第15話・終わる合図



次の日

わからないままの答えが知りたかった

俺は病院に行くけど

受付に行き


「深津先生とお話がしたくて」


まゆの病室に入る前に深津先生に尋ねた

すぐに診察室に案内されて

深津先生が驚いた顔で待っていた


「涼真君か、どうしたの?」


深津先生もいつもみたいなニコニコではなかった

ますます不安になる

だからこそ俺は聞きたいんだ


「まゆの状態は今はどうなんですか?」


率直に聞くと

深津先生は顔を青白くさせて


「……そうだね、

後ほど伝えることにするよ」


「……待ってくれよ、なんで?

まゆは元気なんですか?」


「それも後ほど」


「いや、でも」


「ここで話してもまゆちゃんの状態は変わらない!」


深津先生は少し声を荒らげる


「いいかい?涼真君、病気っていうのは誰も気付かないうちに体を蝕んでいくものなんだ

まゆちゃんが今生きてるのも心室細動の時、目が覚めたのも1%もない奇跡をまゆちゃんがくぐり抜けてきたからなんだよ」


そう言って深津先生は立ち上がる


「まだ奇跡を起こせるほど現実は甘くない」


深津先生に説得させられてしまった

まるでまゆがもう死ぬみたいな言い方するなよ

まゆが死ぬなんて……

くそ、なんでだよ


何もわからないまま

まゆの病室に行く

扉を開ける

いつもならまゆの明るい挨拶が聞けるのに


「……涼真君」


やはり弱々しいまゆだった


「……まゆ」


そんなまゆを見ると

俺も力のない声になる


「……元気ないね、どうかしたの?」


まゆがそんなことを聞いてくる

どうかしたの?じゃねーよ


「いや、まゆが答えてよ

なんで深津先生が薬の量を減らしても何も言わないの?」


俺がそう言うとまゆはしばらく黙る

まゆの体の中で何が起きてるのかわからない

でもまゆは自分でもわかっているんだと思う

だからこそこの間が怖かった

そしてまゆはやっと重たい口を開く


「深津先生にね、覚悟は出来てるか?って聞かれてるような気がして」


「……どういうこと?」


「……もう私、生きてられないのかなって」


……なんで


「なんでそんなこと言うんだよ

まゆはまだ死なねーだろ」


俺が慌てるように言うと


「そんな事言わないで」


まゆは珍しく不機嫌な顔を浮かべた


「私は明日死んでも後悔はしてない

私は人よりも早く死ぬのわかってるもん

まだ死なないなんてことはないよ」


ちょっと興奮気味なのかいつもよりも少し早口に

なるまゆ

まゆの言ってることはわかるけど…

……でも


「俺だって明日死んでも後悔しないよ

だってまゆに会えたし今もまゆと一緒に居れて幸せだし」


「涼真君は後悔しないとダメだよ」


まゆは俺の言葉を途中で遮る


「涼真君は普通に育ってきた人なんだよ

死ぬなんてまだ先のことでしょ?

結婚だってしないといけないし」


「……そんな事言うなよ」


「だってそうじゃん

私はもうすぐ死んじゃうんだよ?

どう頑張っても涼真君とは一緒に居れないの」


やめてくれ


「まゆが死ぬなんて……言わないでくれよ」


俺は情けない

こんなに辛そうなまゆの前で涙を流してしまう

それでも俺はまゆの口から死ぬなんて言葉は聞きたくなかった



「私だって死にたくないよ」


まゆは声を震わせながら言った


「でも私はもうすぐ死ぬの

それは涼真君に受け止めてほしい」


受け止めないと

心ではそう思っていたけど


「俺だって、まゆと同じ病気になって

同じ思いでいたかったよ!」


絶対にこんなこと言っちゃダメなのに

つい言葉にしてしまう


「私の気持ちわからないの?

勝手なこと言わないでよ!」


まゆは怒鳴るように声を荒らげた


「涼真君はどうせ今すぐ死んでって言われても死ねないでしょ?だったら勝手なこと言わないでよ!

同じ病気で生きたくても生きれない人だって何人もいるんだよ?

なんでそんな事言うの!ひどいよ!」


まゆの言葉の重みが胸に刺さる

これまでこの病気と闘ってきたまゆだからこんなに重く感じるんだ


「ご、ごめん……」


その言葉でいけないことを言ってしまったと思いすぐに謝る

何言ってんだ俺は……


「もう、いいよ」


「……ごめんな」


「出てって…」


「……」


「もう出てってよ!」


まゆは涙ぐみながら言ってまた布団を体に被せる

怒らせてしまった

なんであんなこと言っちゃったんだろうと後悔しても遅かった

情けねーよ…まゆが死ぬなんて考えたくないからってあんな事……

出て行けと言われたけど俺は出て行かない

だって、今日もお見舞いをしに来てるんだから

残りの時間を一緒に居させて欲しい


2時間が経つ

まゆは寝ているのか全く動かない

俺はどうすることも出来ないけどまた謝らないと


そして


「……んーーー!」


まゆが大きく伸びて目を開けた


「…まゆ」


「なに?」


名前を呼ぶとすぐ反応してくれた


「まゆ、ごめんな

まゆの状態が悪くなるのが怖かったんだ

だから少し冷静な考えが出来なかった

本当にごめん」


「……いいんだよ」


まゆの顔を見ると

少し汗ばんでるように見えた

けど気にせずに話を聞く


「私ね、

涼真君と死ぬまで一緒にいるって決めたの

でも、涼真君は私の分まで強く生きてほしい

私が死んでも、私の代わりに楽しく幸せに暮らしてほしいの」


「……うん」


「涼真君と一緒に居れて幸せだったと思えるから

私は死んでも後悔しないんだよ」


それはわかってる


「俺も…まゆと居れて幸せだった

俺…まゆ以外の人と幸せになれないよ」


「……そんなこと言ってくれるなら嬉しくて私今すぐ死んじゃうよ?」


「ばか…そんなこと言うなって……」


まゆのいつもの冗談も今は別れの言葉に聞こえる


「……だ、だから……涼真君」


「……ん?」


「………はぁ………っ!!!」



まゆは急に胸を押さえだし


「い、痛い!!!っ!!っ!!

