第14話 嬉しそうなメイド
桐江3姉妹の家
シャワー室
千愛は昨日の出来事を思い返してみる。
ずっと会いたかった憧れの男が自分の輝かしい姿を見てくれた。
高橋悠馬。
昔はずっと一緒で、いつもヤンチャな自分を嫌がる事なく受け入れてくれた命の恩人。
チャラチャラしたナンパ男に絡まれた自分達を助けてくれた時は、これは運命だと思って感激した。そして時間が経つにつれて、この感激は電気に変わり、たわわに実った自分の真っ白なマシュマロとお腹を執拗に攻め続ける。
有給休暇を全部消化すれば、ゆうにいちゃんはうちの会社でシステムを見てくれる。また昔みたいにずっと一緒にいられる。できるなら仕事以外にもずっと一緒にいたい。
あの忌まわしき事件があってから、千愛はずっと二人の姉に頼ってきた。二人のうち一人でも欠けたら、自分の自我が崩壊してしまうほど情緒不安てだった。だけど、なんとか自分の本心を隠して、家族以外の人の前では上っ面な自分をずっと演じてきた。
こうでもしないと、きっと自分を体を貪ろうとするキモい男に付け入られてしまうから。
いつも堂々としている千愛に数えきれないほどの男たちが胸をヤキモキさせていた。だけど、マイペースな彼女の心の奥底には不安と恐怖がいつも付き纏っていた。
だが、彼と一緒にいると、そのネガティブな考えが跡形もなく消えてしまう。しかし、この家にいると、またその不安が芽生えてしまう。
彼は子供を産める自分の心を満足させる事の出来る男だ。だから、いくら自分がわがまま言っても彼には勝てない。小悪魔な自分を彼は持ち前の大きな優しさて包み込んでしまう。昨日のやりとりでそれを思い知った。
『俺は3人のことを一日たりとも忘れたことはない』
「っ!」
この言葉を思い出すたびに、体が熱くなってしまう自分に戸惑いを覚えてしまう。
朝のシャワーを楽しんでいる短い金髪の女の子のエメラルド色の瞳はとっくに色褪せており、全身がほんのり赤く染まっていた。
今まで見たことのない自分の淫らな姿を鏡を通して見ながら千愛はその大きな自分のマシュマロに手を優しく添える。
「どうして、そんな言葉をあんなまっすくな視線を向けながら言えるんだろう……」
彼女は人気アパレルブランド「レガンダ」の看板モデルである。なので、いつも体には気を使っているため、その一糸纏わぬ姿は、彫刻師によって作られた一つの作品のようである。
男の本能を掻き立てる美しい姿をした女の子の頭には悠馬のことでいっぱいだった。そこに姉妹以外の人たちが入り込む余地はない。
「もっとゆうにいちゃんのことが知りたい……子供……産みたい……」
そう言っている千愛の唇には糸が引いていた。
X X X
シャワーを浴びてさっぱりした千愛は、リビングにやってくる。そこには、メイド服を着ている自分の姉がソワソワしていた。亜麻色の柔らかい髪に赤い瞳。そして整った顔立ちと恵まれた体。離れたところから見れば小説かアニメに出てくる公爵家に仕えるメイドそのものである。
「愛璃咲お姉ちゃん、またメイド服着てるの?」
「……」
千愛が自分の姉のメイド姿を見て若干引いている。だか、千愛の表情には優しさがあった。
「ゆうにいちゃんに会ってから、メイド服を頻繁に着るようになってない?」
「そ、そうかしら……」
「昨日、ゆうにいちゃんとなにがあったのか話てた時も、いきなりメイド服着て部屋の中で変なお……」
「千愛、それ以上は言うな」
「ご、ごめんお姉ちゃん……」
千愛の話を遮った愛璃咲の眼光はぎろりと光っていた。
「朝ごはん食べましょう。今はハラミサラダよ」
「おお、私の大好物ハラミサラダ!!って愛姉ちゃんは?」
「今日はいつもの弁護士さんとゴルフね」
「あ、あの厳しそうなおばさん弁護士?」
「うん」
千愛はふむふむと頷いてハラミサラダをぱくついた。
そんな可愛い自分の妹の様子を見て、愛璃咲はモジモジしながら重たい口を開いた。
「千愛」
「ん?」
「この姿をゆうが見たらどう思うんだろう……」
「ん……ゆうにいちゃん優しいからすっごくオドオドすると思うよ」
「そ、そう?」
「でも、愛璃咲お姉ちゃんめっちゃ綺麗だし、男心燃えるんじゃないの?」
「……メイド姿の私に優しくするゆう……」
愛璃咲はそう呟いて、両手で人の顔を覆った。
優しいゆう。
私を救ってくれたゆう。
でも、もう一つの願望も芽生えてくる。
その優しい愛を込めて、メイドの私を
めちゃくちゃにするゆう。
そんなMな自分の想像するたびに、 彼女もまたお腹に電気が走った。
そのまま愛璃咲は、ハラミサラダのハラミをフォークで優しく刺して、それを口の中に入れた。
彼女の顔は嬉しそうだ。
ゆうご主人様……
そう心の中でつぶやいて食事をする一人のメイド。
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