第12話・一生の幸せ
あの奇跡から次の日
俺は朝から病院に行った
清々しい朝はひさしぶり
学校は少し遅れてもいいかな?
まゆの病室に行くとぐっすりと寝ているまゆがいた
そんなまゆを見て俺は微笑む
またまゆの普通の寝顔が見れるなんてな
そして
「ん〜〜涼真君?
おはよー早いねー」
この世で1番大切なまゆが今日を迎えてくれる
「おはよ」
「あははっ」
まゆがニコッと笑う
か、かわいいー!笑顔かわいいー!
原点に戻った気がする
改めてまゆは可愛い
不思議といつも以上に笑ってるまゆ
どうしたんだ?
「涼真君」
やはりニコニコしてるまゆが俺の名前を呼ぶ
「ん?」
「ずっとね、涼真君の声がしたの
私がこうやって笑っていられるのも涼真君のおかげだよ
もうほんとに大好き」
俺の声届いてたんだ…
すげー嬉しいわ
毎日話しかけててよかった
「まゆが起きてくれてよかった
俺はそれだけでいいんだよ」
まゆは俺に抱きついてきて
「感謝感謝、ありがたやー」
こんな状況なのにいつも通りのまゆってすげーよな
俺もひと安心したところで
「よし、じゃあ学校行ってこようかな」
「えーーんーーいってらっしゃい」
なんだよ今のえーーは
「なに?」
「いってきますのちゅーは?」
か、かわいいかよ!!
俺はまたドキドキしながらまゆにキスをすると
「あははっ新婚さんみたいだね」
ずっきゅん!!
まゆの一言に俺は胸を撃ち抜かれる
「まゆさん?今の一言で俺の心臓止まりそうだったぞ?」
「お揃いだね!」
「お前は止まるな」
最高の気分で学校に向かう
学校に行くと
「おおい!可奈ちゃん!葉月!
まゆが目覚ましたぞー!」
「まじ!?」
可奈ちゃんと葉月にはしばらくお見舞いに来ないでほしいと言っていた
来ると泣くだけだからな
「ほんとに!?ほんとなの!?」
可奈ちゃんが飛びつくように笑顔で言うと
「可奈ちゃん、俺を奇跡を呼ぶ男と呼んでくれ」
「おっけ、化石を掘る男ね」
葉月がふざけたことを抜かす
「お前は黙ってろ」
「あ、そっか、涼真だから
ケツを掘るホモだな」
「誰がホモだ!」
久しぶりに突っ込んだな
「じゃあ、お見舞いに行ってもいいの?」
可奈ちゃんが嬉しそうに聞くと
「もちろん!」
というわけで
3人でお見舞いをすることにした
学校が終わり早速病院に向かう
病室の扉を開けると
「まゆー!」
可奈ちゃんが元気よくまゆに挨拶を交わす
「わー!!みんなー!」
まゆもそれに負けないくらい元気に手を振った
「よかったー顔色も良さそうだね」
「うん!全然平気だよ!」
可奈ちゃんがまゆの元気な姿を見て
本当に嬉しそうなのがよくわかる
俺も最高に嬉しいわ
「可奈も元気そうでよかったー」
まゆはいつでも笑顔だった
「すごいねまゆは…
いつでも笑顔で」
ほんとにすごいと思う
無意識のうちに笑顔になってるのなら尚更
みんなに好かれるのがよくわかる
「まゆちゃん!俺もニカッと笑うよ
ニカッ(*´▽`*葉)」
葉月が笑う
「おぉー!眩しい笑顔だねー!」
「だろ!涼真もニカッと笑うよな!」
「ニカッ(涼≧∇≦涼)」
「うん、涼真君の勝ち」
「なんだとー!?」
何気ないみんなとの会話
そんな平凡な会話がなんだか嬉しかった
もっと一緒に居たいな
そんな風に思えるのもまゆだからだ
みんなまゆが好きでかけがえのない人だからだ
まゆがずっと元気で居てほしい
そう願ってみるけど
あれから1ヶ月
夏本番になってきた
まゆの状態はたまに激しい痛みが走るらしい
その度にナースコールをして治療してもらい
なんとか生きている
1回死にかけたのに中々いい方向にいかない
それと同時に薬も多くなってくる
「ケホッケホッ」
発作でむせているのか
喉がカラカラになるような声で咳き込むまゆ
「大丈夫か?」
「うん、お水ちょうだい」
多分、まゆにとっては辛くない日なんてないだろう
最近では寝たきりの状態が続いている
起き上がるだけでも苦しくなるみたいだ
奇跡的に生きることは出来たけど
先が長くないのは変わらないのかな?
