26 5月14日(土) マルシェって何しぇ?
家の近所に古い商店街がある。その商店街の人には失礼になるかもしれないが・・率直に言うと『元商店街』と言った方がいいような商店街なのだ。昔はおそらく商店がずらっと並んでいたのかもしれないが(僕は生まれ育ちが別の土地なので、昔のことは知らないのだ)、今は民家の間にぽつりぽつりと昔の名残のような古い商店が残っているだけだ。もちろん、アーケードといった洒落たものはない。入口の電柱に『〇〇通り商店街』と書かれた錆びの浮いた金属製の表示が取り付けてあるので(電柱に? たぶん無許可だ)、それを見て初めて「ああ、ここは商店街なんだ」と分かるのだ。
さて、今日、僕は野暮用があって、その商店街の中を通ったのだ。そんなところに(失礼!)行く用事はめったにないので、僕が商店街を通ったのはたぶん数年ぶりだと思う。
すると、商店街の中央あたりにある駐車場の中に、テントが6つ張られているのが眼に入った。テントの周りにはたくさんの人が集まっていた。よく見ると、各テントの下にテーブルがあって何か品物が並んでいる。屋台のようになっているのだ。
『屋台大好き人間』の僕の足は自然にそのテントというか屋台に向かったのだ。
驚いたことに、どの屋台も若いお姉さんがやっていた。お姉さんの服装がピンクや黄色といった派手な色ばかりで、どの屋台も花が咲いたように艶やかだ。
『若いお姉さん大好き人間』の僕の顔が自然にほころんできた。
最初の屋台ではお姉さんが『クレーンターム 300円』と書かれたものを売っていた。
くれーんたーむ? ・・なんじゃらほい?
お姉さんの前にはテーブルがあって、そのテーブルには『埼玉県』『静岡県』『奈良県』『大阪府』・・と書かれた紙が貼ってあった。『大阪府』の横にさらに2枚『〇〇県』と書かれた紙があったのだが、『〇〇』のところに別のチラシが貼ってあったので読めないのだ。
『埼玉県』『静岡県』『奈良県』『大阪府』・・?
屋台を覆うテントの端から『チタン製ミニチュアマンホール』と書かれたチラシがぶら下がっている。
ミニチュアマンホール?
その横の屋台はピンクのTシャツを着たお姉さんがやっていた。屋台の前に小さな黒板のようなものがあって『tant-tant』と書かれている。その下に『タントコロッケ』という文字が見えた。
タントコロッケ?
その隣はこれまた艶やかなショッキングピンクの派手派手ワンピースを着たお姉さんが屋台をやっていた。
お姉さんが何かお
お
僕は怖くて近づけなかった。
その奥の屋台には黄色いエプロンをしたお姉さんがいた。やはり、屋台の前に黒板が出ていて『ピーちゃんの卵 520yen』、『幸せの双子卵 200yen』と書かれている。
ピーちゃんの卵? 双子卵?
その横の屋台には『焙煎所』とだけ書かれた黒板があって、真っ黒なワンピースのような作業服のようなものを着ているお姉さんがいた。
焙煎所だから、コーヒーを出してくれるんだろう。
その屋台のテントの下にはテーブルが2つ出ていた。テーブルの上にはタッパーやら竹の籠が並んでいる。
タッパー? 竹の籠?
肝心のコーヒーにまつわるものは・・どこにも見当たらない。
おかしいな?
眼をこらすと、奥のテーブルの上に缶コーヒーが並んでいるのが見えた。
???
最後の屋台は、とびきり美人のお姉さんがやっていた。お姉さんは白地に茶色のストライプが入ったブラウスに薄いグレーのカーディガンを羽織っている。下は紺のGパンだ。ブラウスの裾を無造作にGパンの上に投げ出しているのが、何ともイナセでカッコいい。
お姉さんが僕を見た。5月の明るい陽光の中で、お姉さんがちょっぴり首を傾けた。さわやかな風がお姉さんの前髪を揺らした。お姉さんがにこりと微笑んだ。白い歯が素敵に光った。まるで、青春映画のようだ。僕の胸がドキンとなった。
実は『お姉さんが僕を見た。5月の・・』以降は嘘で、今日は雨だった。そこで、ありのままに書くとこうなる。
お姉さんが僕を見た。5月の陰鬱な雨の中で、お姉さんが大きく首を持ち上げた。まとわりつくような風雨がお姉さんの前髪を揺らした。お姉さんがニヤリと笑った。白い歯が不気味に光った。まるで、ホラー映画のようだ。僕の胸がドキンとなった。
いけない。この美人のお姉さんだけ描写が詳細になってしまった。
美人お姉さんの前にも黒板があって『地サイダー』と書いてある。
地サイダー?
地ビールはよく聞くが・・地サイダーというものもあるのか? でも、地サイダーって、どんなサイダー?
美人お姉さんの屋台の横が出口だった。出口には『〇〇通り商店街マルシェ』と書かれていた。
というわけで、今日の僕のよかったことはマルシェを見たこと。
しかし・・マルシェ?・・それって、何シェ?
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