香り
歩けば歩くほど草の香りは強くなり、風が草原を撫でる音と、僕たちの足が黄金色になりつつある緑を踏み分ける音だけがたゆたう。時折凪ぐ大気の振り仰いだ先には、夕焼けの薄暗い赤が雲の灰色を合間合間に食んでいる、秋の夕暮れ。
一際強い風が、けれど優しく全身を包んだとき、運ばれてきた香りと温度と気配に、何故か急に息苦しさを感じた。
人間の五感の中で一番記憶に残りやすいのは嗅覚だという。何か香りを嗅いだ時にふと何かしらの感情が目覚めることがある。ただそういう時はたいてい、何の記憶が刺激されて呼び起こされた感情なのかがわからない。ただむやみに心だけが動く。きっと今も同じ感覚で、この一日の終わりの時間に、心が何かを思い出しているのかもしれない。それは幼少の頃この時間に友達と別れて家に帰る記憶か、中高生の頃この時間に部活を終えて帰る記憶か。ただ、とにかく寂しい気持ちになった。振り返ると君はほほえんでいる。きっと僕と同じ感覚に陥っているのだろうと、何故だかわからないけれど自分自身の心を重ね合わせていた。その寂しさの正体を訊いてみる。
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