第8話・本当の始まり


そして、2週間後

俺たちは林間学校に行く


「おっしゃー!涼真と寝泊まりだー!」


「気持ち悪いこと言うな」


バスの中でもやはりうるさい葉月に俺は思わずツッコミを入れる


「ねえねえ涼真君」


バスで俺の後ろに座っていた可奈ちゃんが俺の肩を叩く


「ん?なに?」


振り返ると


「まゆがいなくても楽しくやろうね」


と言ってくれた

いい子かよ!いい子なのかよ!間違いなくいい子だ!

現地に着くとさらにまたうるさくなる

ホテルで荷物を置き、自由行動になると


「おい!葉月あそこ見ろよ!ラブホあるぞ!」


「おぉー!後で可奈ちゃんと行こうかな」


「いや、やめて本当に」


可奈ちゃんは嫌な顔を浮かべるが

冗談だとわかってるので笑っていた


「あのじじい禿げてんじゃん!」


「おい、でかい声で禿げとか言うな!」


「ねえ、2人とも声大きい……」


いやー楽しむってこういうことだろう

まゆがいないのは本当に残念だったけど

今笑ってる俺たちを見てまゆも笑ってくれるんだろうな


まゆに電話をしてみる

ワンコールで出た


「もしもしまゆ?」


『はーい!』


「今現地に着いて楽しくやってるよ」


『ほんとにー??よかった~』


そう言ってるまゆは笑顔なんだろうなー

電話越しでもわかる

なぜなら俺は超音波を使えるから

間違えた超能力

それからまゆと五分くらい話した


「じゃあまた電話するわ」


『うん、わざわざありがとね!』


「うん!じゃあまた」


電話を切ると


「よーらすふぉえーばーひーとみーをとーじてー」


「やめろー!」


葉月がニヤニヤしながら恋愛ソングを歌い出す

電話ぐらいで何を大袈裟な

しかも恋愛ソングと言ってもあれは永遠の別れの歌だしな

縁起悪いことすんな


自由行動も終わりホテルに戻る


「はあーいいもんだなーこういうのも」


俺はくつろぎながら言う

他の男子達も一緒に居る

そしてこういうのになると

あれが始まる

コンコンとノックする音が聞こえて

開けてみると


「おおー!!」


「どーもー!」


女子達が5人くらいで部屋にきた

いやっほー!女子だー!


ってなんでテンション上がってるの涼真君

いや、浮気なんてしないから大丈夫だよ

そういう問題じゃなくてテンション上がってることについて聞きたいのだが

女子が来るのにテンション上がらない方がおかしいぞ

さいてー大嫌い

なんとでも言えまゆじゃなきゃ痛くも痒くもないわ


このグループには可奈ちゃんがは居ないみたいだ

ぶっちゃけ可奈ちゃんが居てくれた方が俺らは楽しめたんだけどまあいいか


「へいへいへーい!どうもー!ってことは何か用事があって来たんじゃないかねベイビーたち?

んー?言ってごらん?あはーん?言わせてあげない」


葉月がそう言うと女子達は笑う

こういうキャラはモテそうでいいよな

なんで彼女作らないんだろ?


「実はね、話があってきたの」


話?あー話ね

こういう時の話って大体察しがつくよな


「葉月君」


同じクラスのゆかりちゃんが葉月を呼ぶ

おぉーきたきた

葉月は呼ばれて立ち上がりゆかりちゃんに近づく


「どうした?」


葉月がそう聞くと


「私、葉月君が好き!」


ほおら見ろ!

泊まりの行事でよくある告白タイムってやつだ

てか初日に告白ってだいぶ気まずくね?

そして葉月の答えは


「ごめん無理」


断っていた

葉月は意外とモテるのになぜか誰とも付き合おうとしない

なんなんだろーな?


「そっか、スッキリした」


それでスッキリすんのかい

まあ告白タイムは1回じゃないだろう


次は誰だ?

楽しくなっている俺がいる


「涼真君」


「よーし!涼真君いけー!