はぁ!はぁ!はぁ!っ!!

はぁ!はぁ!いやああ!!痛い!!!」


まゆは叫ぶように苦しみ始めた


「ま、まゆ!?」


初めての出来事に俺はどうしたらいいかわからない

見たことないぞこんなの

俺はナースコールを押す

今までは苦しくてもここまで大声をあげることはなかった


「はぁ!はぁ!

っ!!っ!!!痛い……」


まゆは痛みを必死に耐えている

ナースコールを押して先生達が来る時間が長く感じた


しばらくすると慌てて駆けつける先生達

深津先生も汗だくになりながら手当が行われる


その途中だった

病室の扉が開く


「……どうしたんですか!?」


まゆのお母さんが入ってくる


「ま、まゆが急に苦しみ始めて」


「……そうなの」


まゆのお母さんもただ事じゃないのを察知していた

手当が終わるとまゆは落ち着き眠りについた


しかし

これだけでは終わらなかった


深津先生は俺とまゆのお母さんを診察室に呼ぶ

深刻な表情の深津先生はこんなことを言い出す


「この発作はただの発作ではありません

先天性心神経が終わる合図です」


「終わる合図?」


深津先生は治るとは言っていない

終わると言っていた


「発作が一時起きなくなったのはそのためです

これは先天性心神経を患った幼少期の方によく見られるケースです」


「終わるって言うのは」


俺が恐る恐る聞いてみると


「……もう心臓が働なくなり

まゆちゃんは24時間以内に亡くなるでしょう…」


「……そんな」


まゆのお母さんは声を震わせ顔を押さえる


「もうまゆは助からないんですか?」


まゆのお母さんが泣きながら深津先生に言う


「まゆちゃんは何度も頑張ってきました

僕もまゆちゃんの元気な姿を見て可能性を信じてきました

……でももう、医学的に助かる術はないです」


「じゃあ、心臓移植は!?ドナーとかいないんですか?」


俺も興奮気味で言う


「心臓移植は50歳以下の人の心臓しか提供は出来ないんだよ

事故や病気で亡くなる前の人の心臓しかだめなんだ

それにその亡くなる人の親族の方が承諾しないとだめだ

涼真君やお母さんのようにみんな亡くなる人には必ず大事な人が居てその人を大事にするものなんだ

ドナーを提供してくれる人は居ないに等しい」


「………」


俺もまゆのお母さんも聞き入れるしかなかった

まゆがらもう死ぬなんて…そんな実感も湧かねーよ


まゆの病室に入ると

まゆがぐっすりと寝ている

実感が湧かない

さっきはそんなこと言ったけど

まゆの寝顔が急に愛しくなった


まゆが……なんで……

そんなことを考えるとまた涙が止まらなくなった

もう少しでまゆの人生が終わるなんて考えると

涙が止まらなかった


すると


「……なんで泣いてんの?」


まゆはパッと目を開けた

俺は何も見せまいとまゆに背中を向けて


「な、なんでもないよ」


嘘寝は良くないぞまゆ


「き、今日は夜涼しいみたいだぞまゆ」


「………」


誤魔化すように話を変えた

俺は背中を向けながらまゆのベットに腰をかける


「だから、いつもより……」


「………無理しないでよ」


まゆは後ろから俺を包むように抱きしめた

こんなに密着しているからかな

まゆの胸からゆっくりだけど心臓の音が伝わった


「……私、わかってるよ

もう死んじゃうんでしょ?」


耳元でまゆが囁く


「……うん」


俺は素直に返事をしてしまう

こんな状況なのに…嘘つけなかった


「……そうだよね…

でも、涼真君なら、強く生きていけるよ」


「……まゆの気持ちは俺が継ぎたいな

……なんてな」


「うん、だから

私が居なくなっても幸せに暮らすんだよ?」


「………任せろ」


本当はそんなに強く生きていける自信はない

でも、まゆが今まで生きていたこの時間は俺にとっての宝物だ

どんなに小さな幸せでも、一生分の幸せを感じれる素敵なまゆの気持ちを大切にしよう


「まゆ、マック好きだったよな

今食えないかもしれないけど俺毎日食うよ」


「えーずるいし不健康だよ」


「いいじゃんか、まゆの好きなもの食べたいんだ」


「じゃあ毎日ピーマン食べて栄養取ってね?」


「そうだな……まゆの分まで栄養取って元気にならないと」


「そうだよ……涼真君には……元気で生きてほしいんだから……」


俺とまゆはお互い涙を流し合っていた


「……うっ…うぅぅ…」


1番寂しいのも1番辛いのもまゆだ

だから俺は後悔のないように生きないと

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