80 11月16日(水) 怖かったこと4

 昨日、新幹線の中で出会った異常な男のことを書いた。今日も電車の中での、僕の体験談を皆様にお話したい。だから今日も昨日と同じく、『ボクのよかったこと』は僕の体験を皆様にお伝えできることだよ。


 さて以前、東京で地下鉄に乗っていたときのことだ。地下鉄の路線名を書くべきか迷ったのだが・・・この話は皆様に注意を喚起することも目的の一つなので、思い切って書くことにする。


 銀座線だ。


 東京在住の方や、仕事なんかで何度も東京に行かれる方はよくご存じだと思うが、銀座線はいつも超満員だ。その日も午後2時過ぎだったが、車両の中は相変わらずの超満員だった。


 僕は幸いロングシートの座席に座っていたのだが、僕の前には吊革を持った乗客たちがびっしりと立ち並んでいた。僕の眼の前は立錐の余地もない、まさに押すな押すなといった大混雑状況だったのだ。


 そして、ロングシートの僕の右横には男が座っていた。そこそこの若さの男だと思うのだが、こんな地下鉄の中では横に座った人をしげしげと見つめることなんか誰もしないものだ。だから、僕にはその男のことはよく分からない。どちらかと言うと、若い男のようだったということで、ご勘弁を願いたい。


 さて、その男なのだが・・・スマホをひざの上に置いて、何やらさかんに操作していた。その操作というのが・・・何か赤いキンキラキンの画面を出したかと思うと、すぐに別の画面に切り替えて、すぐまた、さっきのキンキラキン画面を出しているのだ。どうも、そうして二つの画面をひっきりなしに切り替えているようなのだ。


 僕はその男に全く興味はなかった。だから、黙って正面を見て座っていたのだが・・・その男があまりにも頻繁にスマホ画面を切り替えるので、僕の眼の端にキンキラキン画面がチカチカと映って・・・なんともわずらわしいのだ。


 あんなに頻繁にスマホの画面を切り替えて・・・この男はいったい何をしているのだろうと思った。


 それで、顔は正面に向けたままで、眼だけを隣の男のスマホに向けてみたのだ。横目でのぞいたわけだ。


 赤いキンキラキンの画面は何かのホームページのようだった。赤や黄や金色が入り混じった、何とも派手なホームページだ。男がすぐに別の画面に切り替えるので、何のホームページかは分からなかった。


 そして、僕はそのホームページから切り替えられた画面を見て仰天してしまった。


 さて、僕の駄作を読んでくださるのは、女性の方が圧倒的に多い。それも皆さん、お美しくて、とっても素敵で、チャーミングで、魅力あふれるお姉さま方ばかりだ。だから、正直、こんなことは書きにくいのだが・・思い切って書くと・・その男が見ていたのは、女性のスカートの中の盗撮写真だったのだ。


 それは後ろから女性のスカートの中を写した写真だった。こんな写真を詳細に描写していいのか分からないのだが・・写真中央に後方下部から撮った女性のお尻が大きく写っていて、そのお尻は薄い青色のショーツを履いていた。そして、ショーツからは白い健康な二つの太ももが下に伸びていた。女性のお尻の周りは薄い黄緑色の短い布が覆っていた。それがミニスカートだということは、僕にもすぐに分かった。


 おそらくその男は、ミニスカートを履いている女性の後ろに近づいて、スカートの下にスマホを差し入れて盗撮したのだろう。まさにそんなアングルだった。写真にブレなどは全くないので、盗撮された女性はたぶん盗撮には何も気づかなかったのだ。


 男は・・1、2秒、その盗撮写真を見ては・・すぐに赤いキンキラキンのホームページ画面に切り替えて・・また1、2秒しては盗撮写真に切り替えて・・ということを繰り返していたのだ。


 僕は仰天すると同時に、う~んとうなってしまった。


 だって、ここは超満員の地下鉄の中なのだ。僕やその男の前には、びっしりと乗客が立っている。男の動作は、男の隣に座っている僕にでも眼障りだったのだ。だから、男の前に立っている大勢の乗客にはもっと眼障りだったはずだ。つまり、男の前に立っている多くの乗客たちは、僕と同じように、いったい何をしているのだろうと男のスマホに眼を向けて・・・そして、男が盗撮写真を見ていることがすぐに分かったはずなのだ。だが、満員の地下鉄の中だ。そんなことで騒ぎだす乗客は、僕も含めて、誰もいなかった。


 ここで断っておくが、僕は断じて女性のスカートの中を盗撮したことなど無い。そんな盗撮写真を見たことも無い。もちろん、昔、妻とはしゃいでいて・・妻のスカートの中に顔を突っ込んで、偶然にスカートの中を見たことはあるが・・僕はそんな盗撮などには興味も無いのだ。


 しかし、そんな僕でも思うのだ。もし、仮に・・あくまで仮にだよ・・僕がそんな盗撮写真を持っていたとしても、それをぎゅうぎゅう詰めの地下鉄の中で見ることはしないと思うのだ。普通なら、誰もいない部屋で一人でその写真を見るように思うのだ。・・もちろん、そんな経験はないよ・・あくまで仮の話だよ(←しつこい)。


 男がそんな写真を超満員の地下鉄の中で見る、しかも、スマホをカチャカチャさせて、周りの注意を引きつけた状態で見るなんて・・・その神経というか、考え方が僕には到底理解できないのだ。どう考えてもまともではないと思った。


 そして、僕は疑問を感じたのだ。


 隣の男はどうして満員の地下鉄の中で盗撮写真なんかを見ているのだろうか? 


 男は自分がスカートの中の盗撮写真を持っていることを周りに誇示しているのだろうか?・・・しかし、僕はその考えをすぐに打ち消した。男からもっと暗い陰湿な雰囲気を感じたのだ。満員の地下鉄の中で、自分の世界に浸り込んで、盗撮写真をながめている男・・・そんな気がした。だから、もし誰か乗客がその男に注意でもしたら、男は自分の世界を乱されたことで逆ギレして、その注意した人に何をするか分からないといったあやうさを感じたのだ。


 超満員の地下鉄の中で、女性のミニスカートの中の盗撮写真をスマホ画面にチカチカと表示させて見ている男・・・


 超満員の地下鉄の中で、自分の世界に浸って、邪魔をされたら逆ギレするかも知れないあやうい男・・・


 そう思うと、僕はその男に何をされるか分からないといった、何か底知れない異常なものを感じた。僕の背筋に悪寒のようなものが走った。僕は心底怖くなった。昨日、この日記に書いた新幹線の中の異常な男にも僕は得体の知れない恐怖を感じたが、この男にも同じような恐怖を感じたのだ。僕は今にもその男が、スマホを横目で見ている僕に気づいて・・・それに逆ギレして、僕の首をいきなり絞めつけてくるような錯覚を覚えた。僕の身体が震えた。


 しかし、ぎゅうぎゅう詰めの地下鉄の中だ。ロングシートの座席から立って、男から離れることなどできはしない。


 僕は我慢して男の横に座り続けた。男はそれから10分ほどして、ある駅で降りていった。。。


 そして、僕はやっと安堵の息を吐いたのだ。僕の背中は汗でびっしょりと濡れていた。


 しかし、世の中にはこんな異常な男がいるんだなあ・・・異常な男に何もされなくてよかったなあ・・・というのが正直な気持ちだった。


 女性の皆様、お気をつけください。


 貴女の後ろを歩く男が・・貴女のスカートの中をスマホで盗撮しようとしているかも分かりません。


 そして、貴女がその盗撮行為に気づいたら、男が逆ギレして貴女に襲いかかるかもしれません・・・

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