……え?俺?」


これまた同じクラスのひかりちゃんが俺の名前を呼んだ

え?ひかりちゃん、俺がまゆと付き合ってるの知ってるよね?

なんで??

俺はきょとんと顔して前に出る

ひかりちゃんは俺の目を真っ直ぐに見て

躊躇無く言った


「まゆと別れたら私と付き合って」


「……は?」


……いや。何言ってんだ?


「俺は別れねーぞ?」


「ううん、もし別れたらでいいから」


「別れねーってば」


「違う、何年後でもいいから」


な、なんだ?こいつ

わがまま過ぎやしねーか?


「俺とまゆは本当に別れないぞ?」


別れる以前の問題だってあるんだよ……


「じゃあ、2番目でもいいから、お願い」


……俺こいつ嫌いだわ


「言ってんだろ、もしまゆと別れても別れなくても

お前とは付き合う予定ない」


「そ、そんなひどいこと言わないでよ」


まだ言うのかこいつ

そろそろ俺もキレそうになって

ムッと顔をした時だった


「もういいんじゃね?帰れよ」


葉月がひかりちゃんに向けて言う


「無理だよここで引き下がるわけにはいかないんだから」


「帰れって言ってんのが聞こえねーのか?」


葉月が睨みながらめちゃくちゃ怖いトーンで言う

すると女子達もビビったのかわからないが

すぐに帰ってしまった

これは当然の結果だよな


「葉月やるじゃんか!」


「あぁ、ビッチはくたばればいい」


葉月はたまに頼りになるんだな

ほんとにたまーーにな


そして最終日


「よっしゃ!じゃあ終わったらまゆちゃんの家に行こう!」


バスの中でまた騒ぐ葉月


「いいねー!まゆも喜びそうだね!」


可奈ちゃんも賛同する

まあみんなが楽しんでくれればいいってまゆも言ってたしな

電話でもしてみようかな

バスの中でまゆに電話をする


「もしもし?まゆ?」


『もしも…し』


ん?なんか今、間があったような


「体調大丈夫か?」


『うん!平気だよ!喘息になったくらいかな?』


喘息でも怖いんだけどな


「そっか、終わったらみんなでまゆの家に行っていい?

めっちゃテンション高くて申し訳ないけど」


『ほんとにー??じゃあ待ってるよ』


「そしたら向かうね」


『わかったバイバイ』


ん?

無理矢理切られた気がする

なんだ?まあいっか

バスは学校に向かう

2時間もすると学校に着き

電車でまゆの家に行く


「家に帰るまでが林間学校だ!

だから俺らが家に帰るまではまゆちゃんも林間学校中だよな!」


葉月がまたわけわからないことを言う


「近所迷惑だからやめて」


可奈ちゃんが葉月に注意すると


「いけずーーー」


葉月が気持ち悪い声を出して言った

まゆ大丈夫かな?

あまりいい予感がしなかったけど

まゆの家に着き

まゆの家のインターホンを押す


ガチャっと玄関が開く

そこにはまゆが居た


「まゆー!久しぶりー!」


可奈ちゃんが第一声を言う

しかし

まゆは両手で玄関のドアノブを握りしめ

下を向いていた

髪の毛で表情は見えない


「まゆ?」


俺が声をかけると

まゆは顔を上げた

そしていつもの笑顔が見える


「みんな…久しぶり….だね」


その笑顔とは裏腹に

まゆの額には汗が大量に出ているのに俺は気がついた


「まゆ!?」


俺が急いで駆けつけると


「…….はぁ……はぁ……」


まゆは激しく息を切らしていた


「ま、まゆ!?大丈夫か!?」


俺がまゆの肩を掴むと

まゆはその場で倒れた


や、やべえぞこれ!


