第一章:記憶の友達

記憶の友達1

 そろそろ春休みが見えてきたある日のこと。その日も面倒な高校が終わり俺はいつものメンバーと目的も無く歩いていた。


「なぁー、どこ行く?」


 少し低く目の怠惰な声にそう尋ねられた俺は横目をその声の方へ。制服は声を体現するようにだらしなく着られ、前髪の片側を留めたヘアピンと耳のピアスが時折、日差しを反射している。隣を歩くのはいつもと何ら変わらない成瀬莉緒。


「んー。あの店員さんが可愛いとこは?」


 そんな莉緒に対して反対側から聞こえた返事に次は視線をそっち側へ。小柄な体と小動物のように無害そうな外見。桜庭夕晴はスマホに視線を落としながら歩いていた。


「お前、腹減ってないって言っただろ?」

「別に食べたいから行くじゃなくてあの店員さんの連絡先を手に入れる為に行くだけだから。それに飲み物だけでもいいじゃん」

「そーやってすーぐ女の人を誑かす。楽しーか?」

「人聞き悪いなぁ。別に誑かしてないって。話ししたり遊んだりしてるだけじゃん」

「はいはい。確かに遊んでる! だけだな」


 やけに遊んでるを強調した莉緒だったがその思惑とは裏腹に夕晴は清々しい表情を浮かべていた。


「まぁ莉緒には連絡先訊くなんて勇気ないからね。僻むぐらい許してあげるよ」


 その言葉に敗北を認めた訳ではなさそうだが莉緒は舌打ちをした。


「蓮はどっかないのか? そこの女たらしの言ってたとこ以外で」


 俺は一度隣を見遣るが、夕晴は平然とスマホに視線を落とし特に気にしてる様子はない。予想通りな夕晴から視線を前へ戻すと莉緒の質問を考え始めた。

 ボーリング、スポーツ、映画……。だけどどれもしっくりとはこない。色々考えていると以前、放課後に行った場所の事を思い出した。


「じゃあ……。前行ったeスポーツカフェとかは?」

「おっ! いいじゃん。それだよそれ!」

「僕あれしたいな。この前したやつ」

「あぁーあれな。名前忘れたけど」

「XnXだろ?」

「それそれ!」

「おっしゃー。それじゃー行くかー」


 そして無事、行先の決まった俺らは近くにあるその店へと足を進めた。

 それから空が夕焼け色に染まるまでゲームをしてた俺らは勝ち越したおかげでご機嫌に帰路に就いていた。


「いやぁー。あの夕晴のキルはやばかったなぁ」

「いやいや、あの最後の一人になった時の莉緒の立ち回りこそ凄かったよ」

「おっ! そうかぁ? まぁでもあの試合はなんといっても蓮の安定感があってこそだろ」

「確かに。蓮がちゃんとキルしてくれてたお陰だね」

「じゃ、明日ジュースな」

「それは嫌」

「調子に乗るなよ?」

「なんだよ」


 それからも二人はあそこがヤバかっただのあれはダメだっただの色々と話しをしていた。その話を聞き流しながら俺はふと、今朝見た夢を思い出した。知らないようで懐かしい。懐かしいようで知らない。あのたまに見る不思議な夢を。

 そしてその夢を思い出していると釣られてこんな事が思い浮かんだ。


「なぁ。明日、久しぶりに秘密基地行かね?」

「秘密基地? あぁ、あの子どもの頃に作ったやつ?」

「そう」

「うっわ。なっちぃー! あったなそんなの」

「えー。でもあそこって林? 茂み? の中でしょ? 虫とか一杯いるじゃん」

「あれ? もしかして夕晴さん、見知らぬ女の人から連絡先訊く勇気あるのに虫ごときにビビッてるんすか?」


 さっきの仕返しか俺越しに莉緒は煽り顔と言葉を夕晴へ。


「ビビってるって言うか――キモい。僕、莉緒みたいにいつまでも少年の心を持ってる訳じゃないからさ」

「お前、遠回しにガキって言ってんだろ?」

「え? そんな事言ってないよ? でも高校生になっても小学生の頃と変わらないって素敵な事だと、僕は思うよ」

「コイツ……。大量の虫捕まえてきて頭からぶっかけてやろうか?」

「もぅー。止めてよ。でももしほんとにそんなことしたら――許さないから」


 本気でしてほしくないんだろう。夕晴の双眸が鋭く光る。さながら獅子王の眼光だ。普段の小動物から打って変わって狩る側へ変化した夕晴に莉緒は少し身を引きたじろぐ。


「げっ! じょ、ジョーダンだって。する訳ねーだろ」

「だよね! 良かった」


 かと思えばさっきのを無かった事にするようにいつもの笑みを浮かべた。そんな夕晴を訝し気に見ながら莉緒は俺の耳元へ顔を近づけ囁いた。


「あいつって本当は二重人格なんじゃねーの?」

「え? なに?」

「いや、なんでもねーって」

「まぁでも、嫌なら無理に連れて行く事でもないし。明日は俺と莉緒で行くか」

「そーだな。お前はあの店に行ってその店員の連絡先でもゲットしてくればいいんじゃねーか?」

「ちょっと! 僕も行くよ。虫が一杯いるって言っただけじゃん! 行かないなんて言ってないって」


 ムスッとした表情を浮かべながら夕晴は少し慌てるようにそう言った。


「んじゃーそう言う事で」


 丁度、二人と別れる場所まで来た俺はそう言って別の道へ。


「また明日なー」

「ばいばーい」


 後ろから掛けられた声に前を向き足を進めながら軽く手を上げて返す。そしてそのまま俺は家に帰った。

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