第23話 大掃除

 俺はレガンダのシステムを大幅に変更した。全部取り壊して作り直したといって差し支えなかろう。


 自分が今まで築き上げてきたスキルと、3姉妹への想い。それがどれほどのものなのか、評価を下すために、俺たちは会議室の椅子に座っている。


 いつもの愛璃咲が入れてくれるコーヒーの味は普段より苦く感じられた。


 厳かな雰囲気の中、愛姉が真面目な表情で俺を見つめている。メガネをかけた美人社長でもある彼女の視線は、鳥肌が立つほど鋭い。


「それでは、結果発表するわ」

「お、おう……」


 俺は愛姉の放つオーラに当てられ、小さく返事する。すると、愛姉がメガネをかけ直して、また口を開いた。


「念の為に言っておくけど、幼馴染だからといって、贔屓するようなことは絶対ないから。これは仕事よ」

「うん。わかっている……」

「約二ヶ月間、ゆうちゃんが構築したシステムによるワークフローを試運転という形で導入したわ。結果は……」


 一旦切って、愛姉は深呼吸をする、愛璃咲と千愛は冷静な表情で愛姉を見つめていた。俺もまた彼女の唇に意識を集中させている。



「仕事の効率化、コストカット、この二つの面において、前と比べ物にならないほど改善されたわ」


 と言って、妖艶な表情を浮かべる愛姉。


「おお……」

「いつもフリーランサーやアウトソーシングに頼りっぱなしだったから、毎月、結構高い固定費用を負担してきたけど、ゆうちゃんが作ってくれたシステムのおかげで一元化ができたわ。ふふっ」


 まるで愛くるしい息子を見ているお母さんみたいに、目を少し潤ませて俺を見つめる愛姉の姿に俺も笑顔を浮かべる、


「ゆうはすごい。いつも実務やるの、ものすごく大変だった。でも、ゆうのおかげで、効率良く仕事ができた。まだ改善点はいっぱいあるけど、前と比べると地獄と天国ほどの差があるの。ボタン一つで1時間かかっていた業務がたった10秒で済むなんて……やっぱり私のごしゅじ……ゆうは素敵」

「レガンダの実務全般をやっている愛璃咲からそう言われると、嬉しいよ」

「愛姉様が私のために色んな人に相談したりしたのに、あまりうまくいかなかった。でも、ゆうはやってのけた」 


 さっきまでは凍りついた雰囲気に緊張したが、今や弛緩した空気が流れ込んできた。


「半年間、ゆうにいちゃん、ゾンビのよう働いたもんね!」

「ゾンビってなんだよ」

「目が完全に死んでいたし」

「まあ、ずっと徹夜してりゃこうなるって」

「でも、すごく輝いていた。今も」

「……」

「私は愛姉ちゃんと愛璃咲姉ちゃんがやっている仕事は難しくてわからないけど、家に帰ったら二人ともずっとゆうにいちゃんを絶賛してたよ!」

「そ、そうか?」

「うん!」


 千愛から言われた俺は、それとなく愛姉と愛璃咲に視線を配る。すると、二人は口角を微かに吊り上げて頷いてくれた。


 愛姉にできないことが俺にできた。


 俺はずっとシステムを作るIT会社で勤めていた。だからわかるのだ。俺がレガンダでやってきたことがどれだけ難しいことかを。


 システムを作ったとしても、レガンダの業務と相性が悪ければ、ない方がマシである場合もある。


 それでも、俺は受けた愛を皆んなに返したくて、みんなと堂々と歩きたくて、死に物狂いでプロジェクトをやってきた。


 仕事が楽になればもっと多くのことができる。


 リソースを割いて新たな仕事をやって収益を増やすこともできるし、社員のために使うなら福利厚生にもなりうる。

 

 いずれにせよ、俺は任務を遂行することができた。


 微調整や改善すべき点は愛璃咲の指摘通り、山ほどある。


 だけど、システムの礎が築けたのは大きい。


 これからも3人が少しでも楽になれるように頑張っていこう。


 心の中で、そう決意すると、急に目眩がした。


「ゆうちゃん?」

「ゆう?」

「ゆうにいちゃん?」

「ちょっと疲れただけだから」


 俺が座った状態でよろめくと3人が急に心配の表情を向けてきた。


 おそらく6ヶ月間溜まった疲労が放出されただろう。


「ゆうちゃん、今日はの家に泊まる?明日は休みだから面倒見てあげるわよ」

「ゆうには安らぎが必要」

「そうだよ!ゆうにいちゃんはめっちゃ頑張ったから!」

「ははは……ありがとう。でも、今日は一人で休みたいんだ」


 なぜか3人の顔を見ていると、うちなる自分が今は一人で休めと叫んでくるのだ。


 吸い込まれてしまいそうなブラウン、緑、赤色の瞳から目を逸らした俺は、壁時計に目を見やる。


「もうこんな時間か、俺、そろそろ帰るね」

「送るわよ。私の車に乗って」

「だ、大丈夫だよ」

「ゆうちゃん」

「ん?」

は送るだけだから」

「……」


X X X


 俺は愛姉の言葉に甘えさせてもらうことにした。


 愛璃咲と千愛も一緒に車に乗ってくれた。


 家に着いた俺は車から降りて、別れの挨拶をする。


「今日は色々ありがとう」


 すると、千愛が何か思いついたのか、はたと目を見開いて、訊ねてきた。


「あ、ゆうにちゃん!明日は何する予定?」

「明日か……まあ、大掃除くらいかな?あまりやってなかったから」 

「お、大掃除……」 

「愛璃咲?どうかした?」


 車の中でぴょこんと顔を出しているかわいい愛璃咲が含みのある表情を作った。


「……なんでもないわ。ごしゅ……ゆう、今日は休んでね。のために」

「あ、ああ……愛璃咲たちも気をつけて帰ってね」


 謎の迫力を感じさせる愛璃咲の言葉に若干体が固まった。


 去っていく愛姉の高級車をぼんやりと見ながら、俺はある事に気付かされる。


 欲求不満。


 六ヶ月間、身を粉にして働いたおかげで、当然、ご無沙汰である。


 この溜まりに溜まった欲望を愛姉にぶつけるのはちょっと申し訳ない。


 今の俺が愛姉と一緒にいると、きっと甘えるレベルを遥かに上回るような出来事が起きてしまいそうな気がしてならないから今日は一人で休むって言ったのだ。


 明日もずっと家にいよう。


「はあ……今日は疲れたからシャワー浴びて寝ようっか」


X X X


翌朝


悠馬の家の玄関前


「愛璃咲!?」

「ゆう、おはよう」

「なんで……」

「昨日はぐっすり寝れた?」

「あ、ああ。それより、なんで愛璃咲がここに?」














「大掃除」


 メイド姿の愛璃咲が現れた。



追記



……


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