暴君な幼なじみ

青いバック

第1話 暴君な幼なじみ

「よしー終わった終わった。俺はこの終わった後のガヤガヤが苦手なのでさっさと帰るとしますか」


 放課後になり、部活動生達やこのあと遊びに行くもの達が活発に動きだし教室がうるさくなる。


 俺はこのガヤガヤが、何だか苦手だ。別にぼっちでこれが妬ましくて卑屈でうるさいと言っている訳ではなく、本当に俺が苦手なだけだ。


「なに1人でぶつくさ喋ってるの?気持ち悪いよ」



「痛てぇな!教科書5枚重ねて俺の可愛い頭を殴るなよ!」


 唐突にキモイと暴言を投げ、教科書を五枚重ねて殴ってくるこの暴君は俺の幼なじみでもあり、腐れ縁で繋がっているたった一人の女友達、波瀬愛なみせあい


 髪の毛は黒く肩までバッサリ切られ肩で揺れており、目は美人の特徴である二重パッチリで体型はパリコレに出ても違和感が無いぐらいに細身だ。


 しかし、美人なのは外見だけで、中身は暴君で我儘な自分が世界中心だと思っている。


「何が可愛い頭よ。ブスで臭い頭の間違えじゃないの?もう1発殴った方がマシになるんじゃない?」


「おぉい!ホントに殴ろうと、教科書を振りかぶるな!?やめろ!?ホントにブスになっちまったらどうするんだよ!!」


 せっかく親が可愛く産んでくれた俺の頭を、臭いと罵りもう一度殴ってこようとする暴君。

 これ以上殴られたら頭の形が変形し、本当にブスになってしまったら困るので制止する。


「そんなの知らないわよ。その時は貴方がどうにかしなさい」


「なんて無責任な。てかお前帰らんの?」


 無責任な事を言う暴君は、わざわざ俺の事を殴るために残っていたのだろうか。


「あんたとこうやって無駄話をしてたせいで帰る人がみんな居なくなってしまったわ。どうしてくれるのよ」


 勝手に俺の独り言に割り込んできて、頭を殴ったくせに無駄話をして帰る人が居なくなったなどと、無責任この上極まりない事を口からスラスラと言う。


「自分のせいなのに、そんな俺を蔑むような目で見るのやめろ?あっ、なら俺と帰るか?」


「……。本当は嫌だけど、一人で帰るのもつまんないから貴方で妥協するわ」


「一言余計だ。よし帰るぞ」


「ほらドア開けなさいよ」


 一言余計な上に俺を召使と勘違いしているのだろうか、教室のドアを開けろと言ってくる。

 暴君の召使など死んでもお断りだ。富士山を二往復しろって言われた方がマシに思える。


「俺はお前の召使いか?ほらよ」


「良くやったわ。さすが私の召使い」


 しょうがなく、ドアを開けてやりすっかり人影が見えなくなった廊下を二人で歩き、一階へと続く階段を下り靴箱へ行く。


「えーと俺の靴はあったここだ」


「ほらさっさと靴履いて帰るわよ」


 波瀬はいつ履き替えたのか、俺より先に昇降口立っていた。


「へいへい」


「それにしても暑いわねえ今日」


「最高気温三十二度の猛暑日だからなあ」


 外に出ると、太陽が元気に地球を照らしており地面からは陽炎がのぼっていた。

 元気に活動してますなあ……太陽さん。さっさと月と勤務交代してもらって大丈夫ですよ。


 蝉達も俺達の時代だぁ!と言わんばかりに鳴いており余計に暑さを助長させる。


「なんか冷たいものの一つないわけ?」


「あるわけないだろ……あったら俺が既に使ってるよ」


「それもそうね。 しょうがないからコンビニに寄ってアイスを買いましょう」


「それはナイスな提案だ」


 波瀬がコンビニに行くという神に近い提案をし、それに乗っかり暑い道路に汗を垂らしながらコンビニに向かう。


 ナミリーマートに着き、自動ドアをくぐると冷気が暑くなった体を一気に冷却していく。涼しい……。


 レジを横切りアイス売り場へ向かう。


「どのアイスにしようかしら。 このチョコもバニラもいいし。う〜ん悩むわね」


