107 2月11日(土) タクシーの困ったちゃん
テレビでタクシー番組が大
タクシーを使って、定められた予算だけで、決められた時間以内に、目的地にどのチームが一番早く到着できるかといったことを競う番組や、タクシーの運転手さんに地元の有名店を教えてもらう番組など・・・実にバラエティーに富んでいる。
前にこの日記にも書いたが、以前、僕は出張が多かったのでタクシーを使うことが結構あったのだ。当時は会社の方針で、自分の車で出張に行くのは禁止されていた。理由は事故になったときに、自分の車だと、公的責任か私的責任かの区別が難しいからだ。このため、どうしても、仕事で知らない土地に行ったら、タクシーを使うということになるわけだ。
論理的にはタクシーを使わずとも、路線バスだけで目的地までの移動は可能なのだが・・・初めて行く土地で、『〇〇町三丁目』とか『△△公民館前』といったバス停で降りても、そこから目的地までどう行けばいいのか分からないのだ。今はスマホが目的地までのナビゲートをしてくれるが、時間との闘いの出張で、そんな悠長なことをしている余裕はとてもない。
だから、必然的にタクシーを使わざるを得なくなる。こうして、僕は今までに実にいろんなタクシーの運転手さんに出会った。大多数は実に感じのいい、親切な運転手さんだったが・・・中には、とんでもない人もいたのだ。
今日は、そんな『とんでもないタクシーの運転手さん』、つまり『タクシーの困ったちゃん』のことを皆様にお話したいのだ。
あるとき、大阪で仕事があった。その日の夜には、京都で僕の学生時代の『恩師を囲む会』があった。恩師がある賞をもらったので、関係者でお祝いの会を開いたのだ。
その『恩師を囲む会』の会場は、京都の三条
京都は僕の好きな街だ。だから、たった15分の散歩だが、僕は四条河原町駅から三条河原町のホテルまで、久しぶりに京都の町を歩くのを楽しみにしていた。
ところが、阪急電鉄でちょっとした事故があって、電車が四条河原町駅に到着するのがかなり遅れてしまったのだ。
四条河原町駅に着いたのが、会の開始まで、あと10分ぐらいしかないときだった。僕は会の初めの方でスピーチを頼まれていたので、絶対に遅れるわけにはいかなかった。それで駅を出て、やむなく路上でタクシーを拾ったのだ。三条河原町のホテルまで極めて短い距離でだったが、致し方なかった。
事情を話す時間も無かったので、僕はタクシーの運転手さんに「大変、短距離で本当に申し訳ありませんが、急用があって、三条河原町の〇〇ホテルまでお願いします」と言って頭を下げた。しかし、運転手さんは
タクシーはあっという間に、三条河原町のホテルの前に到着した。料金は数百円だった。僕は千円札一枚を運転手さんに渡して、「どうもありがとうございました。これ、お釣りは結構です」とお礼を言った。
タクシーの運転手さんは黙って千円札を受け取った。
会の開始まであと5分だった。
やれやれ、よかった・・・なんとか間に合った。僕は胸をなでおろしたのだ。
ちょうど、タクシーの右側にホテルの玄関があった。それで、タクシーの運転手さんが右側の後部ドアを開けてくれた。
僕はタクシーの後部右側座席から降りようとして・・・半身をタクシーから外へ乗り出した。右足を伸ばして道路につけた。そのときだ。
いきなり、タクシーが後部右側座席のドアを開けたまま発車したのだ。
僕の身体が、開いているドアの後部に激突した。その勢いで、道路につけている右足を軸にして、僕の身体がコマのように一回転した。そして、そのまま、僕はバランスを失って・・・道路に倒されてしまった。道路に倒れた僕の眼に、タクシーが河原町通りを走り去りながら、後部座席のドアを閉めるのが見えた。
周りを歩いている人たちが何ごとかと驚いて、僕の周りに駆け寄ってくれた。だが、僕は自力で立ち上がることができた。幸い、どこも怪我はしていなかった。それで僕は駆け寄ってくれた人たちにお礼を言うと、服についた小石を軽く手で払って、急いでホテルの中に入っていった。もう時間が無かったのだ。
タクシーの運転手さんに、短距離乗車の仕返しとして、降りる途中でわざと発車されたというわけだ。
しかし、まかり間違えば、大怪我をするところだった・・・タクシーが急発進しなかったことがよかったのだ。まあ、タクシーからすると、大怪我をしないように、急発進をしなかったということなのだろうが・・・いずれにしても、許される行為ではない。
僕はタクシーの中に備えられているタクシーカードをもらっておかなかったことを後悔したが・・・遅かった。
タクシー会社の名前は憶えているが・・・ここには書かない。
