2 刑事富田

 六角はようやく自分が何をしたのか気づき、はっとした。それと同時に自分が尋常でないほど冷や汗をかいている事に気づいた。

「ははは、う嘘だよな。おい起きろって。冗談はやめてくれよ。」

「おい、嘘だろ。。。。。。。。」

 その時だった。彼のがプツリと音を立てて切れた。


                  ◇◇◇


 富田昇とみたのぼるはこの道10年のベテランだ。彼はいつものように自分の勤務先である警視庁に入り、自分のデスクがある捜査一課の部屋に入った。彼は刑事だった。


 いつものように8時30分からの捜査会議に向かっている途中に

「先輩知ってますか?何かすごい事件が起きたらしいんすよ。」

後輩の羽谷一哉はたにかずやが俺に声をかけてきた。こいつはまだまだ未熟でちょっとチャラいがやる時はやってくれる頼もしい後輩だ。

「ああ、事件の概要はだいたい知ってるぞ。」


「なんか聞いたところによると遺体が.........いてっ」


「そんな無駄話している暇があるならとっとと席に座れ羽谷」

羽谷の頭をどついたのは捜査一課長の神谷武かみやたけるだった。

とても優秀なのだが、その一方とても生真面目だった。それ故富田は内心神谷のことをあまり好ましく思っていなかった。多分羽谷も同じだろう。すこしふてくされた顔になっている。


 捜査会議は係長の高井清志郎たかいきよしろうがその日の捜査方針を発表し、他の刑事たちが前日までに収集した情報を発表する。しかし今日は違った、刑事たちの顔が皆重苦しかった。そしてその理由はすぐに分かった。先日河川敷で遺体が見つかったのだが、その遺体が普通ではなかった。遺体が原型を留めないほどのだ。

 俺はすでに捜査本部が設置されていたことは知らなかった。捜査本部に入り、席につく。すぐに捜査会議が始まった。

「各員、捜査結果の報告を。」


「はい。被害者は六角美誠むつかどみま、43歳女性。旧江戸川の河川敷にて遺体が発見されました。死亡推定時刻は不明。現場に残されていた石が凶器と思われ、それで頭部を強打されたものと思われます。」


「現場の状況は?」


「特に争った形跡はありませんでした。」


「そして第一発見者は河川敷を散歩していた老人で、遺体に被さっていたブルーシートの隙間から人の手のようなものが見えたので通報したそうです。」


「その老人にアリバイはあるのか?」


「はい、その老人はその日病院を退院しており、それまではとても歩ける状態ではなかったそうです。」


「そうか、他の容疑者は?」


「六角美誠の夫の六角靖です。」


「彼にアリバイはあるのか?」


「はい、あります。が、彼の近隣住民によると夫婦喧嘩の声がしばしば聞こえていたそうです。」


会議が進行している中、興味深い事件だと富田は心の中で密かに思っていた。


______________________________________




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る