第11話 私たちは出逢っていた 2

 アダムの手紙が届いた。何故か、茶封筒で何時もの倍以上の厚みを感じる。アダムに宛てた前回の内容は、ペンフレンドとしては重すぎたかもしれない。妹の舞はほとんど口を開かない。最近は寝つきが悪いのに、今夜は意外と早く眠りについた。どんな夢を見ているのだろう。夢の中だけでもいつもの彼女であって欲しい。

 見慣れない封筒を開けると、便箋ではなくレポート用紙五枚にいつもの文字がびっしりと並んでいる。

 弟さんの話で私の気を紛らせようとしているのだと、読み始めにはそう思っていたが、読み解いいくと、その文字の中に強い励ましの思いが込められていると分かった。

 アダムの言う通り下の居間に降りてコーヒーを飲むことにした。なんかアダムに見られているような変な感じ。

 足を忍ばせてキッチンに向かっていると、両親の部屋から二人の押し殺した声が漏れてくる。内容は分からないが、おそらく舞のことを話しているに違いない。又、言い争いにならないかと心配だ。


 カップを机の脇に置き、続きを読み進めていくうちに、気持ちが高ぶってきた。

 アダムが迷子になった弟を迎えに警察署に駆け付けた時に、私と舞もそこに居たのだ。不思議としか言いようのないことだが、ことの経緯をかいつまんで話してみる。


 その日の夕方、私と舞は近くの店に買い物に出かけ、用を済ました帰り道で財布を見つけた。店の前なら店員さんに預けるのだが、拾った所は店から離れているし、辺りに人影もないので、そんなに離れていないその警察署に届けることにした。

「姉ちゃん、お金拾ったら落とした人からなんぼか貰えるんやろ」

「あんた、なんでそんなこと知ってるん」

「いっぱい入ってたらええな。なぁーなぁー、なんぼ貰えるの」

「一割から三割の間やて」

「もっと、分かりやすう言うてぇな」

「ひつこいな。あんな、その人によるけど、少なめに云うと」

「ちょっと、待って。あのー、多い目に言って貰えないでしょうか」

「なに気取ってんの。分かった。えぇか、この中に一万円入ってたら三千円貰えるていうことや」

「ほんなら、二万円やったら、六千円。三万円やったら、九千円やな。わぁ、どきどきしてきたわ。ちょっと、なんぼ入ってるか見てみいひん」

「あほなこと言いなや」

「しやかて、うち、姉ちゃんとお揃いの服が欲しいねん」

「なんでやの」

「双子に見られるやん。双子って、かっこええと思えへん」

 そんな会話をしながら歩いているうちに、警察署に着いた。署内に入り落とし物の書類の手続きをしていると、奥の方で小さい子が黙って長椅子に座っているのが見えた。

「あの子、どうしたんですか」

「あぁ、迷子や。駅のホームで駅員が見つけたんやて。もうすぐ、家族が来るはずや。偉いもんやなー。瓢箪山から一人で電車に乗って来たんやて」

 おしゃべりな警察官やなと思いながら手続きを済ませ家に帰ろうとした時に、その子の家族らしい二人の男の人が署内に入って来た。その迷子が泣きながら駆け寄り抱きついた相手がアダムだった。

「姉ちゃん、ええシーンやな。テレビやと、ここでコマーシャルってとこやな」

「その口、どないかなれへん」


しばらく、舞と弾むようなお喋りをしていない。

「お姉ちゃん」

 夢の中で、舞が呼んでる。

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