もう一つ、『タクシーの困ったちゃん』のことをご紹介しよう。
ある地方都市に出張に行った。そこは、僕が過去に何回も訪問したことがある都市だった。そして、その都市の最寄りのJRの駅には、東口と西口の二ヵ所に出入り口があった。
その駅の西口は、にぎやかな繁華街になっている。いわゆる、駅前通りというやつだ。そして、繁華街から駅の西口に入ると、すぐに自動の券売機と改札があって、改札の眼の前がホームになっているのだ。このため、何かにつけて西口はとても便利がいいのだ。
一方、東口は火が消えたような寂しいところだ。そして、東口には券売機はない。降車用の改札だけがポツリとあるだけなのだ。降車用だから、常時駅員さんがいるわけではない。だから、東口から列車に乗ろうとすると、その降車用の改札の前で駅員さんがやって来るのを待って、あれは何という名前なのか知らないが、駅員さんが持っている車内検察用の機器で切符を売ってもらうしかなかった。
この機器で購入する切符はスーパーのレシートのようなペラペラの紙なので、降りる駅や途中乗り換えの駅では、自動改札を通すことができず、有人改札しか利用できないのだ。おまけに、その東口の降車用改札からプラットホームまでの間に、電車の大きな車両倉庫があって・・・このため、列車に乗るためにプラットホームに行くには、何分も歩かねばならなかった。
と、こういうふうに、東口から列車に乗ろうとすると、実に大変で、不便極まりないのだ。さらに、東口と西口は無茶苦茶離れているので、間違えて東口に行ってしまったら、簡単に西口に行けないのだ。一度、僕は間違えて、東口から駅に入ってしまって、散々な目に会ったことがあった。それで、こういった不便さを身に染みて体験していたのだ。
さて、その地方都市の出張の話に戻ろう。
仕事が済んで、訪問先からタクシーに乗った。そして、運転手さんに「〇〇駅に行ってください」と頼んだのだ。
すると、運転手さんが僕に不思議なことを聞いた。
「お客さん。〇〇駅は
〇〇駅に表口と裏口があるのか? 僕は初めて知った。おそらく、東口と西口のことだろう。それで、僕は運転手さんに聞いたのだ。
「どちらが表口なんですか?」
しかし、運転手さんは僕には答えず、同じことを聞くのだ。
「表口? 裏口? どっちなの?」
僕はこの時点で何かおかしいと思った。あまり、この運転手さんには関わらない方がいいなと感じたのだ。当然、賑やかな方が表口だろう。早くこのおかしな会話を終わらせたい。そう思った僕はこう言ったのだ。
「では、表口に行ってください」
すると、運転手さんは僕に念を押した。
「表口だね。表口に行けばいいんだね」
なんだか、奥歯に何か挟まったような言い方だった。だが、運転手さんは、それきり黙ってしまった。僕も何も聞かなかった。
そして、タクシーが到着したのは・・・あの寂しくて、不便極まりない東口だったのだ。
茫然とする僕に運転手さんがこう言った。
「お客さん。みんな、間違えてるけどね、こっちが、〇〇駅の正式な表口なんだよ。そもそも、昔、〇〇駅が初めてこの街にできたときには、駅の出入り口はこっちしかなくてね・・・」
そう言って、運転手さんは〇〇駅の歴史を講釈し始めたのだ。
だが、列車の時間が迫っていた。僕は「すみません。急いでいますので・・」と言って、運転手さんの話を
降車用改札で駅員さんを探して、さっき書いたレシート様のペラペラの切符を買って、プラットホームまで長距離を走って・・・運よく、列車にはギリギリで間に合ったが・・・
おそらく、あの運転手さんは、タクシーの乗客に「みんな、間違っているが、実はこっちが〇〇駅の正式な表口なんだ」という講釈をしたくてたまらなかったのだろう。だから、乗客をわざと東口に連れて行くように仕向けたというわけだ。
実はこういうタクシーの運転手さんは各地にいるようで・・・僕は、別の何ヵ所かでも、同じような経験をしているのだ。
しかし、旅行者や出張者が、どっちが駅の正式な表口かなんて知っている訳がないじゃないか。何も知らない乗客には、タクシーのこういう行為は迷惑極まりないのだが・・・いるんですね。こういう運転手さん。
さて、皆さんは、こういった『タクシーの困ったちゃん』たちをどう思いますか?
僕は思うのだ。何か、みんな、タクシーという仕事の本質を間違えてるんじゃないかってね・・・
皆様も気を付けてください。
こういう『タクシーの困ったちゃん』が実際にいるんですよ・・・
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