第4話・スタート!


そして

6月17日、日曜日

ついにこの日がやってきた!

俺は駅でまゆちゃんを待っていた

あーー緊張してきたなーー

15分前に来てしまった

早すぎだと思っていたが

遠くからやたら可愛い子が走ってきた

あれは?ひょってして?


「涼真くーん!」


あれは間違いない!

まゆちゃんだ!!

服装が鬼かわいい

初夏の暑さを防ぐような帽子も着用していて

つまり、そのー鬼かわいい!


「ごめんね、待った?」


「いや?早く来すぎたんだよね

そしたらちょうどまゆちゃんも来たから良かったわ」


「そーなんだ!偶然だね!」


同じ気持ちでいてくれればいいんだけどな

俺は緊張で早く来てしまっただけ

まゆちゃんもそうであってほしいな


早速電車に乗り遊園地に着く


「おおーー!!遊園地だぁーー!」


園内では陽気な音楽が流れている

遊園地デートの気分をめちゃくちゃ上げてくれている気がする


「おいおい、はしゃぎすぎるなよ?」


俺はそんなまゆちゃんを微笑ましく見ている


「大丈夫だよーーーっ!」


と言いながら走り回るまゆちゃんだったが


ドテー!!


まゆちゃんは盛大にコケた


「はっはっはっはー!何してんだよー!笑」


「うーー痛いー」


「心臓以外で病院に行くなんて嫌だぞ?」


「行かないもん」


あー俺は幸せ者だ

もう既に楽しくなってる


「ほらーぐるぐる回るよー」


コーヒーカップに乗り


「すごーい!はやー!!」


ジェットコースター

お化け屋敷

観覧車

時間が許す限り楽しいところは全部乗った

何よりもまゆちゃんが楽しそうなのが一番嬉しかった


そして

遊園地も終わり

この間行った公園のベンチに座る

こんなにも楽しいなんて

まゆちゃんじゃなきゃそうは思えなかった


「はあーー楽しかったねー」


「ほんとだな」


少し暗くなってきたからか若干涼しくなってくる


「涼真君、今日はありがとね」


また笑顔でまゆちゃんは言う


「いや、こっちこそ誘ってくれてありがとー」


そういえば動物園の代わりみたいので今日の遊園地が始まったんだよな?

だとしたら

動物園の時にやり残したこと今やっておかないと

確かにあの時は逃げようとしたけど

もう俺は逃げないぞ


「まゆちゃん」


いつも以上に真剣な顔つきで見つめながら言うと


「ん?」


とキョトンとさせるまゆちゃん

今日なら大丈夫だ

張り裂けそうな胸を必死に抑えて俺は言う


「俺、まゆちゃんのこと、好きなんだよね」


「……ほんと?」


言ってしまった


「……ほんとだよ、本気で好きだ」


「………」


下を向いて俯くまゆちゃん

俺も何も言えずにただ返事を待っていると


「なんか、発作じゃない胸の痛みって怖いよね」


まゆちゃんは声のトーンを低くさせて言う

いつもとは違ってまゆちゃんも真剣だった


そして


「………私も、涼真君が好きだよ」


そう言われた瞬間

俺の心臓が飛び出た気がした

俺は信じられないと思いながらも


「ほんと?」


逆に聞き返した


「………うそ」


「え?」


「ごめん、やっぱうそ」


「ど、どういうことだよ」


まゆちゃんはなぜか声を震わせて言い出した

俺が目を大きくさせて言うと


「………涼真君には、私を好きって言って欲しくない」


まゆちゃんは今にもこぼれそうな涙を浮かべて言った


「……どうして?」


「好きなんて言われたら私は涼真君と付き合いたいと思っちゃう

でも、私は相当重荷にしかならないし

だからこそ、……つらいし怖いよ」


まゆちゃんの胸の内は知らないけど

俺はそんなことどうでもよかった


「そんな事言うなよ、

2人で乗り越えようよ

俺、まゆちゃんのこと好きなんだからさ」


俺はもう一度好きという言葉を言う


「嬉しいけど……辛い」


顔を歪ませてまゆちゃんは言った


「何が辛いの?」


俺が言うと

まゆちゃんは口を噛み締めて

こぼれそうだった涙を流して

俺にこう言った




「私、手術しないと9ヶ月しか生きていけないの」



「………え?」


衝撃的な事実だった

9ヶ月?生きてられない?

どういうことなんだ?

心臓が弱いってそういうことなのか?


「そんなに心臓が悪いのか…?」


「うん、多分聞いたことないと思うけど

先天性心神経っていう生まれつきの病気で

色んな心臓病にかかりやすくなる病気なの

手術無しじゃ20歳まで絶対に生きてられない重い心臓病なんだよ」


色んな心臓病?

