89 12月21日(水) 万葉ハイキングは早足で
皆様は他の人との間で、予期せぬ競争に巻き込まれたご経験はあるだろうか?
僕にはあるのだ。今日はその話を書きたい。
で、唐突だが・・皆様は
大阪大学名誉教授だった故・犬養孝先生は万葉集の研究で有名な方だ。先生が万葉歌に独特の旋律をつけて朗唱された『犬養節』は特に著名だ。先生の『犬養節』はテレビなどでもよく紹介されて、多くの人に親しまれていたので、読者の皆様の中には、お聞きになった方もいらっしゃると思う。
また、先生は『大阪大学万葉旅行』を長年主催されていたことでも知られている。『大阪大学万葉旅行』は、万葉集にちなむ土地を先生と訪れて、現地で先生の講義を拝聴するというものだ。ネットで調べると、1951年(昭和26年)に始まって、45年間で参加者が延べ4万人を超えたと書いてある。『大阪大学』とあるが、参加者は大阪大学の学生や関係者でなくてもいい。誰でも申し込めば参加できるのだ。
実は、僕もたった一度だけだが、先生の『大阪大学万葉旅行』に参加した一人なのだ。ちなみに、僕は大阪大学には何の関係もない。
ここで皆様の声が聞こえるよ。
「え~。お前はカクヨム最底辺作家でしょ。カクヨムのお荷物と言われている、アホバカ最底辺作家のくせに『大阪大学万葉旅行』なんて高尚なものに参加したことがあるの?」
「みんな、騙されてはいけないわよ。アイツ、前に『金沢の街を歩く』と題して、女子トイレの個室に入っていたら、女性にノックされたっていうバカ話を書いてたじゃない(6月8日(水) 金沢の街を歩く)。また、あんなアホバカ話を書くつもりなのよ」
「どうせ、『大阪大学万葉旅行』に参加したら、途中でお腹が痛くなって、女子トイレに飛び込んだ・・とかいう話なんでしょ。いつも、いつも、女子トイレの話ばっかりで・・ホント、変態バカ作家って、お下品で、イヤ~ね」
はい。はい。確かに僕はカクヨムのアホバカ最底辺作家ですぅ。。
女子トイレの話をよく書いていますぅ。。
金沢で女子トイレに入っていて、女性に個室をノックされたのも事実ですぅ。。
変態お下品バカ作家ですぅ。。
でも、でもだ。今回はちょっと違うんだ。まあ、聞いてください。
僕が犬養先生の『大阪大学万葉旅行』に参加したのは学生のときだった。研究室の先輩に誘われたのだ。恥ずかしながら・・僕はそのときまで、犬養先生も『大阪大学万葉旅行』のことも何も知らなかった。
実は、僕の研究室の先輩が『大阪大学万葉旅行』によく参加していて、あるとき、僕と『研究室に研究生として企業から派遣されていた別の先輩』の二人を『大阪大学万葉旅行』に誘ってくれたのだ。
ややこしいので、僕たちを誘ってくれた先輩をA先輩、『研究室に研究生として企業から派遣されていた別の先輩』をX先輩とするよ。
こういったわけで、僕はある初夏の実に気持ちのよい、さわやかな休日に、A先輩とX先輩の男性三人で、そのときの『大阪大学万葉旅行』の集合場所として指定された、奈良県は近鉄電車の
このときの『大阪大学万葉旅行』のコースは、樫原神宮前駅から
畝傍山は有名な大和三山(畝傍山、
近鉄の樫原神宮前駅の広場はものすごい人だかりだった。
駅前広場には『大阪大学万葉旅行』の参加者が500人あまりも集まっていたのだ。見ると、ほとんどが学生だ。そんな彼ら彼女らの喧騒で、駅前広場はものすごい熱気に包まれていた。10人程度の参加者を想定していた僕は圧倒された。
駅前広場のはるか遠くに犬養先生の姿が見えたが・・ものすごい人だかりで、とても先生の近くに寄ることはできなかった。
これでは、先生に挨拶したり、先生の説明を拝聴しながら歩くことなんて不可能だ。僕とA先輩、X先輩の三人は相談して、先生から離れたところを、道端の万葉集にちなんだ景色や史跡を見ながら、ゆっくり歩いて行こうということになった。
さて、出発時間が来て、僕たち三人を含む、500人あまりの男女は、先生に引率されて駅前広場を出発した。『先生に引率されて』と書いたが、出発すると、たちまち先生の姿は見えなくなってしまった。後は、500人の男女がゆるやかな縦列になって、初夏ののどかな田園風景の中をゾロゾロと畝傍山に向かったのだ。
僕は最初、A先輩、X先輩と並んで、話をしながら歩いていたのだが・・いつの間にか、A先輩の前を僕とX先輩の二人が歩く形になった。僕たちの前後左右は、同年代の知らない男女が取り巻いていて、みんな、にぎやかにおしゃべりをしながら同じ方向へ歩いている。
