第6話・手術


まゆside


素敵な誕生日パーティが終わった次の日

私はなぜか悲しくなる

今はこんなに元気なのにもう来年には私は死んでるかも知れないから

はあーそんなこと考えてもきりがないから何でもいいんだけどね

常に死と隣り合わせみたいなもんだし開き直ってる

夏休みに入った事だし

ゆっくり休もうかな

なんて考えてる時に

ケータイが鳴り出す


涼真君かな?

なんてウキウキしながらケータイを見ると

深津先生からの電話だった


なーんか嫌な予感

私は嫌々電話に出る


「もしもし?」


『もしもし?まゆちゃんですか?』


深津先生の声だ


「まゆだけど、どうしたの?」


『いやぁー…ははっ

少しゆっくり話さないといけないことがあってね

とりあえず先に言っておくけど

この8月の期間は入院してほしいんだ

もちろんまゆちゃんのお母さんにもこの事は言ってある』


「また入院すんのー?もー何回目なのー!」


『君は生きるために入退院が必須だからね

予定がない時、今からでも大丈夫だから病院まで来てもらえるかな?

とっても大事なことがあるんだ』


「えーめんどくさいなー」


『そう言わずに』


深津先生は私のお父さんみたいなもんだからついつい甘えたこと言っちゃうんだよね


「わかったよー今から行くね?」


『うん、ありがとう。待ってるからね』


私は電話を切ってすぐに支度をする


なんとなく何言われるかわかってるけど病院に行った

深津先生がいる診断室に入る


「おおーまゆちゃんこんにちは」


深津先生がニコニコと挨拶をしてくれるから


「こんにちはー」


私も笑顔で返す

荷物を置いて椅子に座る


「どう?体調は」


深津先生は色んな資料を並べながら私に聞いた


「上の上ってとこかな?」


得意気に言うと


「ははっ!さすがまゆちゃんだね!

じゃあとりあえず健康状態チェックしてもいい?」


ほほーん健康状態から?


「……うん」


やっぱりそうなのかな

健康状態のチェックが終わると


「うん、異常なし!

心筋炎になってから何か変わったこととかある」


「んー?喘息くらいかな?」


「そっか」


なーんか企んでる

私にはわかるんだからね?


「深津先生?私になんか重大なこと言わないといけないんでしょ?

早く言ってよ」


と私は深津先生を急かす


「……そうだね、

あんまりもったいぶっても仕方ないよね」


目が笑ってない!

こっわ!

そして深津先生はこう言う


「手術する?」


で、出たー!!

やっぱり!!


「やだよ!」


手術は嫌だ!

前にも何回か言われたけどほんとにやだぁー!