何一つわからないことに戸惑いを隠せない

そこまで重い病気だと思ってなかった

また俺はまゆちゃんに何もしてあげられないのか……


でも

俺はそれでもまゆちゃんと一緒に居たかった

好きと言ってもらえたから

何よりも俺が好きだから

たったそれだけの理由だ


「まゆちゃん、いや、まゆ」


もう両思いだし

呼び捨てでもいいよな


「ごめん、こうしてていいかな?」


俺はまゆをそっと抱きしめる


「………あったかい」


まゆも俺の背中に手を回した


「まゆは病気の事だけ考えていてほしい

その分俺は、まゆの事だけを考えるから」


「どうして?」


「まゆってさ、そんな宣告受けても

今日の笑顔見てたら本当に宣告受けたのかな?って疑っちゃうくらい明るいんだよ

なんでこんなに強いんだろうっていつも元気もらえるんだよ

だから、俺はまゆとならどんなことでも乗り越えられる気がするんだ」


「………うん」


「俺はまゆとずっと一緒に笑っていたい

辛い時もずっと一緒に居たい

だから、もう一度言ってもいいかな?」


「………うん」


「好きだよ、もう辛くなるなんて言わないでくれ」


「うん、ありがとー

私も好き」


俺とまゆは体を寄せ合い抱き合う

いつも元気だったまゆからは想像出来ないほどの事実を知ったけど

絶対に離れることはない

絶対に切れることのない糸が

今結ばれた


次の日


「「えええーーーー!!!」」


可奈ちゃんと葉月がハモるように声を上げる

放課後、いつもの4人で少しだけ時間をもらって話した


「今なんて言った!?もう1回言え!」


葉月は俺の肩をガシッと掴んで威圧的な顔をして言った


「だから、俺とまゆが付き合うことになった」


「2回も言うなーー!!!」


葉月はそんなことを言いながらも笑いながら俺の頭を叩いた

多分だけどおめでとうと言ってる


「ええーーまゆと涼真君ついに付き合ったんだー」


察しのいい可奈ちゃんは俺とまゆに拍手を送る


「おかげさまでー」


まゆは可奈ちゃんに抱きつき背中を擦る


「おおーーいいこいいこ」


子供と親じゃねーんだからよ


「そうだ!葉月君と可奈もこの後マック行こうよ!」


とまゆはまたキラキラとした笑顔を見せると


「お?いいのか?邪魔しかしねぇぞ?」


と葉月が一言

邪魔はしないでくれ


「うん!どんどん邪魔してね!」


とまゆが返す

それはダメだろ!

と思いながらも俺らはマックに寄る


そして席に座り


「葉月君と可奈にも言わないとダメだね」


まゆは真剣な眼差しで2人を見る


「私もしかしたら半年後くらいに入院するかもしれない」


かなり遠回しに言った

まあ何があるかわからないしな


「まゆの心臓そんなに悪いの?」


可奈ちゃんも俺と同じような反応をすると


「大丈夫だよ、たまーーーにこういうのがあるだけだから」


まゆがまた笑顔を見せると可奈ちゃんは納得してしまう


「そっか、涼真君しっかりしてそうだからね」


可奈ちゃん、見る目がいいね

俺はまゆと共に生きるぜ☆


「まあ俺と可奈ちゃんの任務が完了したことだし

涼真からポテトぐらい奢られてやってもいいぞ」


葉月は腕を組み偉そうに言った

なんか腑に落ちないけど可奈ちゃんと葉月にポテトを渡した


そして

まゆの余命もちゃくちゃくと近づいてきているためか

また大きな出来事が起きてしまう


2週間が経ったある日の日曜日

その日はまゆは可奈ちゃんと買い物をしていると聞いていた

だからこそ可奈ちゃんから電話が来た時嫌な予感がした


ケータイが鳴る

可奈ちゃんからの電話だった

出てみると


『もしもし?涼真君?』


少し慌てた様子の可奈ちゃんだった


「どうしたの?」


『まゆが…….まゆが急に苦しそうにしてて

それで今救急車呼んだんだけど

…….どうしたらいいか…』


いつも落ち着いた雰囲気がある可奈ちゃんが少し冷静さがなくなっているようだった


「わかった、俺もすぐに病院に行く!」


急いで病院に向かった

頼む、何も無いで居てくれ

病院に着いてまゆの病室に行く


入ると

まゆのお母さんと可奈ちゃんがまゆのベットのそばで座っていた

まゆはそのまま眠っているのか寝たままだ


「涼真君….!」


「よう可奈ちゃん、まゆは?」


「うん、買い物してる途中息が上がり出して」


「……そうなんだ」


俺は眠ってるまゆの姿に安心して椅子に座る

あ、そうだ、

まゆのお母さんに挨拶しないと!


