第11話・奇跡


そして俺は次の日もその次の日も

目を開けることのないまゆのお見舞いに行った


「まゆ、この間さ葉月と可奈ちゃんとでマックに行ったんだけど

まゆが居ないと美味しくないって話になってさ

やっぱまゆの笑顔はそこら辺が違うよね」


そのまた次の日も


「まゆ、現代文の小杉っているじゃん?

あいつ今日もチョーク折ってたぜ?

筆圧強すぎだよなー!」


また次の日も……


「まゆが元気になったらどこに行こうか

また遊園地行っちゃう?それともカラオケ?

退院祝いで俺が全部出すよ

早く…早く帰ってこいよ?」


俺は毎日まゆに話しかけていた

辛いのはわかってる

でも、俺がやらないとまゆは目を覚さない気がする

頼むから……目を覚ましてくれ


そして1週間が過ぎて


6月17日


まゆとの1周年の記念日になってしまった


いまだに目を開けないまゆ

呼吸も機械でしているだけ

そんなまゆに俺は何度でも話しかける


「まゆ、俺さ、一流大学に行こうと思うんだ!

レベル高すぎだけどまゆも応援してくれるか?」


なんて明るく話しかけてもきこえるはずがない

いつものように笑いながら頷いてくれるはずがない

俺はただ目を閉じてるまゆを見つめているだけ

こんな小さな話にもいつも興味津々に聞いてくれていた

まゆが居ないだけで

俺は壊れそうになった


「まゆ…」


俺はまゆの手を弱々しく握った


「まゆ、俺らさ今日1年記念日なんだよ

今は16時半、俺面会時間決まってるからあと1時間半しかいられないんだよ」


1年記念日ってめちゃくちゃ大事な記念日だと思っている

でも、そんなことは今はどうでもいい


「今日が終わったっていいよ

まゆが居てくれればそれでいい

俺はまゆを待ってるからさ

だから…目を開けてくれ

どこにも行かないで……

もっと笑顔を見せて、また笑ってくれよ!

なあ!まゆ!」


俺は涙をボロボロと流し

まゆの手を自分の頬に寄せた



ピクッ




「………」


え?


「………まゆ?」


ピクッ


「………動いた?」


今確かに手が動いた


「まゆ?聞こえるか?

聞こえたら手握ってみて」


俺はまゆの手を包み込むと

かなり弱くだけど握り返してくれた


「まゆ!」


まゆは半目を開けて

呼吸器がまゆの息で白くなった

呼吸してる……


まゆは手を震わせながら

俺の膝に手を置き

人差し指で何かを伝えるように文字をなぞる


(す?)


(き……)


まゆは俺の膝に"すき"となぞった

その後まゆは

小さな笑顔を見せてくれた

俺は泣きながらまゆの手をとって


「俺も好きだよ………」


俺とまゆは好きと言い合えた

俺がずっと見たかったまゆの笑顔が見れた

よかった……

本当によかった!


こうしているのも一瞬だけだ

深津先生を呼ばないと

急いで深津先生の元に走った


「深津先生!まゆが!まゆが目覚ましました!」


「えぇ!?ほんとに!?すぐ行く!」


小太りのおっちゃんが一生懸命に走って病室に向かう

そして


「まゆちゃん?聞こえたら手握って」


おいおい!まゆの手に触んなよ!

と言いたいところだったが命の恩人にそんなこと言えない


「ほんとだ、手握ってる」


深津先生は笑顔を見せた


「奇跡だ……

しばらく鎮静させて通常通り管理しましょう!」


深津先生は嬉しそうにまゆの手当をしていた

奇跡か…

俺が起こしたんだな

またまゆと一緒に居れるんだ!

本当によかった!



まゆside


なんか眠い…

いや、眠くない、

どっちだろう?

寒い気もするけど頭が働かない

辺りは青白くてへんな雰囲気

ここは天国かな?

まさかそんなわけないよね?

天国ってもっと明るいとこだもんね?

お花畑とか何もないもん


すると

急に後ろの方から眩しい光が指す

うわっ、なにこれ?

光の方を振り向いて見てみると

あれ??うそ???

なんで……?


前には


心臓病で亡くなったはずのお父さんが立っていた

なんでお父さんがここにいるの?

でも、会いたかった

私はお父さんの方に行こうとしたけど


「……な」


ん?


お父さんは何か言っていた

聞き取れないからもうちょっと近づいてみる


「……向くな」


わかんない

また近づいてみると


「振り向くな!」


やっと聞こえた

何が?

よくわかんない


「前向いて走れ!」


な、なんで?

前ってどっち?お父さんの方?


「これ以上来るな!」


そっちに行っちゃダメなの?


「生きろ!まゆ!」


お父さん……ごめんね

久しぶりに会えたけど

私、やっぱ生きていたい

私はお父さんに言われた通り前を向いて走る

前を向いて走ると


「まゆ……」


涼真君の声が聞こえる


「まゆ……!」


私はここにいるよ


「また笑顔を見せてくれよ!」


待っててね、涼真君

私、涼真君に好きって伝えるから!

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