90 12月22日(木) スパースオペラは西部劇

 テレビでハリウッドの昔のSF映画をやっていた。大作のシリーズ物で、宇宙を舞台にした宇宙活劇だ。こういった宇宙活劇は一般に『スペースオペラ』と呼ばれている。


 そのとき、テレビでやっていたのは、そのシリーズの第何作目かに当たる作品だった。僕は、昔、そのシリーズ物の初期の作品を映画館で観た記憶がある。だが、テレビでやっていた、そのシリーズの第何作目かの作品はまだ観たことがなかった。


 僕はすぐにテレビに釘付けになった。さすがにハリウッドだけあって・・・映画はなかなか魅せる。テレビで見ていても迫力が違うのだ。


 映画は、地球の宇宙船が、宇宙の中にある植民都市のようなところに到着するところから始まる。植民都市と書いたが、それ自体が小さな星ぐらいある規模なのだ。


 その植民都市の映像がまたすごい。


 複雑な形状の建物が無数に建っていて、その間を無数の『空飛ぶ自動車』や『空飛ぶ列車』のようなものが高速度で頻繁に行きかっている。そして、それらに乗っている何百何千という人々や、地上を歩く何万という人々の顔や動作が・・なんと一人一人違っているのだ。もちろん、今はこういった映像は実写ではなくて、CGで作っているわけだが、それにしてもすごいと思った。


 地球の宇宙船は植民都市で一休みすると、新たな任務を負って、再び宇宙へ飛び立つのだ。この地球の宇宙船というのも、直径が何キロメートルもある大きさで・・その外側にはさまざまな装置が複雑についているので、表面は平滑ではなく、微細で複雑な凹凸構造になっている。実にリアルなのだ。


 やがて、地球の宇宙船の前に、宇宙人の宇宙船が現われて、地球の宇宙船は攻撃を受ける。


 この攻防がまたすごい。宇宙人の宇宙船からレーザー光線のようなものが照射されると・・細い光が地球の宇宙船に伸びてきて・・宇宙船の一部に当たって・・その部分が実に細かな破片となって、音もなく宇宙空間に砕け散るのだ。


 昔の日本のSF映画だと、敵の宇宙船の光線が当たったら、味方の宇宙船から火が出ていた。なぜ、酸素のない宇宙なのに火が出るんだろうと不思議に思った記憶があるのだが・・・さすがに、ハリウッドのSF大作は、そんな子ども騙しのようなことはしない。光線で破壊された宇宙船の無数の破片が、それぞれ一個ずつ複雑に回転しながら、音もなく漆黒の宇宙空間に飛び散っていくのだ。


 すごい迫力とリアルさだ。


 なるほど、実際に宇宙で宇宙船同士の戦いになったら、こんな風に見えるんだろうなぁ・・・僕は心の底から感心した。さすが、ハリウッド!


 地球の宇宙船は懸命に抵抗するのだが、宇宙人のテクノロジーは地球人をはるかに超えている。だから、宇宙人の攻撃は強力で、地球の宇宙船はついに大動脈のエンジン部分を破壊されてしまう。


 動きを止めた地球の宇宙船に、宇宙人の宇宙船から容赦ない攻撃が続く。地球の宇宙船はどんどん破壊されて・・もうボロボロだ。


 そこへ、宇宙人の宇宙船が接近していく。


 どうなるんだろうか? 僕は固唾かたずをのんで、テレビの画面を見つめた。


 ・・・で、ここから急に話がおかしくなった。


 宇宙人の宇宙船から、無数の小型宇宙船が出てきたのだ。それらが、ボロボロになった地球の宇宙船に近づいていく。


 すると、地球の宇宙船の司令官がこう言うのだ。


 「奴らがこっちの宇宙船に乗り込んでくるぞ。奴らはこの船を乗っ取る気なんだ。みんな、応戦しろ」


 乗っ取るだって? それじゃあ、まるで海賊じゃないか。敵の宇宙人というのは、宇宙で海賊をやっているんだろうか? すごいテクノロジーを持っているのに、海賊をやって、日銭ひぜにを稼いでいるなんて・・・宇宙人はセコイなあ・・・


 でも、地球の司令官に、宇宙人がこちらに乗り込んでくるなんてことが、どうして分かるんだろう? 司令官は宇宙人と意思疎通ができるんだろうか? テレパシーなんだろうか?