「あ、まゆのお母さんですよね

いつもまゆにお世話になってます!」


失礼のないように深く頭を下げる俺

すると


「うん、まゆから話は聞いてるよ

よかったー真面目そうな人で」


まゆのお母さんが言う

ニコッと笑う顔はまゆそっくりだ

よかった、そんなに煙たがられてなくて

まゆのお母さんともうまくやっていかないとダメだな


そんなとこで安心していると

可奈ちゃんの表情を伺う

何も言わずにただ一点まゆの顔を見つめているだけだった


「可奈ちゃん?大丈夫?」


俺が聞くと


「……うん、大丈夫」


弱々しい声で可奈ちゃんは言った


「そっか」


「……涼真君、強いんだね、

私、どうしたらいいかわからなくて」


少しだけ涙を浮かべる可奈ちゃん

その気持ちはわかる

だからこそ今はこうはしてられないんだ


「まゆは、いつも前向きで

明るいことしか言わないんだよね

だから俺らは、もっと前向きにならないと

まゆに心配されちゃうんだよ

とにかく、前を向いて俺らもまゆを見ていかないと」


俺がそう言うと


「……うん、そうだよね」


と少し深呼吸をしてなんとか落ち着かせる可奈ちゃん

うん、そうじゃないとやってられないからな


そしてしばらくすると

静かに病室のドアが開く


「あ、どうも、花沢さんこんにちは」


ニコニコとしたおじさんが入ってきた

おじさんとか言っちゃダメか

白衣を来ているからきっと病院の先生だ


「深津先生、いつもありがとうございます」


まゆのお母さんが立ち上がりその先生に深く頭を下げる

深津先生って名前なのか


「いいんですよ

それよりまゆちゃんなんですけど

あ、どうぞどうぞ、お掛けになってください」


先生は椅子の方に手のひらを差し出し

まゆのお母さんは座る

まゆのお母さんも真剣な表情で先生を見つめる

深津先生もそれと負けないくらい真剣な顔つきで


「まゆちゃんは、心筋炎です」


「……心筋炎ですか」


まゆの病名が知らされた


「でも、安心してください軽症ですので命に別状は全くありません

しかし、これが劇症してしまうと

心不全やその他の不整脈で亡くなるケースも稀ではないですね」


劇症ってなんなんだ?

よくわからないまま話は進んでいく

亡くなるケースも稀ではない…

それだけは理解できてしまう

そんな言葉を聞くと今の心筋炎も含めて

先天性心神経っていう病気なんだって改めてわかった


「ところで花沢さん、ご相談なんですが」


と深津先生が言う


「はい?」


「まゆちゃんに手術するように何とか説得してほしいんですよね

今のうちに手術しないと1年も生きていられないので」


困ったような顔でまゆのお母さんに言う深津先生

手術?なんで手術なんてするんだ?


「すみません、あの子も頑固なので」


まゆのお母さんも困った顔を浮かべた


「まあでも、まゆちゃん次第ではありますけどね

ここまで生きているのも本当に奇跡に近いですから」


「いつもありがとうございます」


「いえいえ、とんでもないです」


なんの事だかわからないけど

とにかくまゆが生きていられるならそれでいい


しばらくすると


「んーー!よく寝たー!

あれ?涼真君何してるの?」


まゆが目を覚ます

まゆがあくびをして言った一言がこれだった

よく寝たってあんた倒れたんだぞ

そんなまゆらしい姿を見てしまうと自然にこちらも微笑ましくなる


「まゆ、おはよ。倒れたって聞いたから飛び出してきちゃったよ」


俺も笑顔でまゆに言う


「ありがとー」


まゆは笑顔で答えてくれた

そして


「まゆー!心配したよー」


可奈ちゃんはまゆに抱きつく


「可奈ーごめんねー!

私はこの通り元気…….

いてててて、なんだこれ痛い」


まゆが胸を押さえて痛がる


「え!ごめん、大丈夫?」


すぐに可奈ちゃんは離れる

すると深津先生が


「まゆちゃん、君は心筋炎だったよ

前屈みになると痛みが和らぐと思うからやってみて」


「あ、ほんとだ!すっご!」


そう言って元気な姿を見せてくれるまゆ

なんでこんなに明るいんだろ

本当に余命9ヶ月とは思えないな

そんなことを思うとなんか悲しくなってくる


「涼真君?」


「ん?」


まゆが俺を呼んでいた

顔を見てみるとなぜか険しい顔をしていた


「浮かない顔してどうしたの?

元気出して!」


と言われる


「ま、まゆに言われたくねーよ笑

俺はいつだって元気だ!」


「もう、無理しちゃってー!」


「無理なんかしてないぞ!」


とにかく、まゆが無事でよかった

まゆは1日だけ入院してその次の日に学校に来ていた

これでもかと言うくらい元気なまゆはその後もずっと何事もなく過ごしていた

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