「まゆちゃん?手術すればもっと長く生きられるんだよ?」


「だってさ、手術してもいつ心筋梗塞で死んじゃうかわかんないでしょ?変わんないよ」


「でも、その分絶対良くなるはずだよ

高校卒業まで……いや、20歳まで生きられるはずだよ?」


「やだ!」


「ほら、運動も、卓球くらいなら出来るよ?」


「卓球なんかやらないもん!」


「なんでよ、卓球楽しいよ?」


「それ深津先生の趣味でしょ?」


私は頑なに断る


「何が嫌なの?」


深津先生が困ったように優しく聞くと

私は胸の内を話すことにする


「単純に怖いし胸に跡残るし」


私がそう言うと

深津先生は困った顔でニコッと笑って


「理由がそれじゃああんまり意味が無いよ

怖くてもやらないと長く生きられないんだよ?」


「そうだけど」


「彼氏さんと長く一緒に居たいと思わない?」


「……それは…もちろん一緒に居たいけど」


深津先生は私のこと理解してくれてるからか

1番痛いところを突いてくる


「どう?あと8ヶ月くらいでしか生きられないのと

手術してもっと長く生きるの」


「……うん」


涼真君のことを考えると

もっと一緒に居たい

今のままだと死ぬ3か月前くらいには入院してただ死ぬのを待ってるだけだし

確かに手術した方がいいのかな


「まあでも、僕がこんなに手術をおすすめするのも

まゆちゃんがいつも元気で居てくれるからもっと長生きしてもらいたいと思って言ってるわけであって絶対にしろなんて言わない

だからもし怖いのなら誰かに相談してみてもいいんじゃないかな?」


誰かにか……

深津先生も意地悪だね

そんなの1人しかいないじゃん



私は昔から憧れてたことがあった

病気もあって子供の頃から入院してたから小学校の時とかはほとんど病院にいた

先天性心神経っていう病気は子供の頃がピークで小学生にならないで亡くなる事が多くて私みたいに高校生になるなんて1割もいないらしい

高校生になればだんだんと身体も少し落ち着くからそのタイミングで手術をするみたい

それくらい怖い病気なんだけど私は怖くなかった


なんでかって私には何も失うものがないから

もちろんお母さんも大事だよ

お父さんは私が小さい頃に亡くなっちゃったけど

私が死んで悲しむ人はいるかもしれない

でもね、私は元々死ぬ運命だってわかってる

明日突然死ぬかもしれないってわかってる

だから私は私が死んでも離れたくない人はいなかった


けど、私が高校入学してすぐに涼真君と出会って

発作が起きた時に必死になって助けてくれたのすごく覚えてる

昔から憧れてたことってこういうことなんだ

心臓発作じゃない胸の痛み

心地良くてとっても暖かくなるような気分


私は昔から恋をしてみたかった

小学校、中学校の頃はずっと病院にいたし恋なんて出来なかった

でも私は1割も生きられないこの病気と闘って高校生になれた

身体もだんだん楽になってきたし学校にも通える

だから私は涼真君に恋することが出来て嬉しいの

運命って言ったら変な綺麗事かもしれないけどね

でも運命だと思ってる

今この時を生きて私が死なないでずっと誰かと一緒に居たい

そう思えたのは涼真君が初めて

失いたくない、離れたくないと思えたのは涼真君が初めてだよ

手術…受けてみようかな……




涼真side


まゆの誕生日パーティが終わった次の日

バイトをしていたわけだけど夏休みなだけあって割と忙しかった

まあでも稼ぎ時だししょうがないよな

朝の10時から働いて5時にあがる

バイトが終わってふとケータイを見てみると

まゆからLINEが入っていた

なんだろう?

とLINEを開いてみると


【ごめんね、ちょっと話があるから会えない?】


と書かれていた

なんだ?

あまりいい予感がしなかったけど

とりあえず返信する


【どこに行けばいい?】


【私の家!】


【おっけー!】


また何かあるんじゃないかと心配しながらまゆの家に向かう


まゆの家に着き家に入る


「今日もバイトお疲れ様」


まゆにそんなこと言われると一気に疲れが吹き飛んだ


「ありがとー

んで?話って何?」


俺がそう言うと

まゆは間髪入れずに


「んーとね、私手術するっ」


「えぇ!?」


手術?

そういや深津先生とまゆのお母さんがそんな話してたな


「手術ってやっぱ必要なのか?」


動揺を隠せずに聞く

あの時はあんまり詳しく聞かなかったけど

手術ってことは悪化したからなのか?


「うん、でも悪くなったから手術するわけじゃないよ?

悪くならないように手術するの」


そ、そうなのか?

