108 2月12日(日) オナラおじさんの恐怖

 僕は白血病が再発して、去年の6月から入院している。正確に言うと・・1~2カ月入院して・・それから2週間程度、自宅で静養して・・また、1~2カ月入院するといった入退院を繰り返しているのだ。


 別に病状が悪化しているから入退院を繰り返しているという訳ではない。もともと、このように1年ぐらいを掛けて、入退院を繰り返すという治療方法なのだ。つまり、治療過程に多くのステップがあり、1~2カ月入院して、一つのステップが終了すると、自宅で静養した後に、再び入院して、次のステップの治療を開始する・・・ということを繰り返しているわけだ。


 読者の皆様は既にお気づきのように、僕はこのところ、病院や病気の話題をこの日記に書くことを避けてきた。特に深い理由があるわけではないが、あえて理由を挙げると次のようになる。


 1.入院の話というのは、どうしても暗い話になりがちで、このため、皆様にすごくご心配をお掛けしてしまう。


 2.入院の話となると、毎日、同じような話題ばかりになってしまう。


 しかし、今回、入院患者の中に面白い人を見つけたので、近況報告を兼ねて、皆様に、その人のことをお知らせしようと思ったのだ。面白い人というのが、今日のタイトルの『オナラおじさん』なのだ。


 ということで、今日の話は病院の話ですが、お気楽でお下品な内容なので、皆様も気楽に読んでいただければ幸いです・・・


 さて、今日、2月12日(日) 現在、僕は入院中で、ベッドの上でこれを書いている。僕がいるのは初めての相部屋(4人部屋)だ。幸い、治療は順調に進んでいて、今週中に退院する予定になっている。


 これまでの入院で、僕はずっと『無菌室』と呼ばれる特殊な個室に隔離されてきた。『無菌室』というのは、細菌を含んだ外気が入り込まないようになっている特殊な構造の病室だ。これは、治療の過程で、白血球の数が著しく減少するので、外気中の菌に感染しないための措置なのだ。だから、一つのステップが完全に終了し、白血球の数が正常値に戻るまで、僕はこの『無菌室』から出ることは許されていないのだ。


 そういった次第で、今までの治療は、僕が望んだわけではなく、治療の必要性からずっと『無菌室』と呼ばれる特殊な個室だった。


 ところが、今回の治療ステップだけは白血球の数が減少しないものなので、『無菌室』に入る必要がなかった。それで、僕は初めて、相部屋(4人部屋)の普通の病室に入ったのだ。入院期間も2週間弱で、今までの1~2カ月と比べると格段に短かい。


 先々週、僕は妻と二人で、入院のために病院に来た。そして、指定された4人部屋に入った。病室の中には4つのベッドがあり、各々がカーテンで仕切られていた。カーテンで姿が見えなかったが、僕のベッド以外の3つのベッドには、それぞれ患者が横たわっているのが分かった。


 僕と妻は、医師から治療方法の説明があるということだったので、病室のベッド脇に腰かけて、医師が来るのを待っていた。


 そんなとき、妻がオナラを始めたのだ。まあ、人間だから仕方がないと思ったのだが・・・妻のオナラが止まらない。そのうち、妻は何発も連続して、オナラを出しは始めたのだ。病室の中に、プッ、プッ、プーと妻のオナラが響いている。僕は驚いてしまった。お下品妻とは知っていたが・・ここまで、お下品だったとは・・


 それで、僕は病室の外に妻を連れだして、注意をしたのだ。


 「君。あんまり、人前でオナラを連発しない方がいいよ」


 妻はふくれた。


 「失礼ね。私じゃないわよ。あなたの隣のベッドのおじさんよ」


 えっ・・


 僕は妻と病室に戻った。よく耳を澄ますと、僕の隣のベッドのカーテンの中から、プッ、プッ、プーとオナラの音が連発して聞こえてきたのだ。それが、『オナラおじさん』だった。もちろん、『オナラおじさん』というのは、僕が勝手につけたあだ名だよ。


 医師の説明が終わると、妻は家に帰っていった。こうして、僕の初めての個室ではない、4人部屋での入院体験が始まったのだ。それは、『オナラおじさん』に悩まされる日々の始まりだった・・・


 『オナラおじさん』のオナラは昼夜を問わず続いた。食事の時間も、『オナラおじさん』は食事をしながら、オナラを出すので・・・僕はおじさんのオナラの音と匂いに悩まされながら食事をとるしかなかったのだ。夜も、おじさんのオナラの音と匂いの中で眠らざるを得なかった。当然だが、よく眠ることはできない。ただ、今までのように『無菌室』に隔離されているわけではないので、病室から外に出て、一時的におじさんのオナラから逃れることだけはできたのだ。