「俺はこのチョコミント」


「チョコミント? あんな歯磨き粉をアイスした塊を食べるの?」


 チョコミントを歯磨き粉と揶揄するやつは多い。そんな奴らは分かってない。夏場に食べるチョコミントがどれだけ神なのかを。


 一口食べると身体中を駆け巡る清涼感が、内部から芯まで冷やしてくれる。そうだからこそお風呂上がりのチョコミントと夏場のチョコミントは最強で最高なのだ。異論は認めん。


「色々んな奴敵に回すから、やめとけ」


「バチコイ!」


「急に謎のポージングとノリで来ないでくれ。 俺が困惑する」


 力士の四股踏みのようなポーズを決める波瀬。

 急に土俵入りを果たすのはやめていただきたい。


「うん、私はチョコアイスに決めた!」


「やっぱり暑い日はアイスに限るよなあ……生き返る」


 波瀬はチョコアイスを俺はチョコミントを買い、炎天下へと戻りアイスを頬張る。


 ミントの清涼感が、堪らなく気持ちがいい。


「でも、こんなに暑いとすぐに溶けるのが難点よね。 アイス食べる時だけ涼しくならないかしら?」


「それじゃあ、アイス買った意味ないだろ」


 アイスの時だけ涼しくならないだろうかという、地球の生態系全てを揺るがす発言をする。


 確かに誰しもが、外にもクーラー付かないだろうかと思ったことはあるだろう、がアイスを食べる時涼しくなれという発想は普通しないだろう。


 暴君は、生態系にも暴君らしい。


「確かに。 でもなんかあんたに言われると癪ね」


「んな事、知るか」


 俺に言われたら癪だという、また訳の分からんことをぬかしやがる。


「やっぱりあの時殴っておいた方が良かったかしら」


「やめてください」


 一回殴っただけでは飽き足りず、もう一度殴ってこようとする暴君はやはり末恐ろしい。


「そうよ、あなたはその態度でずっといなさい」


「それは断固拒否だ」


「生意気」


「お前の方だよそれは」


 生意気と言われたが、産まれてからの自分の行動を振り返ってくれたら自分の方が生意気だと気付いてくれるだろうか。


 いや、それすらも認めないだろう。それが波瀬という暴君だ。


「もういいや、ここで言い合いをしていても暑いだけだわ……帰りましょ」


「そうだな……その意見には賛成だ。 さっさと帰ろう」


 流石にコンビニの前でいつまでも言い合いをしていたら、こちらの身体が先にバテてしまいそうだ。


 さっさと家に帰って、クーラーが効いた家に引こもるのが今日という日には最高だ。


「なんで貴方と幼なじみになって家まで隣なのよ」


「俺に言われてもどうにも出来ん。 神様に文句とクレームは言ってくれ」


「おぉい! クソ神! 何でこいつと幼なじみにして家まで隣にしたのよ!」


 クレームを神様に言えと言ったら、太陽が元気に輝く空に向かい、住宅街にも関わらず馬鹿でかい声量で本当にクレームを言い始める。


「本当に叫んで言うなよ! ここ住宅街だぞ!恥ずかしいわ!」


「うっさいわ……」


 あ、電柱にぶつかる、と思ったが先程恥をかかされたのでこのまま黙って神様の天罰として受けてもらおう。


「ほら、お前が神様に文句なんか言うから電柱にぶつかるんだぞ」


「あんた気付いてて言わなかったわね」


「そんな俺を悪者みたいにやめてくれよ」


「悪者よあんたは」


「言いがかりもよしてくれ」


 自分が神様に文句を言ったのに、俺を悪者扱いしてくる。

 自分の方が悪者じみた事をやっているくせに。


「あんたとの、お喋りも今日はここまでね。 じゃあ、涼しい部屋に行くから」


「へいへい」


 波瀬と神様の天罰の事について言い合いをしていたら、家に着き二人ともクーラーが効いた天界へと行く。

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