 それにしても、宇宙人は何のために地球のボロボロになった宇宙船を乗っとるんだろう? こんな巨大なボロボロ宇宙船なんて、何か使い道はあるのだろうか?・・・何かの倉庫として使うのだろうか?・・・それだったら、あんなにボロボロになるまで無茶苦茶に破壊しない方がよかったのに・・・あれじゃあ、修理が大変じゃないか。・・・なんとも、おバカな宇宙人だなぁ・・・


 宇宙人の小型宇宙船が、地球の宇宙船の壁にくっつくと・・どういう仕組みか知らないが、そこから宇宙人が地球の宇宙船の中に入ってきた。


 どんな宇宙人なんだろう? こんなにリアルさを追求したハリウッドのSF映画なのだ。僕はさぞかしグロテスクな宇宙生物を想像したが・・・


 中に入ってきた宇宙人というのは、なんと人間そっくりなのだ。顔に無数の太い血管が浮いているところが地球人と違うぐらいで、それ以外は手も二本で、足も二本なのだ。身長も地球人と全く同じサイズだ。眼も二つ、鼻と口が一つで、頭には髪の毛があって、耳があって・・・とにかく姿かたちが地球人そのものなのだ。


 僕は絶句する。実に安直な宇宙人の姿だなぁ・・・これじゃあ、製作費を安く抑えられるなぁ・・・


 そして、驚くなかれ、宇宙人はなんと宇宙服を着ていないのだ。


 ここは地球の宇宙船の中だ。当然、船内の空気は地球上の空気と同じ組成で保たれているわけだ。気圧も地球と同じに設計されているはずだ。なのに、宇宙人は宇宙服ではなく、何だか軽めのスエットスーツというかジャージのようなものを身につけているだけなのだ。足元はどう見ても、昔の学校の上履きのようなスニーカーだ。なんだか、近所のオッサンがブラリと散歩にやってきたという感じなのだ。

 

 こうして、宇宙人はマスクもヘルメットもつけずに、地球の宇宙船の中で普通に呼吸をしているのだ。


 なんで、宇宙人は地球の組成・気圧の空気の中で呼吸をしているの? 宇宙人の星は地球と同じ組成で同じ気圧の大気を持っているのだろうか? いくらなんでも、そんな、バカな?


 そんな宇宙人のところへ、地球の宇宙船の乗組員たちが駆けつける。みんな、手に手に光線銃を持っている。


 僕は心配になった。宇宙人はきっとすごい武器をもっているんだろうなぁ。あんなチャチな光線銃で大丈夫だろうか?


 10人ほどの地球の宇宙船の乗組員が廊下を走っていると、前方から宇宙人の集団がやってきた。出会い頭に・・いきなり、両者の打ち合いになった。


 なんと・・宇宙人の武器も地球人と同じ光線銃なのだ。


 同じ光線銃?・・なんで、同じ光線銃なの? それにしても、宇宙人にはもっといい武器はないの?


 地球の宇宙船の乗組員が光線銃で宇宙人を撃つ。すると、光線が当たった宇宙人があっけなく死んでしまった。


 弱い~! なんて、宇宙人は弱いんだろう・・・


 しかし、宇宙人の数に押されて、地球の宇宙船の乗組員もどんどん光線銃で倒されていくのだ。


 そして、ついに宇宙人の司令官が乗り込んできて、地球の司令官と一騎打ちになる。その一騎打ちなのだが・・・


 なんと、両者が取っ組み合って、殴り合いをするのだ。そして、宇宙人の司令官が、地球の司令官に柔道の背負い投げのような技で投げ飛ばされて・・・床にノビてしまうのだ。


 僕は言葉もない。


 あんな、ものすごい武器で地球の宇宙船を破壊しておきながら・・・光線銃で撃ち合いを演じて・・・取っ組み合いをして・・・あげくは、宇宙人の司令官が投げ飛ばされて、床にノビてしまうなんて・・・


 僕は、この映画を真剣に作った人たちには悪いが、笑ってしまった。だって、地球をはるかに超えるテクノロジーを持つ宇宙人の司令官が、地球人と取っ組み合いをして、投げ飛ばされるだなんて・・・そんな、アホな!


 僕はこれはSF映画ではなくて西部劇だと思った。地球の宇宙船が幌馬車で、敵の宇宙人が先住のインディアンだ。インディアンが幌馬車を襲撃したので、幌馬車のガンマンたちが、インディアンと撃ち合い、殴り合い、格闘するのと同じなのだ。


 つまりは、しつらえが、宇宙を舞台にする大掛かりなSFだというだけで、そこに登場するのは西部劇の撃ち合いや殴り合いや取っ組み合いとなんら変わらないわけだ。西部劇をスペースオペラの舞台でやっているだけなのだ。


 しかし、こんな映画がハリウッドで作られるということは、こんな映画を好んで見る観客が大勢いるということにほかならないが・・・アメリカの観客はこんな西部劇みたいなスペースオペラが好きなんだろうか?


 宇宙人の司令官がノビてしまったところで・・映画はまだまだ続いていたが・・僕は映画を見るのをやめた。アホらしくて、とても見ていられないのだ。


 で、今日のよかったことだけど・・こんな映画があったってことを皆様にお知らせできることだよ。


 えっ、そんなことを聞いても仕方がないって?


 確かに、そうでしょうなぁ・・

 こんなアホなハリウッド映画の話を聞いても仕方ありませんよねぇ・・

 また、出直します・・

 では、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ(淀川長治さん、懐かしいですね~)。


 皆さんは映画を観て、あきれてしまったことってありますか?

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