「ど、どうしたんだよまゆちゃん!」


葉月が動揺を隠せないみたいだ

でも今はこんなことしてる場合じゃない


「葉月!救急車呼んで!」


「いや、待てよ、なんでまゆちゃんが急に…!?」


「早くしろ!」


葉月、まゆが倒れるとこ初めて見たのか

結局救急車を呼んだのは可奈ちゃんだった

俺らも一緒に救急車に乗る

まゆのお母さんには俺が連絡をして急いで来ると言っていた


病院に着くと

まゆの緊急手術が行われた

前は身体の状態が良いから手術をしたけど

今回はそうじゃない

悪化したから手術をしたんだと俺でもわかる


しばらくすると


「涼真君!」


まゆのお母さんが来てくれた


「あ、どうも」


今はふざけて挨拶をしてる場合じゃないから普通に挨拶する


「ごめんね、仕事が入ってたから

…まゆは?今どうしてるの!?」


まゆのお母さんは優しそうな笑顔を浮かべながらも心配そうな眼差しで聞いてくる


「今、緊急手術してます」


「……そっか」


まゆのお母さんも椅子に腰をかけるが


「花沢さんですか?」


と看護婦さんが来た


「はい」


「花沢まゆさんの事でお話がありますので

診察室まで来てください」


看護婦さんに案内されて来た所は

機械とかがいっぱいおいてある診察室だった

そこに全員で入ると

深津先生ではない人が座って待っていた

まゆのお母さんも座る

するとその先生はこう言ってきた


「まゆさんの心筋炎が悪化しました。」


重い言葉だった


「しかも、今回は劇症状態なので

かなり危険です」


俺は忘れてなかった

心筋炎が劇症すると

死ぬかもしれないってことを


「それって、命に危険があるんじゃ……」


まゆのお母さんがちょうど聞く


「はい、十分にありえますね」


「そんな……」


まゆのお母さんは言葉にならない声を出して顔を手で押さえた


「まゆさんの頑張りにかけましょう」


診察室から出てまた待合に座る


「おい、涼真、これはなんなんだよ」


隣に座っていた葉月が声を震わせて言っていた


「言えよ!

心臓が弱いだけじゃなかったのかよ!

死ぬかもしれないってどういうことだよ!」


葉月には何も伝えてなかった

変に心配させちゃ悪いと思っていたから


でも、それは葉月にとってあまり嬉しくないことだよな

だからこそ罪悪感が出てくる


「ごめん、葉月、隠してたわけじゃないんだ

でも、まゆが手術してからびっくりするくらい調子がよかったから

まさかこうなるなんて」


「……もう、わけわかんねーよ」


葉月は椅子に座って腕を組んで俯く

葉月には後で説明しとこう


あとはこのまま、まゆに何も無いことを祈って

頼む…無事でいてくれ!


「涼真君、ちょっといい?」


まゆのお母さんが俺の隣に座る


「……はい」


「こんなとこでこんな事言うのも変なんだけどね

10年前に、夫が心筋梗塞で亡くなってるの」


そうだったんだ

通りでお父さんの姿を見たことないわけだ


「……でもね…まゆは、その頃から心臓が悪くて

泣きたいのに泣けないくらい辛かったはずなのに

まゆは今でもこう言ってくれるの」


まゆのお母さんは涙を浮かべながら言った


「お母さん、生んでくれてありがとうって」


その言葉を聞くと

俺も泣きそうになってくる

まゆは本当に凄いんだな

色んな人に感謝出来る

幸せを感じてる

こんなに辛いのにまゆは

今を精一杯生きてるんだ


「だから涼真君も、まゆを幸せにしてあげてね」


「……はい、わかりました」


まゆの手術が始まってから4時間が経つ


そして

深津先生が出てきた

その瞬間まゆのお母さんは急いで深津先生の元に駆け寄る


「深津先生、まゆは!?」


「お母さん、安心してください

まゆちゃんの一命は取り留めました」


一命は取り留めた

ってことは


「まゆちゃんは無事です

本当によく頑張りましたよ」


本当によかった


「うぅぅ……まゆ…」


可奈ちゃんも号泣しながらまゆの名前を呼ぶ

1度ICUに入ってまゆの姿を見る

酸素マスクをして目を閉じてるまゆを見る

点滴も何本も繋げられている

ICU初めて入ったけどいかついな


眠ったままのまゆの頭を撫でる


「まゆ、お前はまだ生きてるよ」


まだまだまゆと生きていられる

そんな喜びがあるから

まゆと一緒に居たくなる


「みんな、林間学校で疲れてるでしょ?