俺だって不安だ
だけど、俺が不安になってたら何もよくならない
だから無理してでも明るく振る舞う
「今日の葉月はすべってたなー」
「そうなの?」
「おう、まあ俺らが勝手にスルーしてるだけなんだけどね」
「えーそうなんだ!あははっ」
まゆの変わらない笑顔
そんなまゆだからきっと大丈夫、
そう思ってしまう
「ゆっくり深呼吸」
「い、痛い!はぁ…」
そんな笑顔のまゆが苦しそうにしてるのも
見ていて辛い
「まゆ頑張れ」
まゆの手を握る
まゆは痛みに耐えて力強く俺の手を握る
それが伝わるから悲しくなる
よくならないの一方向
でも
発作が落ち着くと
「はあー胸の痛み落ち着いたらお腹空いてきた」
「……まゆ」
俺はまゆの手をまた握る
「まゆ、辛くないのか?」
俺は時々心配になる
「なんで?」
何の気なしに首を傾げるまゆ
「毎日胸の痛み酷くて辛くないの?」
俺が聞くと
「辛くないよ?」
「……なんで?」
迷いなく辛くないって言えるその理由はなんだろ
まゆはまた笑顔になりながら
「痛みを乗り越えたらまたこうして涼真君と話せるじゃん
痛みは一瞬だけど、どんなに小さな幸せでも私には一生分の幸せなんだよ?」
まゆの言葉は本当によく俺の心に刺さる
何回も思うんだ、まゆにしかわからない幸せの価値が俺にも伝わってくる
そんな時でもまゆは笑顔だった
なんで辛そうな顔しないんだろ
だからこそまた俺はまゆを元気付ける
「くっそー」
「ん?どしたの?」
「まゆはなんでこんなに可愛いんだ」
「何急に?笑」
「1日3回は言わせてくれ」
「えー?私も何か言った方がいいの?」
「いや、無理に言わないでいいよ
まあ辛くなったら助けてー!涼真くーん!
って叫んでくれたら空飛んでいくわ」
「仮面ライダーみたいだね!」
「仮面ライダーは空飛ばないよ…」
数日後もまゆの状態はよくならない
頻繁に発作が起きるので退院は出来ないって言われてしまう
俺にとってもまゆにとっても絶望的な状態だ
こんな心の余裕がない俺に
看護婦さんとドクターが話している会話を聞いてしまう
それはまもりとまゆのお見舞いに行った時のこと
「1059号室の花沢さんかー」
「はい、小さい頃に入退院繰り返して今も入院中です
先天性心神経の進行速度が一気に上がっていますね」
「なるほど、心室細動の時に目が覚めたのは奇跡だったけど
そろそろターミナルを考えた方がいいかもな」
ターミナル?
なんだそれ?
「まゆの話ししてたよな?
ターミナルってなんだろうな?
映画の撮影かなんかか?」
軽い気持ちでまもりに言うと
「ばか!」
まもりは思い切り俺に怒鳴る
まもりは肩を震わせて
心にぽっかりと穴を開けることを言う
「ターミナルは、終末期。
亡くなる準備をすることだよ
もうすぐ死んじゃうってこと!」
「……な、なんだよそれ!」
終末期?亡くなる準備?
意味わかんねーよ!
まゆは今は状態悪いけどいつも元気じゃん
「私だって…何も起きて欲しくないよ」
まもりが泣きながら言った
入学当時のまゆの姿を思い浮かべる
『みんな仲良くだよねー』
『お、涼真君おはよー!』
『涼真君には好きって言ってほしくない』
『うん、ありがとー
私も好き』
まゆのあの可愛い声も
あの大きな瞳も
あの小さな体も
あの天然も
そしてあの笑顔も
まゆがいなくなるとそれも全部なくなる
考えたくもねーよ
俺はターミナルの事を引きずりながらも過ごしている
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