第16話・これからも…最後の瞬間まで


そして


8月11日


「深津先生!1059号室の花沢さんが!」


「すぐ行く!」


まゆの容態が悪化した

まゆのお母さん、葉月、可奈ちゃん、まもりも一緒だった

まゆの苦しむ姿を目の当たりにした俺らは

何も出来ずに涙を流すだけだった


深津先生が急いでくると


「まゆちゃん!落ち着いて!ゆっくり深呼吸」


「……涼真君…」


「まゆちゃん?喋らないで深呼吸して!」


「やだ、伝える」


まゆの力のない声にまた涙があふれる


「涼真君」


まゆはゆっくりと息を吸って


「顔を上げて…私は1人じゃないよ」


………!

あの時夢で見た景色だ

前に見た夢の女の子……

全部まゆだったのか…!?


「涼真君が居たから…

涼真君だからここまで来れたんだよ」


俺はまゆの目を見ているだけだった

俺だからって言ってくれるけど

俺は本当に何も出来なくて申し訳なくなる


「私が死んでも……涼真君の中では死んでない

私…涼真君の心の中で一生懸命生きる!」


「……まゆ、ありがと…こんなに俺のこと思ってくれて」


涙が止まらない

そんな俺にまゆは


「涼真君…泣いてるの?」


「………くっ……」


必死に抑えてもどんどん涙がこぼれる


「涼真君…」


「………」


「笑顔だよ」




まゆは笑っていた

誰もが泣いているこの病室の中で

まゆだけが笑っていた

まゆは俺の左胸に手を添える

その瞬間、俺は滝のように涙が溢れてしまった


「……まゆ、今までありがと…

俺と一緒に生きてくれてありがと…」


「……えへへ」


まゆはゆっくりと目を閉じた


「DCの用意!」


深津先生はまた慌てるように言うが


「もうやめてください!」


まゆのお母さんがそれを止めた


「まゆは…もう悔いはないんです

これ以上は無理です!」


まゆは強く生きていた

まゆと一緒にいれたから俺らも強くなれた

そしていつも俺に元気をくれた

どんなに辛くてもどんなに苦しくても

俺を1番に好きでいてくれた

なんでだろう

俺は何もしてないのに

まゆは幸せって言ってくれた

それが俺の幸せになっていた

まゆじゃなかったらここまで来れなかった


まゆ……


「まゆ!!!!」


まゆの最後の病気はまゆのお父さんと同じ心筋梗塞

病室は泣き声で溢れて

もう戻ることのないまゆの名前を何回も叫んだ


あれから1ヶ月が経つ

俺はまゆのお母さんに呼ばれて家に行く

1人で歩いてると

今でも横からまゆが元気に挨拶をしてくれそうだけど

もう二度とその声を聞くことはない

まゆの家に行くと


「いらっしゃい」


まゆの面影が残ってるまゆのお母さん

俺は家に上がりリビングに座る

まゆのお母さんがひとつのノートを取り出した


「これを読んで欲しくて」


「……はい」


なんのノートだ?

開いてみると

まゆの字だった

よく見ていると日記になっていた

まゆの声が脳内で再生される


『6月20日

今日から日記を書くことにしました

なぜかと言うと多分もう少ししたら私が死んじゃうから

ちょっとでもここに居た証だけ残そうと思って書いてみたよ

あー入院退屈、終わり』


『6月26日

あと1ヶ月で誕生日だ!

生きていられるかなー??

でもみんなの元気いつももらってるから大丈夫!』


『7月3日

夏休みっていつからだろ?

曜日感覚がわからなくなりましたー笑

明日もがんばりましょー!』


『7月20日

久しぶりに水抜きした

痛いんだよねー

もっと優しくしてくれないかな』


『7月26日

やったー!!念願の高校生になって2回目の誕生日だー!

みんなお祝いしてくれたー!

やっぱみんな優しいなー

今よりも元気になってもっと一緒に居たいなー!』


『7月30日

DVD見たよ。なんであんなに面白いのに泣けるんだろ?

私も今度やってみようかな?』


『8月2日

ごめんなさい。わがまま言いすぎました

反省してます。ごめんねごめんねー笑

ふぁいと!まゆの心臓!』


『8月7日

発作が起きないのなんでなんだろ?

嫌な予感がする

大きな地震が起きるみたいな感じ?

絶対になにかあるよね

でも、涼真君には言えない』


日記はこれで終わっていた

涙で字がぼやけて見えたけど

この小さなノートが

まゆの生きていた証なんだ

このノートを見ているだけで

こんなにもまゆの生き様が見れるなんて……


「まだあるんだけどね

このビデオカメラに残ってるんだけど」


まゆのお母さんはビデオカメラをテレビに繋げる


すると

再生されたのは


『やっほー!』


まゆだった


『みんなー?元気ですか?

私はこの通り元気だよ!ふぅー!

涼真君、葉月君、可奈、まもりちゃん

今までありがとうございます!

あれ?ございますかな?ございましたかな?

どっちでもいいや

お母さんもいつもありがとー!』


まゆの元気な姿がカメラに映っていた


『誕生日にビデオレターみたいのくれたから

私もお母さんに頼んでカメラ持ってきてもらったの

カメラ越しの私はどう?いい感じ?』


まゆはカメラの前でも笑顔だった

たまにふざけてるのに何故か癒される

これがまゆの愛されるところだと思う


『なんて言ったらいいんだろー?

こういう時ってわかんなくなるね!

んーじゃあこうしよっかなー

みんな大好きです!

お母さんの手料理も

可奈の優しいところも

葉月君の面白いところも

まもりちゃんの心配性なとこも

涼真君の全部も

大好きだし絶対に忘れないよ!

だから、みんなも私のこと忘れないでね?』


お前みたいなやつ忘れるわけないだろバカ


『それでね涼真君に言いたいの』


………なんだろう


『私と付き合って

重荷なんて思わないで居てくれてありがとー

本当は、こんな病人と付き合うのは無理だって諦める人がほとんどだと思うのに

"まゆは病気のことだけを考えて"って言ってくれたのは今でも忘れないよ

そんな人が居たから私は毎日笑っていられたし

毎日がハッピーだったよ』


まゆとの色んな思い出が頭を巡らせる


『私はいつもヘラヘラしてて

辛い時とかあんまり言えなかったりしてたのに

涼真君が病院から帰ると寂しくなっちゃう

だからもっと素直になろうって決めたんだ

伝わったかな?

"病気のことだけを考えて"って言ってくれたけど

病気のことなんて忘れちゃうくらい涼真君で頭がいっぱいです

涼真君と過ごした日々が宝物だよ

私の人生の一生の恋でした。』


こんなまゆに愛されて俺は幸せだ

俺はまゆに色んなことを教えてもらって沢山の幸せをもらえた


『あ、みんな私の笑顔好きって言ってくれたでしょ?

人生楽しいから笑顔になっちゃうんだよねー

あとみんなが大好きだからだよー!

アイラビュー!可奈!

アイラビュー!葉月君!

アイラビュー!まもりちゃん!

アイラビュー!お母さん!

アイラビュー!涼真君!

ベリーベリーアイラビュー!

ばいばーい!』


まゆの笑顔をまた見れてしまった

それを見た瞬間に涙が止まらない

泣くな

まゆが伝えたいことは悲しめってことじゃない

俺の心の中にはまゆがいる

最後にまゆが笑顔だよって言ってくれたから

俺は強く生きなきゃいけない

涙を拭い、まゆのお母さんにお礼を言って帰ることにした

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