140 10月18日(水) 黄金(こがね)の波

 皆様は京都の静原をご存じだろうか?


 静原は大原の隣、もう少し詳しく言うと、大原と鞍馬の中間に位置する閑静な山里だ。


 大原の里は有名だが、静原の里を知っている人は少ない。


 ずいぶん昔だが、静原から大原に抜ける山道を登ったことがある。今となっては、いつ、誰と、何のために登ったのか記憶が定かではないのだが・・・


 季節は秋だった。これははっきりしている。登ったのはかなり急な山道で、しかも地面には落ち葉が堆積していた。うっかりすると足が滑るのだ。僕は足元だけを見ながら山道をひたすら登っていった。


 僕の眼には、長い時間、黒い地面とくすんだ茶褐色の落ち葉だけが映っていた。


 すると、いきなり峠に出た。


 僕の視界が一気に開けた。


 ・・・・・


 眼の前に雲一つない真っ青な秋空があった。


 秋空の下に色鮮やかな山々が見えた。


 その山々が大原の里を大きく取り巻いていた。


 向こうの山のふもとに三千院の僧房が見渡せた。


 三千院の手前には田んぼが大きく広がっていた。


 田んぼの一面の稲穂が黄金色に輝いて揺れていた。


 金色の世界だ。


 ・・・・・


 あまりの美しさに僕は息をのんだ。この世にこんな美しい風景があったとは・・・


 今でもその光景が忘れられない。


 だから秋になると、このときの追体験がしたくなって、僕はわざわざ遠くまで黄金の稲穂を見に出かけるのだ。


 金の鈴鳴らし稲穂の風熟るる  椋誠一朗 ホトトギス(2003年2月)


 


(追記)


 郊外に稲穂を見に行きました。近況ノートに写真があります。


 https://kakuyomu.jp/users/azuki-takuan/news/16817330665495722067

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