47 6月5日(日) 住宅番組が花盛り
レポーターのお姉さんが、おしゃれな造りの民家の前で、ご主人にマイクを向けた。かなり年配のご主人の横には、若い奥さんが並んで立っている。
「ご主人の〇〇さんは一級建築士で、ご自分のお宅を設計されました。〇〇さん、ご自宅設計のコンセプトは何ですか?」
一級建築士のご主人がはにかみながら答える。
「住んでいて楽しい家ですね。住人が楽しめる家づくりが私のモットーです」
レポーターのお姉さんが満足そうにうなずく。
「それでは、さっそく、お宅の中にお伺いしてみましょう」
一級建築士のご主人、レポーターのお姉さん、奥さんの順に家の中に入っていく。その後を音声さんやディレクターといったテレビスタッフが続いていく。
玄関で靴を脱いで家に上がると、すぐにリビングが現れる。レポーターのお姉さんがさっそくご主人にマイクを向ける。
「〇〇さん、玄関を入ってすぐリビングになってるんですね?」
ご主人が自慢げに応える。
「ええ、道からすぐに憩いのスペースに入れるんです。これは昔の縁側のイメージなんですよ。縁側って道行く人が誰でもちょっと腰かけて、話題に入ることができますよね。このリビングにはいつも仲間が集まることができるんですが、道行く知らない人が簡単にその仲間に入って、そして、いつの間にか出て行く・・そんな『寄合』のスペースがこのリビングなんです」
「なるほど。現在では無くなった『寄合』をこのスペースに再現しているわけですね・・・えっ」
お姉さんがリビングの真ん中に異様なものを見つけて絶句する。
リビングのソファと大型テレビの間に洋式便器があるのだ。洋式便器の周りには囲いも何もない。白い便器がリビングの中にむき出しなのだ。便器の横の床にはトイレットペーパーのロールが一つ置いてある。
レポーターのお姉さんがご主人に聞いた。
「こ、これは・・便器ですが・・オブジェですか?」
ご主人が見て分からないのかといった感じで答える。
「いえ、トイレです」
「ト、トイレ? こ、ここで用を足すんですかぁ?」
「そうです」
レポーターのお姉さんは信じられないのだろう。ご主人の横の奥さんにマイクを向けた。
「奥さん、本当にここがトイレなんですか?」
「ええ、そうなんです」
「だって・・ここはリビングのソファの真ん前で・・ソファに座ってる人から、全部見えちゃうじゃないですか? お客さんが来たら、みんな、このソファに座るんでしょ。お客さんの眼の前で用を足すんですかぁ?」
奥さんが笑った。
「ええ、そうなんです」
「えっ、では、奥さんもいつもここで用を足していらっしゃるんですか?」
「まさか。私と高校生の娘は2階のトイレを使っています。2階には普通のトイレがあるんですよ」
奥さんが2階を指さした。レポーターのお姉さんがつられてリビングの天井を見上げた。レポーターのお姉さんが素っ頓狂な声を上げた。
「あ、あれっ、リビングの天井の一部がガラスになってますねえ。あのガラスは何なんですか?」
奥さんが答える。
「あそこは2階の高校生の娘の部屋なんですが・・主人が娘が部屋にいるかどうかが分かるようにって、床の一部をガラスにしたんです。ガラスに影が写ると、1階から娘が2階の部屋にいるって分かるんです」
「でも、2階のお部屋の床にガラスですよね。あれって、娘さんがスカートだったら、見えちゃうんじゃないですか?」
「ええ。ですから、娘はスカートではあのガラスの上を歩かないようにしているんです」
・・・・・
読者の皆様はこれを読んでどう思われただろうか?
きっと、こう思われたんじゃないかな。
ああ、これは何かの小説の一部ね。また、このアホバカ最底辺お下品作者がくっだらない小説を書いて、宣伝するために一部を抜粋したのね。
でもね。そうじゃないんだ。ここに書いたことは、数年前にテレビで放映されていたことで、リビングの洋式便器や娘さんの部屋の床のガラスは全て事実なんだ。だって、ボクも妻と二人でテレビでそれを見たんだもの・・・
いま、テレビで住宅紹介番組が花盛りだそうだ。一つの独立した番組でなくても、ワイドショーなどの一つのコーナーで住宅を紹介していたりする。その多くは、レポーターと呼ばれる人たちが個人の住宅の中に入っていって、その家のご主人や奥さんから説明を受けるというものだ。読者の皆様もよくテレビでご覧になるのではないだろうか?
数年前にボクと妻がそんな番組の一つをテレビで見ていたのだ。そうしたら、この家が紹介されていて、ボクも妻もびっくりしたってわけだ。それで、そのときの記憶をもとにしてボクが再現ドラマ風にここに書いてみたっていうことなんだよ。だから、細部はボクの創作が入っているんだけど、さっき言ったように、リビングの洋式便器や2階の娘さんの部屋の床のガラスというのは本当の話なんだ。
それで、そのとき、僕たちの間でこんな会話が行われたんだ。
ボク:君。こんなところで、おトイレできる?
妻:できないわよ。リビングの中でしょ。丸見えじゃないの!
ボク:いや、君ならできるよ。なんせ、昔、僕の前でおシーシーしてたもん。
妻:あなたがおトイレの鍵に細工をしてね。あのとき・・
トイレの鍵の細工の話はまた別の機会に・・・
まだ、皆様の「リビングに便器があるなんて・・それでも信じられない~」って声が聞こえるよ。では、ここでボクと一緒にテレビを見た妻に証言してもらおう。
妻:初めまして。お下品馬鹿夫の妻です。いつも、馬鹿夫がお世話になりまして・・
ボク:おい、おい、挨拶はいいから・・
妻:あっ、そう。この番組は私も馬鹿夫と一緒に間違いなくテレビで見ました。リビングにおトイレがあったり、2階の部屋の床がガラスになっていたり・・信じられないことばっかりで、もう、びっくり・・それで・・皆様、聞いてください。うちのお下品馬鹿夫は・・おトイレの鍵に細工をしてですね・・私が入っているときに・・
ボク:はい、はい。そ、そこまでね・・
皆さま、これで信じてもらえただろうか?
それでね、こんな信じられないお話を皆様にお伝えできることが、今日の「よかったこと」だよ。
最近の住宅紹介番組では変わった家も数多く紹介されてる。
でもね、ボクたち夫婦はそれを見ながら、いつも言うのだ。
「変わった家って言っても・・あの家に比べたら、まだましじゃない」
皆様はどう思われるだろうか? ぜひ、想像してみてください。
ご自宅のリビングの真ん中にむき出しの洋式便器があって、ソファに座っている来客の眼の前で、あなたがその便器で用を足しているところを・・・
えっ、最高の気分ですって!・・・ぎゃび~ん。。。
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