第14話・ターミナル
涼真side
夏休みに入ったので
毎日まゆのお見舞いに行っていたけど
ある日のこと
「涼真君」
いつもとは少し違う
なんだかまゆらしくない声で俺を呼んでいた
「ん?どうした?」
というと
「もっとこっちに来て、寂しいの」
まゆは悲しげな顔をして手を伸ばしてきた
「うん」
俺はまゆの手を取ってまゆのベットに座る
にしてもどこかで見た光景だな
「涼真君、あのDVD見たよ、すごい面白かった」
「ほんとか?よかった
あれほんとくだらねーよなー」
「ううん、くだらなくないよ
あれで元気出た!
その元気もらえてあと10年は生きていられそうだなー」
「……そっか」
元気出してもらえたならよかったけど
まゆのターミナルは変わらないんだよな
「そうだ!色紙見よう!」
まゆは色紙を取り出して自分の膝の上に置いた
「どこかなー
お、葉月君みっけ!なになに?
『僕の夢は消防士です。
いつか僕の持ち前のホースをまゆちゃんに向けて噴射させたいです』??」
「あー!!やめろ!」
葉月め、完全に下ネタじゃねーかよ!!
今度会ったら撃つ
しかし葉月がいなかったら笑うことも少なかっただろうし
こんなに楽しくなることもなかったのかもな
いいキャラしてるぜ
「可奈みっけ!『私たちはなにがあってもずっと友達だよ』
だって、相変わらず可奈はいいこだね」
可奈ちゃんは本当にいい子だ
まゆの心配もするし、俺の心配もする
可奈ちゃんを悪く言うやつがいたら俺がぶん殴る
「まもりちゃんもあった!
『まゆちゃんに会えてよかったです。涼君と幸せにね!』
まもりちゃんも嬉しいこと書いてくれるね!」
「意外といいやつだからな
怒らせなければ」
まもりにも色々支えてもらった
だからこそ今の俺がいるのかもしれないしな
日頃の感謝を忘れないようにしないと
「涼真君のも見つけた!んふふー♪
ほうほうほう、うんうんうん、
んふふー♪」
「なんだよ」
「なんでもないよー!」
恥ずかしいぜ
面会の終了時間もそろそろだ
「んじゃそろそろ帰るよ」
「えー?もう行っちゃうの?」
やっぱ今日のまゆはどこか違う
こんなに寂しそうなのは初めてだ
「俺だってもっと居たいけどな
病院の人に怒られちゃうからさ」
「私のベットの中に入ればバレないよ」
「ばかかっんなことしたら何かが起きるぞ!」
「何かって?」
「聞かなくていいの!」
「……じゃあいいよ」
うわあ、すねたぞ
まゆはベットの布団を体に被せ背中を向けた
「なんですねるんだよ」
「………だって涼真君が行っちゃうから」
「しょうがないって、面会時間決まってるんだから」
「………私のわがままだから気にしないでね」
強いように見えて実は弱い
まゆはそんな人だった
いや、違うか……
まゆもどこかで感じてるのかも知れない
もう長く居られないってことを
俺もそれは嫌だよ
誰でもいいから嘘だと言ってほしいくらいだ
「まゆ、こっち向いて」
俺がそう言うとまゆはやっとこちらに顔を向ける
「……泣いてるの?」
まゆの涙が見えた
「………」
まゆは何も言わずに俺を抱きしめた
俺もまゆを優しく包み込み
「まゆ、好きだよ
明日も来るから、待っててな」
「うん…ごめんね
ほんとはすごく寂しいの」
泣いているまゆにキスをした
俺も本当はめちゃくちゃ寂しい
けど、俺はまゆのことだけを考えていたいから
まゆにこんな言葉しか言えることがない
でもそれでもいいと思う
まゆがまた笑ってくれるなら
次の日
俺は朝から病院に向かう
昨日はやけに寂しがっていたからな
今日はより濃い一日にしていくぞ!
可愛いまゆのためならエンヤコラー!
ガラガラとドアを開ける
第一声は明るく元気に!
「わー!!涼真君!
おはよー!」
テンションの高いまゆが俺より先に明るく挨拶をしてきた
おい、俺の目標どこいったよ
「お、おはよー!
今日もFunnyな1日にしような!」
「なにそれっ!」
おれもよくわからん!
「今日のまゆテンション高いな
どうした?昨日はあんなに可愛く泣いてたのに」
「テンション高くしてみたよ!
残りの人生、このテンションでいこうかな」
……まゆ
テンション高いとはいえ
残りの人生とか言うなよ
ターミナル迫ってんだよ
一瞬だけ俺が嫌な顔をすると
「あー、また浮かない顔して」
はっ!バレてた
いかんいかん、今日はより濃い一日に
「いや、浮かなくはなかっただろ!」
「私にはわかるもん
ほら、こっち来てみ?」
まゆは俺の顔を自分の左胸に押し付ける
あわわわ、
なんてかっこさせるんだ!
