第11話 婚姻の儀
「着きました、此処が会場です」
目の前に広がるのは、赤と金色を基調とした幕が張られた会場。
天羅宮の宮殿の目の前にある広場が全て、煌びやかに飾られている。
「こんなに、大掛かりなの?」
「王族を舐めないでください」
小声で毒を吐く泉喬。
淋珂は目の前の光景に意識を持って行かれていた為聞いてはいなかったが、後ろについてきていた女官たちは、泉喬の発言に驚いていた。
「泉喬様、そのような言葉遣いで宜しいのですか?」
女官の一人、
泉喬は仕方無さそうに、しかし自慢げそうに「私は、ね」と言った。
「淋珂様、そろそろ人が入ってくる時間です。裏で最後の仕上げをしますのでついてきてください」
淋珂は泉喬に言われるがままに動く。
案内されたのは、天羅宮の内部。
一つの部屋に、大きな鬘等が置かれており、一人の女官が立っていた。
「お待ちしておりました、淋珂様。開始までしばらくこちらでお待ちください」
「ありがとうございます、女官長。」
「王様の婚姻です。きちんとやり遂げねばならないので当然です。泉喬、頼みますよ」
「はい」
淋珂は部屋に一つ置かれている椅子に座る。
目の前の障子が少し開いていた為、目を細めてみてみると、赤青の正装をした男性がぞろぞろと会場内に入ってきていた。
「泉喬、あの方たちは?」
「
「ややこしいのね」
泉喬は「そうですね」というと一枚の衣を持ってきた。
「この赤い衣を着てください。」
「分かった」
「では」
泉喬は頭を下げると、一人の女官に何かを命じ外に出てしまった。
「泉喬様から一時的にお手伝いを命ぜられました秦伶と申します。何かあれば、私にお命じになってください」
「はい、そうするわ」
それからしばらく外を覗いていた。
思っていた以上に待たされている淋珂は少し疲れてきていた。
「待つって、疲れるのね」
「あと少しだと思います」
「分かった、ありがとう」
話し終わると同時に障子が開き泉喬が入ってきた。
「とうとう本番ですよ、淋珂様。くれぐれも、粗相をしないように」
「ええ、分かっているわ」
泉喬と秦伶に両手を支えられ外に出る。
外には多くの参加者が静かに座っている。
想像以上の迫力に、「えっ」と声が出てしまう。
「淋珂様、覚悟を決めてください。今こそ、以前の無表情が役に立つときです」
心を無にする、か。
今の状況ではさすがに不可能だろう。
歩きながらも頭を働かせる淋珂。
そして最終的に思い至った方法は、(劉様しか見ない)だった。
「それでは、ただいまより淋珂妃と劉様の婚姻の儀を開始します」
荘厳な雰囲気の中、婚姻の儀は開始された。
天羅宮の目の前に、淋珂の席と劉の席が設けられており、その隣に四つの席が置かれている。
泉喬が言うに、最も左手に座るのは第二妃、梨澄。その隣に第一妃、桃清。その隣に緑劉、淋珂が座り、第三妃、鈴徽。前国王、王妃が座っているらしい。
前王妃である明香妃は、艶やか、その一言に尽きた。
ただ美しい、そんな言葉の具現のような女性だった。
アレを、劉様は苦手としているのか。
淋珂は横目に明香妃、梨澄妃、鈴徽妃を見つつ、今後の敵を確認した。
そして本当のターゲットである緑凱もチェックした。
世辞にも健康そうとは言えず、肥えているどころかやせ細って見える身。
そのまま放っておけば死んでしまいそうに淋珂には見えた。
そうこうしているうちに落ち着く淋珂。
淋珂は当初に決めた劉様しか見ないという事も、もうすでに忘れていた。
儀式は司会によって次々に進められていく。
酒を飲んだり、舞や演奏を聴いたり、意味があるのか分からない事をしながらどんどん儀式は進む。
そして、最後の剣舞の際、事故が起きた。
淋珂の目の前に、弾かれた剣が一本飛んできた。
明らかに狙われたであろう攻撃を淋珂は軽く避ける。
「近衛兵、奴らを捕らえよ!」