ならよかったけど、


「私もね、本当は手術なんてするもんか!って思ってたんだけど

涼真君と一緒に居れる日があと数ヶ月だって思うと寂しいからね」


……そうなのか

嬉しいけどまゆが居なくなるなんて考えられない


「手術すると治るの?」


俺はなんとなく重たい胸を軽くするように深呼吸してから聞いた

しかしまゆはこう言う


「治らないよ

心臓移植しか治る方法ないもん」


「……そっか」


手術しても治らないのか

長くいれるとしてもずっと一緒に居れるかはわからない

なんだそれ

そう思ってる時だった

まゆが急に俺に抱きついてくる

まゆの匂いに包まれる俺はドキッとしながらも冷静に言えた言葉が


「どうしたの?」


これしか言えなかった


「……もっと、涼真君と思い出いっぱい作りたい

でも、手術怖いから本当はしたくない」


いつも強く元気なまゆが吐いた弱音だった


「まゆ…」


俺が顔を近づけるとまゆはそっと目を閉じる

口と口を重ねて

ゆっくりと離すと俺はまゆを抱きしめる


「確かに怖いよな

でも、俺もまゆともっと一緒に居たいよ

だから手術頑張ってほしい。

怖くなったら俺を思い出して笑ってくれ」


手術って相当勇気いるよな

その壁にぶち当たってるわけだし

勇気づけるしかないな

するとまゆはクスクスと笑って


「うん、涼真君思い出して笑うね

だって涼真君の顔って面白いもんね」


……へ?


「こ、こらー!おちょくりやがったな!」


勇気づけたのによー!

俺はムカついたからまゆの脇腹をくすぐる


「あっはっはっは!ごめんて!」


「もう言わない?」


「もう言いません!!」


まあ俺とまゆなんてこんなもんだよな

少し真剣な話したと思いきやこうなるからな

でもこれでまゆが手術してくれるなら全然いいよ

治るわけじゃないってわかってるけど

でも少しでも長く居たいのは俺も同じだ

まゆ、一緒に頑張ろうな



まゆside


8月に入って私は入院をすることになった

理由はこの夏休みの期間で手術をして病院で安静にしていないとダメだから

退屈なんだよなー入院って

もう何回入院したかわからない

それは今後変わらないからいいんだけど


手術かー

涼真君に言ってもらえた言葉がすごく嬉しかったなー

頑張れとか、大丈夫!とかじゃなくて


『俺もまゆともっと一緒に居たい』


そう言ってくれたのが嬉しかった

真っ直ぐなところが本当に好き

私って幸せ者だなー


なんて思ってる最中


「まゆちゃん、じゃあ行こうか」


深津先生に呼ばれて私は病室のベットから降りて

手術室に入る

こ、こわ!

機械がいっぱいある


「じゃあ上がって」


涼真君からもらった首元のネックレスも外されて

自分から手術台に上がる

こ、こんなの自殺するみたいじゃん!

今から体切られるんだよ??

死んだな私

いつか死ぬけどね


「まゆちゃん僕の声聞こえる?」


深津先生が私に言う


「もう何も聞きたくありません」


「あははは、緊張しなくていいからね、

じゃあ麻酔してくよ?」


チクッと腕を刺される


「まゆちゃん……ゃん………」


深津先生の声が遠くなる

それからどのくらい経ったんだろう?

気づいたら薄暗い部屋のベットで寝ていた

どこここ??

霊安室じゃないよね?


するとドアがガラガラと開く音が聞こえる

何回か見たことあるナースさんが入ってきた


「お疲れ様」


「手術終わったの?」


「終わったよ」


もう終わったんだ

早かったなー

記憶ないだけだけど


「今日はあんまり喋らない方がいいよ

痛み感じることあるから」


そんな事聞くと余計喋りたくなるけど

んーー我慢しよっと

こういうのがあるから入院は退屈なんだよー


「はあー」


ため息をした瞬間


「うぎっ!!」


胸に激痛が走った


「あ、こら、深呼吸しちゃダメだよ?」


深呼吸じゃないよ!ため息だよ!

ため息吐くと幸せが逃げるっていうけど

ため息吐くと激痛が走るのね


夏休みの間はみんなお見舞いに来てくれたり

ちょっと外出許可もらって涼真君と出かけたりしていた

手術もしたし

かなり順調に毎日過ごせそうだなー

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