ドクンッ!
ドクンッ!
ドクンッ!
……あ
「聞こえる?」
「うん」
まゆの心臓の音が聞こえる
まあ当たり前だよな、生きてるんだから
にしてもまたどこかで見た光景だな
「あははっ
まだまだ動くよ、この心臓は」
ずっーと動いていてくれ!
ドクドクッ!
ドクンッ!
ドクドクドクンッ!
ドクンッ!
え?
まゆの心臓がでたらめに脈を打ち出した
「あ、やばい不整脈」
「このタイミングでか!」
まゆの発作はこんな感じに頻繁に起きていた
いつどんな時でも身構えてないといけない
しかし
なぜか3日だけ発作が何も起きなかった
もしかしたら良くなったのかも
そんな風に考えていた
そしてその次の日
発作も何も起きない元気なまゆを見にお見舞いに行く
すげーな、発作が3日も起きないんだぜ?
ついに退院するかもな
俺は病室の扉を開ける
「あー!入ってきちゃダメ!」
まゆが慌てた様子で大声を出す
「ん?なんで?」
「いいから!外で待ってて、あと10分後くらいしたらまた来て!」
まゆはそう言って立ち上がり扉をドンッ!と閉める
おいおい、元気で何よりだよ
「もう、これじゃーテイク2だよ」
扉の奥から聞こえたまゆの声
テイク2?なんのことだ?
とりあえず俺は10分後くらいにまた病室の扉を開ける
「おはよー」
「おう」
今度はわりと落ち着いてる感じだ
なんだろうな?
「もう大丈夫なのか?」
「な、なんのことかしら?」
白々しすぎるのでとりあえずスルーしとこう
「てか、昨日も発作起きなかったね」
まゆに聞いてみると
「うん!私の潜在能力がそうさせたのかもね!」
なんだよそれ
って思ったけどまゆならありえるぞ
お昼になると
「なーんだ、またキャビアか、困ったもんだ」
まゆはピーマンを箸で持って何か言ってる
もう一度言おう
ピーマンを持ってキャビアと言っている
「何言ってんだ?」
「君もキャビア食べたいだろ?あげよう」
そう言ってまゆはピーマンを俺の顔によこしてきたが
「おいこら、病院食は栄養を考えて作られてるんだからちゃんと食え」
まゆに言うと
「だってピーマン苦いんだもん」
まゆはピーマンが苦手だった
だから俺にあげようとしてたんだろうけど
そうはさせないぞ
まゆの健康には厳しいぞ
その下手くそな小芝居は可愛かった
この日も1日発作が起きなかった
発作が起きないまま元気なまゆを見ると
もしかしたら治るかもしれない
そう思っていた
次の日
俺は可奈ちゃんと葉月と一緒に病院に向かう
その電車の中でのこと
「最近のまゆはどうなの?」
可奈ちゃんが聞いてくると
「めちゃくちゃ元気だよ
発作も何も起こらないし」
「そりゃすげーな!」
昨日も元気だったから今日も元気だろうな!
病室に行く
コンコンとノックしたけど
返事がない
寝てんのかな?
仕方なく静かに開けてみる
すると
「……あ……
りょ………ま……くん」
まゆの声がかすれて弱々しくなっている
その姿を見た瞬間俺は目の前が真っ白になった
……なんで………
「まゆ!?」
俺はまゆの元に急いで行くと
「ご…ごめんね
朝起きたら…こんな感じだったの」
「……なんで?」
「わからない」
明らかにまゆの様子がおかしかった
でも声がかすれてるだけだった
よくわからない
けど
「みんな…来てくれてありがとね」
まゆはまた笑顔でみんなに言った
「まゆ、無理しないでね?」
可奈ちゃんが冷静に言う
昨日までは本当に元気だったんだぞ?
それを知らないからそんなに冷静でいられるんだ
「まゆちゃんには俺達がついてるよ
また騒げるほど元気になれよー!」
葉月もまゆに言う
だから、昨日までは元気だったんだよ
可奈ちゃんと葉月は何も考えずに普通に話していた
でも俺はわかるはずのないことをいつまでも考えていた
昨日までは…ちゃんと元気だったんだ
深津先生が病室に入ってくる
「調子はどう?」
「……最高」
絶対に最高じゃないのにそうやって言うんだ
「うん…よかった
そしたら薬の量を減らしましょうか」
「………え?」
俺は思わず声が出る
なんで薬の量減らすんだ?
「わかった」
まゆはすぐに納得した
……なんでだよ
いつもまゆの調子が良くなるたびに嬉しそうだった深津先生なのに
薬の量を減らすのに意味はあるのかよ
良くなったから薬の量減らすのか?
でも今のまゆは昨日より元気ないぞ
なんで
なんでだよ
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