第27話 道ならぬ事

 レガンダから千愛のいるスタジオはそんな遠くない。車で15分走れば着くが、千愛が車で来ているため、俺は電車に乗ってやってきた。


 そういえばレガンダで働く4人の中で車持ってない人って俺だけだな。いつも3姉妹は俺が電車で通勤していることを気にしている。


 それで愛姉は自分が昔使っていた車を俺に譲ろうとしている。


 でも、もらうばかりだとちょっと申し訳ない。


 3姉妹の幸せ


 それを考えているとスタジオのいる駅に着いた。


 俺は小走りに歩き出す。


X X X


「おっそい!」

「電話終わってすぐ来たんだよ」

「それでも遅い!これからは3分以内に来ること!」

「……残念だが俺はテレポートができる人間じゃない」

「ふん〜だ」


 スタジオのあるアパレル会社の中に入ると、エレベーターの前にいる千愛がプンスカ怒って俺に文句を言い始めた。


 まあ、これは別に遅れたから怒っているわけではないと思う。

 

 これまで俺が千愛を意図的に避けてきたことによる反応とでも言うべきか。


 俺は、丁重に頭を下げる。


「すまなかった」

「ゆうにいちゃん?」


 突然過ぎる俺の行動に千愛はギョッとする。俺は頭をゆっくりあげて、目を見開いている千愛に向かってまた口を開いた。


「車でどっか行かない?愛姉から許可もらったからちょっと遠出しよう」

「……愛姉ちゃんからね」


 そう言う千愛の短くて柔らかそうな金髪とエメラルド色の瞳は微かに揺れて、含みのある表情になる。加えて、高そうな白いシャツを押し上げている大きいマシュマロも、その存在感を俺に見せつけた。気のせいか、ショートパンツから伸びる千愛の生足はいつにも増してすべすべしているように見える。


 最初こそ意味ありげな面持ちだったが、やがて、目をキラキラさせて俺に向かって話す。


「じゃ、ちょっと遠いところに行こうか。

「お、おう」


 と、千愛は急に俺に近づき俺の腕に抱きついた。


「千愛!?」

「ふふ」

「人たちが見てるって……」

「私を今まで避けてきた罰よ」

「これが、罰?」

「周りの人たちめっちゃ見てる」

「そりゃそうだろ……」

「もしかして緊張してる?私は余裕だけど?」

「……お兄ちゃんを揶揄うもんじゃないぞ」


 俺がいくら抗議しても千愛は聞く耳を持っておらず、もっと俺の腕を自分の巨大なマシュマロに寄せた。


 これ、絶対変な噂立つだろ……


 俺はため息をついて、意気揚々と歩いている千愛の横顔を見つめた。


 彼女は


 まるで見せつけるかのように周りの人たちに向かって挑発する視線を送っている。そして一瞬、俺の顔に視線をやる。


 何かを強く求める視線と瞳に俺は身体をひくつかせたが、その全ての衝撃が千愛の胸に伝わって優しく吸収してくれた。




 俺は、




 千愛の柔らかい胸を彼女の車のある駐車場に向かった。


 車に乗った俺たちはあるところに向かって走り出し出す。


 約1時間ほど走ったら、見慣れた風景が現れた。


 見覚えのある駐車場に車を止めた俺と千愛は降りて、俺たちの思い出が積もった場所に足を踏みしめた。


「何も変わってないね」

「ああ、本当だ。でも、大丈夫?ここって千愛ちゃんにとってはあまりいい場所ではないはずだけど」


 そう。ここは15年前の俺たちが過ごしていた思い出の場所だ。それと同時に、あの悲劇が起きた街でもあるのだ。


「うん。だからゆうにいちゃんがずっとそばにいてくれないといけない」


 と言って、千愛はまた俺の腕に抱きついてきた。


「千愛……」


 俺は彼女の名前を口にするだけで、拒むことはしなかった。


 俺は、道ならぬことを考えないように必死に己を律し続ける。


 俺たちは色んなところを見て回った。


 子供の遊び場、秘密基地のある穴場、駄菓子屋、神社、教会、などなど……


 経年劣化こそあれど、ほとんどが15年前と比べてほぼ変化はなかった。


 そして、腕をロックされた状態で俺と千愛は最後の目的地へと向かっている。

 

 昔の思い出と辛い記憶が詰まった場所。そして赤ちゃんが産める立派な女性になった千愛。


 正直に言って、俺は困惑している。


 実際、俺は二人と頻繁に関係を持っている。そこへ千愛までもが加わると、あってはならないことが起きてしまいかねない。

 

 心の中でどんどん溢れてくるドス黒い感情が噴出されないようになんとか我慢してきたのだが、千愛とのスキンシップによって刺激を受けているのだ。


「あ、やっぱり新しい建物になっている」


 俺が心の中で色んな考えをしていると、千愛が昔俺と桐江3姉妹の家があった場所に足を止めて、虚しい表情を浮かべた。


「そうだな。まあ、テレビ局や新聞社が取り上げるほどの大事件だったからな。それより、本当に大丈夫か?」

「大丈夫よ。だって、私の男がついているから」

「大好きな男って……」

「ねえ、ゆうにいちゃん」


 俺の腕をガッツリ掴んでいる千愛は切なそうな表情で俺に問うてくる。


「なんだ?」

「もし、この町がなくなるとしても、私とゆうにいちゃんが紡いできた昔の思い出は無くならないよね?」

「それは、当たり前だ。15年前に俺と千愛ちゃんはここで楽しく遊んでいた」

「でも、私かゆうにいちゃんが死んだら、思い出、なくなるじゃん」

「……」


 千愛も俺と同じ考えをしていたというのか。


 意外だった。


 あんなにマイペースで生意気な女の子が……

 

 やっぱり俺たちは同じ悲しみを共有している。


 喉に妙な違和感が感じられる頃には千愛はまた口を開いていた。


「最近、ゆうにいちゃんってずっと私、避けてたよね?」

「……」

「ゆうにいちゃんの分際で生意気よ」

「いや、生意気なのはお前、」


 千愛は俺の言葉を遮って、突然、俺の手を彼女の引き締まったに持っていった。







「逃げられないよ。ゆうにいちゃん」



「っ!!!!」



 千愛の表情は、


 俺がを考えている時に浮かべる表情と




 酷似していた。

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