劉は席を立つと、近衛兵を動かし剣舞を披露していた2人を捕らえた。
「牢に連れて行け、後で俺が直々に尋問する」
「「はっ!」」
会場中がざわめき立つ。
そんな中明るい緑を基調とした衣を着た第二妃、梨澄は会場から出ていく。
それに続いて前国王、王妃夫妻が退場。
そして第三妃の鈴徽妃もいなくなり、その場には淋珂と桃清妃、劉のみが残された。
そしてその時、桃清妃に向かって何か石のようなものが投げられた。
一瞬生まれる沈黙。
淋珂はすぐさま反応し石を拾って遠くに投げた。
少し離れた地点で鳴り響く轟音。
空中に赤い火球が生まれ砂礫を落とし消えていく。
会場は煙に包まれた。
すぐさま淋珂は桃清妃に近づく。
「桃清妃、いったん私の梅花宮に避難してきませんか?その方が目が届くのでお守りしやすいです」
「分かりました、梅花宮に向かいましょう」
桃清妃が言うと「承知しました」女官たちは返事をする。
ただ唯一返事をしなかったのは桃清妃の侍女、壬莉だった。
「桃清様、私にはそれが最善だとは思えません。貴女を狙ったのが何者の指示なのかが分からない今、誰かの屋敷に行くよりも、桂花宮でお休みになられた方が良いかと」
「うん、そうねぇ。ねえ、劉様、貴方はどう思いますか?」
「一応、桂花宮に帰れ。そして淋珂も桃清に付いていくように。敷地内に賊がいないとは限らないからな」
「分かりました」
淋珂が先頭になりその後ろに桃清妃、壬莉、泉喬の順に並び、最も後ろに劉が付く。
完全な護衛体制で桃清妃を桂花宮に送った。
道中、特に危害を与えてきた者はおらず、敷地内にも賊がいないことが確認できたため淋珂は梅花宮に戻った。
「淋珂様、少し退出します」
泉喬が頭を下げて梅花宮を出ていく。
理由は分からなかったものの、多くのことがありすぎて、淋珂の頭は混乱していた。
自分が狙われ、そのあとに桃清妃が狙われたのは一体どうしてなのか。
実は自分は桃清妃の守りを薄くするための攪乱の道具だったのかもしれない。
様々な考えが頭に浮かぶ中、たどり着いた考えがそれだった。
劉は「尋問があるから行くぞ」と言い梅花宮を出て行ってしまう。
「どうして今日こんなことが起きたんだ?」
「絶好の機会なんですよ、悪人からして」
いつの間にかいた(陰)が言う。
(陰)は淋珂の前に立つと、淋珂を身軽な服装に着替えさせる。
「よく、桃清様を守ってくれましたね」
「でも守るって言っても石に偽装された爆弾を投げ返しただけだぞ」
「十分ですよ、自らの身を守りその上桃清様を守る。貴女のすべきことは達成しています。残念なのは犯人が分からなかったことですが、それは恐らく桃清様が知っていると思うので、後々沙汰が下るでしょうね」
(陰)は微笑んでいる。
其れとは対照的な顔を、淋珂はしていた。
緊張をしていたとはいえ、以前ほど機敏に動けなくなっている。
そのことが、淋珂にとってショックだった。
「私は仙術を二つは使えません。私がいたらないからという事もありますが、透明になると千里眼が使えなく、空も歩けません。実際私が千里眼を使えたら、犯人はとっくに分かっていました」
(陰)は淋珂の肩を持つ。
そして優しく言った。
「ですから、今はこれからどうするかという事を考えましょう。この先、自分がどのように行動すれば、より良い結果が出せるのか、それを考えていけばより強くなれる筈です。心も、身体も」
淋珂は(陰)の言葉を受け止め、考え方を変える。
そのころには淋珂の胸にあった自責のようなものも消え、これからどう動こうか、そんな前向きな心に切り替わっていた。
淋珂はそれと同時に、自分の仕事に対しての意識を改め、より一層努力しようと決意したのだった。
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