向こうに若葉の茂る低い山並みが見渡せた。山並みのふもとから、こちらにかけて、青々とした水田が広がっていた。水田の上を若葉の香りが風に乗って流れてきた。そんな田園地帯を僕たち三人もおしゃべりをしながら歩いた。
やがて、道が少し登りになった。登りといっても険しいものではなく、少し勾配がついたという程度だ。周囲には相変わらず、のんびりした田園地帯が広がっている。
そのとき、僕は、僕の横のX先輩が少し早足になったのを感じた。おそらく、X先輩は坂道に差しかかって、「坂道でもお前には負けないぞ。オレの方が速いんだぞ」という気持ちになったんだと思う。
それで、僕も横に並んでいるX先輩に合わせようと・・少し早足にしたのだ。僕も「X先輩には負けませんよ。先輩が足を速めてもついて行けますよ」という気持ちだった。
すると、X先輩も僕の早足を感じたのだろう。さっきより、さらに少し早足になったのだ。
僕もX先輩に合わせようとして、さらに少し早足になった。
すると、さらに、それを見たX先輩が・・・という具合に、僕とX先輩はお互いに足を速め続けた。どちらも無言だ。こうして、いつの間にか、僕とX先輩の二人が、なんだか、無言の早足競争のようになってしまったのだ。
僕とX先輩は無言のまま、どんどん早足になっていって・・やがて、二人が畝傍山に向かう道をものすごい勢いで駆けだした。
僕たちの前を歩いていた男女が、後ろから走ってきた僕たちの勢いに驚いて、何ごとかと振り向いている。その横を僕たちが突風のように走り抜ける。僕から見ると、前を歩いていた男女の姿が、次々と僕たちの後ろへ飛んでいった。
初夏ののんびりした田園風景の中を、僕とX先輩が
もうA先輩は、僕とX先輩のはるか後方になってしまった。
こうなると、X先輩と話をする余裕もない。何でこんなに速く歩いているの?、いや、走っているの?と思ったが、X先輩が足を緩めないので、僕も足を緩めることができなかった。
畝傍山は、標高が199mと低い山だ。それに、山肌の勾配はゆるやかだ。普通なら、ふもとから山頂まで自転車でのんびりと20分ほどで登頂できる。だが、この日は畝傍山の周囲をぐるりと回って、それから山頂に登るというので、結構長いコースだった。
こうして、僕とX先輩の二人は、無言で、その『結構長いコース』を1時間近く走り続けて・・なんと、そのまま、畝傍山の頂上まで全速力で走って行ってしまったのだ。
頂上に着くと、さすがにバテた。僕もX先輩も荒い息を吐きながら
しばらくして、僕もX先輩もやっと虚脱状態を脱した。二人とも早足競争のことは一切口にしなかった。僕はなんだか、X先輩に早足競争のことを話すのが照れくさかったのだ。おそらく、X先輩も僕と同じだったのだろう。
そして、僕たちは早足競争には全く関係のないおしゃべりをしながら、二人で売店で買ったアイスクリームを食べたりして、A先輩が来るのを待ったのだ。
A先輩が山頂にやってきたのは、僕たちが山頂に着いてから約2時間後だった。
やってきたA先輩があきれ顔で僕たちに言った。
「あのなあ・・せっかくの万葉ハイキングなのに・・・あんな、ものすごいスピードで走って行ったら、ゆっくり景色や史跡を見ることもできないじゃない。あんたら二人とも一体、何しにきたの?」
僕とX先輩は、A先輩に返す言葉もなく、お互いの顔を見合わせたのだ・・
皆様の声が聞こえるよ。「お前もX先輩も意味もなく早足の競争をして・・バッカみたい!」ってね。そうなのだ。僕も今思い出しても「バッカみたい」と思うのだ。
これが、僕の『大阪大学万葉旅行』に参加したときの「バッカみたい」な体験なのだ。
そして、僕は今でもこのときを後悔している。今、思い起こしても・・後悔で心が千々に乱れるのだ。
せっかく、初夏の最高の休日を万葉ハイキングで存分に楽しめたのに・・・
もっと、ゆっくり歩けばよかった・・・
X先輩と予期せぬ、そして、意味のない早足競争をしてしまった・・・
しんどいだけの思いをしたなあ・・・
皆さんにも、こんな風に、いつの間にか誰かと訳の分からない競争をしていたっていうことはありませんか?
そう、誰かと何となく、予期しない、そして、意味もない張合いをしてしまって・・とんだ、しんどい思いをしたってことが・・
こんな「バッカみたい」な体験を皆さんに共有できるのが、今日のよかったことだよ。
皆さんもお気をつけください。意味もなく誰かと張り合うのはよくないですよぉ。。。
〔皆さん〕そんなアホなことをするのは、お前だけじゃ! ボケ! 反省せい!
はい、そうですぅ・・・(反省)。
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