39 5月28日(土) 今日の夫婦の会話

 妻が夕食を作ってくれた。僕の大好きな肉料理だ。


 わ~い。わ~い。お肉だ。お肉だ。

 

 ふと見ると、食卓の隅っこに小皿が置いてあった。小皿にはゆで卵が二つ入れてあって、ゆで卵のカラの上に塩がまぶしてある。


 僕は妻に言った。


 「君ねえ。ゆで卵のカラにお塩を振ってもねえ。カラの中は塩辛くはならんのだよ」


 妻が口を尖らせる。


 「知ってるぅぅ。わたし、あなたより、頭がいいのよ。そんなこと、分かってるわよ」


 「しかし、ゆで卵のカラにお塩を振るって、昭和だねえ。昭和の人はこうしてたんだよ。たぶん。よく知らんけど・・」


 「あら、私が小学校のときの給食では、ゆで卵のカラに塩が振ってあったのよ。だからね、カラを剥いたら、中身をカラについている塩につけて食べなきゃならなかったのよ。食べにくかったわ」


 「うわっ、田舎。昭和の田舎だねえ」


 妻は〇〇県△△市の出身だ。って、これじゃあ、どこか分からないよね。


 妻が僕に言う。


 「『たまゆで』のカラを剥いてあげようか?」


 僕たち夫婦は言葉を裏返して言う。『コーヒー』は『ひーこー』。だから、『たまゆで』は『ゆで卵』のことなんだ。しかし、『たまゆで』とは、すごい表現。ふつう、女性はとても口にできないだろう。妻は気づかないようだが・・・


 僕は首をかしげる。


 「そう言えば、この『たまゆで』は何で食卓にでてるの?」


 「あなたが、足らないって言うからよ。いつも食べてから、足らなぁい、足らなぁいって言うから・・そう言わさないように、『たまゆで』をだしてるの」


 「じゃあ、カラを剝いてくれなくていいよ。今日はたぶんこれでお腹いっぱいだぁ」


 「そうかもね。じゃあ、『たまゆで』はカラを剥かずに置いておくわ」


 僕は食事を終える。妻も食べ終わっている。妻が僕に言う。


 「ほうら、『たまゆで』のカラを剥かなくて正解だったでしょう」


 「うん、まあ、そうだけど・・」


 僕は首をかしげる。


 「でも、もし、『たまゆで』のカラを剥いてたら、どうなるわけ?」


 妻はウッて詰まる。


 「そ、それは・・カラを剥いてなかったら、そのまま、『たまゆで』を冷蔵庫に仕舞えるでしょ」


 「でも・・カラを剥いてても、『たまゆで』は小皿のまま冷蔵庫に仕舞えるんじゃないの?」


 「・・・」


 妻がさっさと話題を変える。


 「今日ねえ、さっき、ベランダで洗濯物を取り込んでたら、ものすごくタバコの臭いがしてたのよ」


 妻はタバコの臭いが大嫌いだ。特に、洗濯物なんかにタバコの臭いが付くのを嫌がるのだ。僕たちはマンションに住んでいる。僕たちが住んでるマンションではベランダでタバコを吸うのは禁止なのだが、時おり吸う人がいるのだ。


 「ほ~。タバコねえ。どこの階の人がベランダで吸ってたのかなあ?」


 「ベランダじゃないのよ。あれきっと、換気扇よ。どっかの家で、ご主人が換気扇の下でタバコを吸ったのよ。換気扇の排風って、ベランダに出てるじゃない。だから、そこから、タバコが臭ってきたのよ」


 僕は話題を少し変える。


 「君。もし、君の『おパンティ』にタバコの臭いがついたら、君はいや?」


 「そりゃ、いやよ。『おパンティ』にタバコの臭いがついて、喜ぶ女性ひとがいるの?」


 僕たち夫婦はよく『お』を付けて話すのだ。だから、パンティはいつも『おパンティ』って呼んでいる。『おパンティ』以外にも『おナプキン』、『おスカート』、『おスリップ』なんてよく言っているよ。ブラジャーは『おブラジャー』ではさすがに言いにくいので、『おブラ』だ。例が女性用品と女性下着で恐縮だが・・


 妻が強引に話題を戻す。


 「しっかし、ここのマンションって設計不良ね」


 「設計不良?」


 「だって、どうして、換気扇の出口をベランダにしなきゃあなんないのよ」


 「それは・・ベランダしかないからだよ」


 「玄関の横にすればいいじゃない」


 玄関の横!・・まあ、できないことはないわなあ。・・しかし・・玄関に換気扇の排風口ねえ?


 そして、僕の口からは別の言葉が出るのだ。


 「いいじゃないの。。幸せならば。。。昭和だねえ」


 こうして、今日も無意味でアホな会話が続くのだ。


 そしてね、今日のよかったことはね・・・今日も妻と無意味でアホな会話ができたことだよ。

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