第14話 劉と泉喬の密談

「王様、淋珂様と明香様とのお話が終了しました」


「どうだった?」




泉喬と劉との間には、ひどく緊張した空気が流れていた。


劉は机上に広げていた書物を端にやり、咳払いをする。


劉が落ち着いた時、泉喬はようやく報告を始めた。




「先ず、明香妃の様子でしたが、淋珂様に悪い印象は持っていないようでした」


「まぁ、そうでないと困るな。淋珂は、大丈夫だったのか?」


「はい、きちんと言葉遣いもしっかりできていました」




劉は息を吐いた。


淋珂が何かやらかしていたら、淋珂を後宮に入れた意味がほとんど無くなる。


今日の数時間で、これからの計画に支障をきたす可能性があったのだ。


とにかく劉は安堵した。


そんな中、泉喬は微動だにしないで劉を見ている。


何やらまだ何か言いたげのように、ずっと視線を送っている。




「何かあったのか?」


「はい。蘭花宮に向かっている途中、様々な女官や宦官とすれ違いましたが、いつも以上に梨澄妃と鈴徽妃の者が多かったように思いました」


「つまり?」


「彼女らも、淋珂様を見極めているのでしょう。明香妃に嫌われ、全力でどうにかしてもいい相手なのか、明香妃に気に入られ、互いには手の出しにくい厄介な相手が一人増えるのか」




劉は考える動作をする。


一難去ってまた一難か、というような台詞が頭の中を駆け巡る。


ある程度の面倒は考えていたが、最初に予想していた計画を明香妃によって全く崩されてしまった。


その所為で面倒ごとが波のごとく押し寄せてくる。




「淋珂はどうだ?」


「まぁ、疲れていますね」


「・・・、だろうな」




あまり無理を強いるものではないが・・・。


疲労している人間にまた仕事を押し付けるようなことは、出来る限りしたくない。


それをしているのは景躁にくらいだ。


劉はどうにかならないか、と考えた。




「泉喬、お前はどう思う?」


「すぐに、梨澄妃と鈴徽妃へも挨拶をしに行くべきかと。明香妃の、淋珂様に対しての本当の印象は分かりませんが、念のために少しはお二方の心象を良くしておくのが最善かと」


「やはりそうだよな」




出来るならば淋珂をすぐに動かしたい劉。


しかし淋珂は自分の理想に近づくのに最も重要な駒。


あまり無理をさせてしまうといけない。




ため息を再び吐く劉に、泉喬は進言した。




「勅令を淋珂妃に出せばいいのでは?」


「簡単に言ってくれるな」


「だって勅令という名目で出せばいいだけじゃないですか」




その後、何かと劉がごねた者の、泉喬の勢いに押されそこにあった竹簡に勅令を書いた。


強制力となってしまうが仕方がないか、と劉は心の中でけじめをつける。


今後も勅令を書く事態はあるだろう、その練習と思えばいいのだ。




「それではこれを景躁様にお読みいただければ」


「あぁ、そうだな。景躁!」




劉が呼ぶと音もなく現れる。




「何か御用ですか?」


「足音くらい立てられないのか?」


「善処します。ところで、何か?」


「実はな、淋珂に一つ勅令をだしたいのだが、届けてくれるか?」




まさか景躁が断るとは思っていない劉は景躁に竹簡を渡す。




「お断りします」


「助かる・・・、え?」


「ただでさえ淋珂様と桃清様の事件の後処理や王様の苦手とする周辺部族との交渉などで手がふさがっているのに、あのオン・・・、あの方に割く時間はございません。泉喬、貴女に勅令通達を任せる。責任をもってお伝えしなさい。そのお言葉は、誰の口から発しても王様のお言葉となるのです」




泉喬にそう言い放つと景躁はさっさと出ていく。


その後ろ姿を、劉と泉喬は唖然としてただ目で追っていた。




「まぁ、そういう事だ」


「はぁ、分かりましたよ。やればいいんですよね、やれば」


「面倒臭がるなよ」




劉は小さくなっていく泉喬の背を見送り、呟く。




「一体どうなってしまうのだ・・・」

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