 僕は『オナラおじさん』のことを看護師さんに相談しようかと思ったが・・・止めておいた。


 ここは病院なのだ。いろんな患者がいる。お腹にガスが溜まって、オナラを連発してしまう患者もいるだろう。だから、僕は我慢するしかないと思った。それに、オナラを連発されて、死んでしまったなどという話は聞いたことがない。


 だが、入院後、数日して・・・僕はあることに気づいたのだ。


 僕のいる病棟の看護師さんは全員が女性だ。男性の看護師さんはいない。


 なんと、『オナラおじさん』は看護師さんが病室にいるときには、オナラをしないのだ。看護師さんが『オナラおじさん』のところに来ているときにオナラをしないだけでなくて、病室の他の人のところに来ているときにもオナラをしない。そして、看護師さんが病室を出て行くと、待ってましたとばかりに、また、プッ、プッ、プーとオナラを連発し出すのだ。


 僕はあれっと思った。意外だった。なぁんだ・・『オナラおじさん』は、オナラを抑えることができるのか!


 それでも、僕は思ったのだ。看護師さんは忙しい。一人で何人もの患者を受け持っている。つまり、一人の患者にさける時間は短いわけだ。


 だから、僕は、『オナラおじさん』が、看護師さんが病室にいる短い時間だけは、オナラを我慢しているものと思った。


 しかし・・・


 先週、大学の看護科の学生たちが病院に実習にやってきたのだ。僕のところには実習生は来なかったのだが、『オナラおじさん』のところに一人の大学生のお姉さんが実習としてつくことになった。


 すると、『オナラおじさん』は俄然張り切って、朝から晩まで、四六時中、病室にやってきたお姉さんに話しかけるのだ。


 病棟には病室に並んで、談話スペースのような場所があって、そこで話をすることができる。だが、『オナラおじさん』はお姉さんと病室の中で大声で話すのだ。


 そして、これは本当に迷惑なのだが・・・その話が・・・なんと朝・昼・夕方に各々1時間以上続くのだ。その間中、『オナラおじさん』はオナラを止めている。そしてだ。なんと、看護師さんのときと同様に、実習のお姉さんが用事で病室を出て行くと、再び、プッ、プッ、プーとオナラを連発し出すのだ。


 僕はまたもや意外に思った。この『オナラおじさん』は、長い時間、オナラを止めることができるのか! それに一体なんなんだ。実習のお姉さんが病室から出て行くと、再びオナラを連発し出すなんて・・・


 どうも、この『オナラおじさん』は自分の意志で、自由自在にオナラを出したり、止めたりしているようなのだ。


 こんな人は初めて見た・・・


 そう思ったとき、僕の脳裏に昔見た、テレビのバラエティー番組が浮かんだ。


 いや、待てよ。そう言えば、昔、こんな人をテレビで見たことがあったなあ・・・


 そう思ったときに、記憶が急速に蘇ったのだ。


 それは、世の中の奇人や変人を紹介する、お笑い番組で・・・あるとき、オナラを自由自在にコントロールする少年が出演していた。司会者が少年のお尻にマイクを当てて・・・「オナラを出して」と言うと、少年がその声に合わせて、音楽を奏でるように、本当にプッ、プッ、プーというオナラの音をスタジオに響かせていたのだ。


 その少年は僕より年上だった。『オナラおじさん』も僕より年上だ。なんで、『オナラおじさん』の年齢が僕に分かるのかというと・・・『オナラおじさん』が実習のお姉さんに、自分の年齢や経歴といったことをペラペラと病室内で大声でしゃべっていたので・・・僕にも、それが否応なしに聞こえてきたのだ。

 

 そう言えば、あのとき、テレビに出ていた少年が大きくなったら、ちょうど『オナラおじさん』ぐらいの年齢のはずだ。


 ひょっとしたら、僕の隣のベッドの『オナラおじさん』は、あのときの『オナラ少年』なのではないだろうか!


 だが、僕は今回入院してから、『オナラおじさん』とは一度も話をしたことがないのだ。話をするどころか、『オナラおじさん』はいつもカーテンの中にいるので、僕は顔も見たことがない。だから、この話は確認のしようがない・・・


 それで、今日のよかったことは・・・オナラを自由自在に操る『オナラおじさん』がいたということと、そのおじさんが、昔、テレビに出ていた『オナラ少年』かもしれないことを皆様にお伝えできることだよ。


 まあ、こんな話を伝えられても、どうしようもないと思うけどね(笑)・・・


 と、ここまで、書いたところで、隣のベッドの『オナラおじさん』から、プププププーとひときわ甲高いオナラが聞こえました。これが終了のファンファーレということで、今日の話はここまでだよ。。。


 おアトがよろしいようで・・・


 お下品極まりない話で、最後はいつものおふざけのような終わり方だけど・・書いたことは事実なんだよ~。

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