もう遅い時間だし帰って早く寝な?」


まゆのお母さんがニコッと笑って言う

確かにその方がいいな

なんせ寝てないからな

とりあえず一旦帰ることにして

今日までの疲れを取るために睡眠を十分に取ることにした

あー目を閉じるとまゆの笑顔が浮かんでくるな

このまま夢にまで出てきそうだ



まゆside


涼真君達が林間学校に行ってる間

私は自宅療養で安静にしている

三日間だけだけど会えなくて寂しいなー

なんて思っていた時


ケータイが鳴る

涼真君からだった

私は急いで電話に出ると


『もしもし?まゆ?』


「はーい!」


涼真君の声だ!

なんだか落ち着くなー


『今現地に着いて楽しくやってるよ』


「本当にー??よかったー」


楽しくやることが大事だよね

すごく安心していたけど

なんだろ?気のせいだといいな

胸が苦しいような気がする

でも気にしないし薬も毎日飲んでるから大丈夫っしょ!


2日後

朝から目眩がする

今日涼真君達が帰ってくるのに

お母さんは仕事に行って

私は自宅で待機してたけど胸に痛みが走る

でもこんな時にまた電話が鳴る

涼真君からだった


『もしもし?まゆ?』


涼真君の声を聞くとやっぱ落ち着く


「もしも…し」


でも胸が痛くて声が震える


『体調大丈夫か?』


そんなことを聞かれると私も強がってしまう


「うん!平気だよ!喘息になったくらいかな?」


本当はもう耐えられないくらい

胸に激痛が走ってる


『そっか、終わったらみんなでまゆの家に行っていい?

めっちゃテンション高くて申し訳ないけど』


ドクンッ!ドクンッ!


胸が痛い……


「ほんとにー??待ってるよ」


『うん、そしたら向かうね』


ドクンッ!ドクンッ!


もう無理!!


「わかったバイバイ」


無理矢理電話を切った

これ以上続くとバレちゃいそうだから


電話が終わったからどのくらい経ったんだろう


「はぁ……はぁ……はぁ」


もう立っていられない

今救急車呼んだら…みんなに会えなくなる


「はぁ……はぁ……っ!!」


もう限界…

ごめんみんな…

もう無理!


ピンポーン


無理だと思った瞬間に

家のインターホンが鳴った

…きっとみんなだ

そう思うと何故か一瞬だけ痛みがやわらいだ

歩いて玄関まで行けた

ドアを開けると


「まゆー!久しぶりー!」


可奈の元気な声がする

視界はもう真っ暗

でも私もみんなと同じくらい元気でいないと


「みんな同じだよね…久しぶりだね…」


みんなに会えて嬉しかった

みんなの楽しそうな顔見れるだけで

私は幸せだよ


でもここから記憶はない

パッと目を開けると

ICUに居た

なんかこの部屋久しぶりだなー

横を見るとお母さんが居た

あれ?みんなは?

私はキョロキョロと辺りを見回すと


「あ、みんなね、疲れて帰っちゃったよ

まゆのこと心配してたよ?」


そうなんだ

心配かけさせちゃって申し訳ないなー

てかさすがお母さん!

私が声出さないのに伝わってる!


……あれ?

声が出ない!なんで!?

私は看護師さんにジェスチャーで伝えると


「あ、喉に管が入ってるからしばらく声は出せないよ?

後で先生に取り除いてもらいましょうね」


な、なんだそれー!!

こんなんじゃ学校に行けないよ


でも

私は負けないよ

こんな病気になんて負けない

絶対にみんなとずっと一緒にいるもんね!


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