田舎から出てきた少女 ①-1-3

俺にはすべての女がヒジキにしか見えない。


ゆえに目の前の光景には戦慄しかない。


世の中にはこういうのを愛くるしく思って眺める紳士もいるのだろう。


けれど俺は紳士じゃない。


しかも相手は吸血鬼。ご飯食べたら帰って欲しい。


「もうそろそろ帰りますか?」


さり気に聞いてみる。


しかし女は答えない。


「お名前をお伺いしても?」


「……ユエン」


なるほど。聞こえているし喋れるし言ってることも理解できると。


ならばなぜお暇しますって言えないのか。


「おうちはどこですか?」


「…………」


「おうちの方が心配しているのでは?」


「…………」


「子供のことを心配しない親がいるでしょうか。お父さんもお母さんもきっと心配していらっしゃいますよ? おかえりになってはどうですか?」


「…………」


なんで黙ってんだよ帰れよ。


女は無表情でめんちきってくる。


俺、頑張って睨み返すけど怖い。いつ襲われるかと思うだけで反撃呪文飛ばしたい衝動にかられる。


でもきっと倒せない。ヘルプに自己再生スキルは首ちょんぱしても回復するって書いてあった。


「こんなところでは碌なお構いもできませんし」


「きにしない」


「いえいえ、心苦しいばかりです」


「だいじょうぶ」


「だいじょばません。良ければ安全な場所までお送りしますよ?」


「…………」


だいじょばないって言葉としておかしいかもしんないとか思いながら作り笑顔全開。


もうこうなったらあれだ。一番近くの町まで送ってやるからそこから乗合馬車でも何でも利用して帰ってくれ。そんな気持ちで一杯です。


「すぐ近くの町までお送りしましょう。あなたのおうちはどこですか?」


「ポルナエンの林」


「そうですか。それはどの辺にあるんですか?」


俺、必死にポルナエンの林を検索。


「遠く」


「具体的な距離は?」


「遠く」


「えーっと?」


うん。町を二つ越えた先か。確かに遠いね。


じゃあ一つ目の町まで送るか。


「じゃあ近くの町まで護衛しますから家に帰りましょうね」


「や」


「ご両親が心配していますから」


「いない」


「…………」


「…………」


国は滅びたって書いてあったから親族は死んだか行方不明なのかもしんない。


しかも今検索したけどポルナエンの林って魔女の聖域とか書いてるけど罠かな?


罠に誘い込んで俺をどうこうしようとしているのかな?


外見もそうだけど一ミリも油断できねー女だな。

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