第26話 獲物は気づいている
一ヶ月が経った。
早いようで長い時間だが、俺は充実した時間を送っている。
「ゆう、これも自動化したら結構楽になると思うの」
「ん……これはちょっと時間かかると思うけど、やってみる」
「ありがとう」
「他はどう?」
「今のところは問題ない。でも、そのうちまた頼むかも」
「ああ、困る事があれば言ってくれ」
「ふふ、やっぱりゆうは素敵」
「仕事だからな」
愛璃咲がモニターを指差して嬉しそうに俺を見て笑っている。会社のシステムを再構築するという任務を無事に遂行できた俺は、メンテナンスと微調整をやりながらうまくやっている。
チャンスをくれた3姉妹に感謝しながら仕事をやっている俺は、前と比べると明るくなったと思う。
男は仕事をしないといけない生き物。
正直、俺一人だけとはいえ、部長として一つの会社のシステムの責任者になるのはめったにないケースだろう。
だから、俺は毎日毎日やり甲斐を感じつつ、仕事に臨んでいるのだ。
俺が自分の席に戻って作業をやっていると、外から愛姉がやってきた。
スーツ姿をした恵まれた身体の持ち主。
「愛姉、お帰り」
「お帰り、愛姉様」
「ただいま」
一見何の変哲もない俺たちのやりとり。
「ゆうちゃん、今、仕事忙しい?」
「あと20分くらで落ち着きそう」
「愛璃咲は?」
「私もそんな感じ」
「ん」
俺たちから返事を聞いた愛姉は思案顔でしばし考える。だけど、やがて頬を緩めて目尻を細めては、吸い込むように俺の身体を見つめてきた。
自分の姉の反応を見て、愛璃咲はモジモジする。
俺は二人から目を逸らした。
なぜあんな反応を見せているかよく知っているから。
X X X
俺たちは暇さえあればお互いの身体を求め合うようになった。大人になった俺たちの絆で昔の絆を塗りつぶして行く作業をひたすら続けている。
社内での行為が終わったので、愛璃咲が全ての窓を開けている。そんな自分の愛くるしい妹を眺めている愛姉は突然俺に話しかけた。
「千愛とはどんな感じ?」
「……」
「その反応だとまだのようね」
「ま、まあ……」
「気にしなくてもいいのに」
休憩室のテーブルに座っている愛姉は足を組んで俺を心配そうに見つめている。
常識的に考えてこの関係はお世辞にも健全だとは言えない。俺はすでに二人と関係を持っている。
一人の女性と結ばれるのが日本という国における常識というものだ。しかし、愛姉と愛璃咲はどうやらそんな「普通の考え」というものを持ってないようである。
「ゆう、千愛、かわいそう」
「……」
「私たちは4人で一つ。わかっているよね」
「あ、ああ」
「じゃ、なんで……」
正直に言うと、俺は千愛を意図的に避けている。理由は色々ある。常識と理性による良心の呵責、罪悪感、道徳的価値観、などなど……挙げたらキリがない。
しかし、一方で上の感情とは一線を画すようなドス黒い気持ちも芽生えてくる。俺はその暗い感情をひたすら3姉妹に隠し続けてきた。
あんなことは……
あっていいのだろうか。
そう自分に問いかけていたら突然携帯が鳴った。
相手はもちろん
「千愛ちゃん」
『よ!ゆう兄ちゃん♪』
「撮影頑張ってる?」
『今終わったとこ』
「お疲れ様」
『ゆうにいちゃんは?』
「仕事落ち着いてちょっと休んでるとこ」
『ずっと忙しかったもんね。落ち着いたなら私のマネージャーとしてまた頑張ってよね〜♪』
「いつからマネージャーになってんだ……俺は」
『ていうか、今、誰といる?』
「愛姉と愛璃咲といるよ」
『……そうね』
なぜか千愛の声のトーンが急に低くなっているような気がする。おそらく千愛は俺たちの関係を知っているはずだ。
でも、この関係が千愛を悲しませるのなら……
俺は……
「千愛ちゃん」
『うん?』
「疲れたよね?」
『あ、ああ。ちょっと』
「迎えに行く。いつものスタジオだよね?」
『え、え!?そうだけど』
「じゃ、行くよ」
『本当に来てくれるの?』
「うん。いやか?」
『嫌なわけないじゃん!!!』
「っ!千愛ちゃん、声大きい……」
『ふしだらなゆうにいちゃんに活を入れてやったの。ありがたく思いなさい』
「……」
『来て』
「ああ」
会話を終えた俺は通話終了ボタンを押して携帯をポケットにしまい、気まずそうに二人を見つめる。
すると、
「ゆう、早く行って。遅れたら千愛に文句言われるから」
「千愛、今日は撮影以外予定ないから。ゆうちゃんも仕事大丈夫なら一緒にどこかでドライブでもしてきたらどうかしら?」
「……わかった」
そう言ってから俺はいそいそと会社を出る支度をする。
「そんじゃ、行ってくる」
手を振ってから俺は、扉を開けて、ここから出た。
姉妹side
悠馬が去ったあと、愛と愛璃咲は含みのある表情を浮かべる。
「本当に、気にしなくてもいいのに」
「愛姉様、ゆうは私たちの気持ち……理解してくれるかな」
「愛璃咲」
「ん?」
「ゆうちゃんは全部わかってくれるわよ。だって、いつも見てるじゃない。ゆうちゃんの顔を」
愛が頬を少し赤く染めて、自分を抱きしめた。おかげで巨大なマシュマロが押されるが、その弾力ゆえに押し返してくる。
愛璃咲は姉の姿を見てから、自分のお腹に優しく手を添えて返事した。
「お姉様の言う通り。ゆうは、全部わかってくれるはず。いや、ゆうは既に気づいている」
「ふふっ、そうかもしれないわね」
二人の目は死んでいる。
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