本当は優しくて穏やかな人なのよ。」


エナ「…。」


実母「あなたを養子に出した後弟が生まれたのだけれど、その子にも怒ることなんてないくらい優しくて…。いつも家族のことを第1に考える素敵な人なのよ。」


エナ「そう…ですか……」


家族のことを第1に…。優しく…。

何度も同じ言葉が頭の中で繰り返す。

それならどうして…

あんな酷い言葉…

そんな私の気持ちなんて考えることも無く

実母はずっと喋り続ける。


実母「この前の息子の誕生日なんてね、プレゼント3つも買ってきてしまって。あの人があまりにも甘やかすものだから私はいつも怒ってばっかりなの。あとそれからこの間の…」


エナ「…もういいです……。」


実母「え?良いじゃない。あの人のこと勘違いしてほしくな…」


エナ「私はっ…!!私も…あなた達の娘なのに…そんな私抜きの家族自慢みたいな話…笑って聞いていることなんて、できません…。」


実母「なによ…そんなつもりじゃなかったのに。まるで私が悪者のような言い方ね。」


エナ「そんな…。」


実母「まあいいわ。気をつけて帰るのよ。もう会うことはないけれど。」


エナ「…。」


実母「それじゃあ。さようなら。」


エナ「…あっ…あの…。」


実母「なによ。まだなにかあるの?」


エナ「最後に…最後に一つだけ……」


実母「早くしてちょうだい。」


エナ「どうして…どうして私を養子に…?」


実母「…はぁ…(ため息)そんなこと決まっているでしょう。あなたが女の子だからよ。」


エナ「…えっ…?」


実母「女の子じゃ、跡取りにならないでしょう。」


そんな理由だったなんて…


エナ「そうですか…」


実母「話はそれだけ?それなら気をつけて。」


そう言い残すと実母は家の中へと戻っていった。

私の血の繋がった両親がこんな人だったなんて…

会いに来なければよかった…

こらえきれず涙が溢れる。

大切に育ててくれた両親の顔が浮かぶ。

私にとっての親はこの2人だけ。

あの人たちのことは忘れよう。

いつまでも泣いてなんていられない。

強くならなくちゃ。

そしてお父さんとお母さんに恩返しするんだ。


そんな思いを胸に家に帰るのでした。

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