118 2月24日(金) 永痴魔先生のアナグラム教室
司会の姉ちゃんが、いつものように頭から抜けるような声を出した。ラジオ局の新人女子アナだ。
「は~い。皆さん、お元気ぃ~。皆様のラジオ放送局『ラジオやりっぱなし』ですよぉ~。今日から始まりました『
ここはラジオの放送局の収録室だ。私は眼の前のマイクに向かって、よそ行きの声を出した。
「はい。アナグラムというのは、文の中の文字をいくつか入れ替えることによって、全く別の意味にさせる言葉遊びのことです」
姉ちゃんがさらに質問する。
「例えば、どんなものがあるのでしょうか?」
「例えばですね。『お琴が消えた』は、ひらがなで書くと『おことがきえた』ですね。これの文字を入れ替えて『おとがきこえた』とすると、すなわち『音が聞こえた』という全く違った意味の文になるんです。あるいは、『おとこがきえた』で『男が消えた』という別の文も出来ますよね」
「まあ、いっぱい、いろんな文が出来るんですね! ヒデキ感激!」
「あんたは、いつの生まれなんや?・・・まあ、いいでしょう。『お琴が消えた』から、まだまだ出来ますよ。『おがきえたこと』とすると、『尾が消えたこと』になります。『尾が消えたとこ』でもいいですね。さらに、『たことおきがえ』にすると『タコとお着換え』という突拍子もない文ができます。・・・こういうふうに、同じ文字を使って全く別の文を作ることをアナグラムといいます」
「なぁるほどぉ。では、先生が書かれた小説のタイトルをアナグラムで別の意味に変えていただきましょう。今日は先生の大ヒット小説である『裸の姉ちゃん、
私は軽く頭を下げた。
「それはどうも・・」
姉ちゃんが続ける。
「皆さん、それでですね、この小説は各国語に翻訳されて、海外でも高く評価されており、世界的な賞である、昨年のノーブラ文学賞を受賞した名作なんですよぉ。では、永痴魔先生、この小説のタイトル、『裸の姉ちゃん、屁ぇこいた』をアナグラムで別の文に変換するにはどうしたらいいのでしょうか?」
「はい。では、実際にやってみましょう。まずですね。リスナーの皆さんは、紙とペンを用意してください。紙は落書き帖のような何でも書けるノートがいいでしょう。ペンはシャーペンでもボールペンでも何でも結構です」
「では、私も準備しましょう。・・・はい、先生、ノートと鉛筆を用意しました」
「では、『裸の姉ちゃん、屁ぇこいた』をひらがなで書いてください」
「え~と。それでは・・・『はだかのねえちゃん へぇ こいた』ですね。先生、書きました・・」
「その中の小さい『ゃ』と『ぇ』は、大きい『や』と『え』としても使えますので、大きい『や』と『え』に変えてください。これも全部をもう一度、紙に書いてください」
「すると、『はだかのねえちやん へえ こいた』ですね。はい、書きました・・」
「では、ここからが面白いんですが・・・この中で、何文字かで意味を成すものがあれば、そのひらがなを丸で囲って、その言葉を紙に書いていってください。たとえば、『こいた』は『たいこ』、つまり『太鼓』になりますね。そうすると、『こ』と『い』と『た』を丸で囲って、紙の別のところに『たいこ』って書くんです。次に、丸で囲ったひらがなは使わないで、同じように何文字かで意味を成すものを探していくんです。ここで、助詞になる『は』や『へ』は、すでに書いた『たいこ』にくっつけても構いません。・・・このようにして、全てのひらがなが丸で囲えるように、別の文を考えていくんです」
「なるほど。そうしたら、必ず、アナグラムが出来るんですか?」
「いや、そうではありません。普通は、途中で必ずうまく行かなくなりますので、そうしたら、最初の『はだかのねえちやん へえ こいた』に戻って、またやり直せばいいんです。・・・くれぐれも申しますが、これは言葉遊びですので、あまり真剣にならず、遊びで楽しみながら、何度も繰り返してやってください。いろいろと試行錯誤を繰り返す過程が楽しいんですよ」
