第8話 迫ってくる二人
フリルのついた黒いドレス姿の愛璃咲がいれてくれたコーヒーを飲みながらなんとか冷静と保とうとする俺。
あの巨大なマシュマロの感触はとても柔らかい。俺が大学時代に付き合っていた女の子とは比べ物にならないほどである。だとしたら、愛璃咲も……
いや。だめだ。二人をそんな目で見ちゃだめだ。
俺は首を振って邪念を追い払う。すると、俺の行動をおもしろおかしく思ったのか、愛璃咲がふふっと笑んでいる。
「ゆうは相変わらず優しいね。千愛のああいう表情を見るのはとても久しぶりだわ」
「い、いや、昔を思い出してつい……」
「昔ね……」
在りし日に思いを馳せるように思案顔で明後日の方向を見て頤に手を当てる仕草はさながらヨーロッパの小説に出てくる貴族の令嬢だ。
そう。昔。
昔は昔だ。
今じゃない。
俺はそう思っていると、愛璃咲と千愛が意味深な表情を浮かべて話す。
「昔も今も、ゆうは俺たちにとって必要な存在」
「愛お姉ちゃんから話を聞いた時は驚いたの。ゆうにいちゃんシステム開発者で転職活動中だなんて……私、運命を感じたの」
「う、運命って……そんな大袈裟な」
俺は二人が気分を害さない程度で苦笑いをし、冗談めいた口調で言う。だけど二人は俺の発した言葉を聞いて、再び重い視線を送ってくる。
「ううん。ゆう、これは運命よ」
「そう。ゆうにいちゃん。これは紛れもなく運命」
「……」
言葉が出なかった。確かに二人には昔の面影が残っているが、それを遥に凌駕するほどの謎の迫力がある。
一体、俺のいない15年間、何を見て、何を経験してきたの?それが聞きたかったが、質問を投げかける前に愛璃咲と千愛がソファーに座っている俺に迫ってきた。
「ど、どうした?二人とも?」
亜麻色の髪を靡かせ赤い瞳で俺を切なく見つめる愛璃咲は俺の右手を掴み、自分の黒いドレスに包まれた豊満なマシュマロへと持っていく。そして短い金髪を揺らし、エメラルド色の瞳で俺の体を固まらせる千愛もまた、青色のブラが透けて見える白いシャツの巨大な膨らみに俺の左手を引っ張っていく。
むにっ
沈む俺の指先からは極上の柔らかさが伝わってきた。それと同時に名状し難いフェロモンが俺の鼻腔に絡みついて、なかなか離してくれない。
「ゆう、私、嬉しい……嬉しすぎて……欲しくなっちゃう」
「伝わる?私の心臓の鼓動……激しくなっちゃってる」
「っ!ふ、二人とも……どうした急に」
柔肉の気持ちよさを感じつつ、俺は謎の違和感に身悶えながら二人に聞く。だけど、二人は俺の両手に力をもっと入れては
「ゆうにいちゃん……大好き」
「ゆう……もう離れるのは嫌なの」
彼女の声がまるで電気のように俺の頭を痺れさせる。とっくに鳥肌が立っており、なぜか急に睡魔が差してきた。
「あ……」
「どうしたの?ゆうにいちゃん?」
「ゆう、なんだか顔色が悪いみたいだけど」
頭がじんじんする。二人の声がずっと脳内でこだまして、頭が真っ白……
何をすればいいのかわからず、どうして俺がここにいるのかもわからなくなったその瞬間に、二人は顔を俺の耳に近づけてボソッと漏らす。
「「ずっと一緒よ」」
「っ!!!」
俺の体は痙攣し、意識が遠のいてきて、数秒後には
意識を失ってしまった。
気絶した彼をまるで理想の王子様でも見ているかのように見つめる二人は、色っぽい表情をしながら話し始める。
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