「では、私も先生の言われるようにやってみましょう。・・・まず、『こ』と『い』と『た』を丸で囲って、紙の別のところに『たいこ』って書きました。で、残りのひらがなでは・・・あっ、『ちやん』は『やちん(家賃)』になりますね。では、『ち』と『や』と『ん』を丸で囲って、紙の別のところに『やちん』って書きました。・・・あとは・・・『か』と『ね』で『かね(金)』ですね。『か』と『ね』を丸で囲って、紙の別のところに『かね』って書きました。・・・次は、あっ、『の』を使って、『かね の たいこ(金の太鼓)』ができますね。・・・その次ですが、先生、作るのは感嘆詞でもいいんですか?」
「ええ。意味が通じれば、感嘆詞でも形容詞でも動詞でも何でも構いませんよ」
「すると・・・『へ』と二つの『え』で『へええ』ができますね。・・・『へ』と二つの『え』を丸で囲って、紙の別のところに『へええ』と書きました」
私は眼の前の姉ちゃんのノートをのぞきこんだ。
「だいぶ出来ましたね。・・・では、今までで、別のところに書いた言葉はどうなっていますか?」
「え~と・・・『かね の たいこ(金の太鼓)』、『やちん(家賃)』、『へええ』ですね」
「丸がまだついていない、ひらがなはありますか?」
「はい。『は』と『だ』が残っています。・・・あっ、そうか。『は』と『だ』を使うと・・・これで、『へええ』、『やちん(家賃)』、『は』、『かね の たいこ(金の太鼓)』、『だ』という全く別の文ができますね!」
「そうなんです。つまり、
『裸の姉ちゃん、屁ぇこいた』から・・
はだかのねえちゃん へぇ こいた・・
はだかのねえちやん へえ こいた・・
これを入れ替えて・・
へええ やちん は かね の たいこ だ・・
へええ 家賃 は
へええ、家賃は
つまり『へええ、家賃は
「まあ、すご~い」
「まあ、今回は作成例ですので、一回で別の文になりましたが、さっき言いましたように、普通はうまく行かないので、その都度、『はだかのねえちやん へえ こいた』に戻って、何回もこの方法でアナグラム作成を繰り返します。こうして、アナグラム作成の試行錯誤を楽しんでください」
「うわ~。実に面白い方法ですね。では、先生、リスナーの皆さんが、この方法でアナグラムを練習するにはどうしたらいいんでしょうか?」
「当然ですが、アナグラムを作りやすい文と作りにくい文があります。それで、まずは、作りやすい文で練習してみるといいでしょう。アナグラムを作りやすい文では、『これ、かわいい』があります。つまり『これかわいい』で別の文を作るわけですね」
「へえ、『これ、かわいい』ですか? 私、いつも言ってますよぉ・・」
「そうでしょう。女性がよく使いますよね。でも・・・これは私が経験的に見つけたことなのですが・・・『これ、かわいい』はアナグラムを非常に作りやすい文なんです。つまり、アナグラムで別の文がいくらでも出来るんですよ。例えば、
『これわいかい(これ、ワイ〔私〕かい?)、(これ、Yかい?)など・・』、
『わかいれいこ(若い玲子)、(若井礼子)など・・』、
『れいかこわい(冷夏怖い)、(霊か! 怖い)、(冷菓怖い)など・・』
などです。こうして、『これ、かわいい』から別の文を自由に作って楽しんでください。遊びですから、アナグラムで、普段は絶対に使わないような無茶苦茶な文を作った方が面白いですよ。例えば、さっきの『お琴が消えた』のアナグラムでは、『お琴が消えた』が『男が消えた』に変わっただけでは、正直、あまり面白くないのです。ところが、『お琴が消えた』が『タコとお着換え』という無茶苦茶な内容の文に変わると、意外性があって大変面白いわけです」
「なるほど。面白いですねえ。・・・は~い。残念ですが、そろそろ、お別れの時間になりましたぁ~。では、リスナーの皆さん、永痴魔先生のお話にご興味があれば、『これ、かわいい』でアナグラムを作って、楽しんでみてくださいね~。それでは、来週まで、皆さん、ごきげんよう」
私も姉ちゃんに合わせて、リスナーに挨拶をした。
「ごきげんよう・・・皆さん、くれぐれも真剣にやってはダメですよ~。遊びでやってね~」
************
如何でしたか。
アナグラムの作り方(僕の超超超個人的やり方ですが・・・)をお伝えできたことが、今日のよかったことです。
皆様ももしご興味があったら、アナグラムで『これ、かわいい』を別の文にしてみてください。。。
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