おまけ

おまけ

 二人の言葉を聞いた後、咲良の顔は俺の方へ向いた。

 目が合い笑う咲良。それは太陽が照る青天の下、金色に染まった向日葵畑が良く似合う――咲良によく似合う笑顔だった。


「ありがとう。――蓮」

『助けて――蓮』


 咲良の言葉の直後、俺はあの夢の言葉を思い出した。そしてちゃんと答えられたんだと改めて嬉しくなった。


「いいよ。別に」


 つい俺も笑みが零れる。

 すると突然、夕晴がそんな俺の腕を掴んできた。というより腕に抱き付いて来た。


「ねー。ずっと気になってたんだけどさ。咲良っていつになったら蓮に告白するの?」

「えっ? ――ちょっ! な、なに言い出してるの? しないって。そんなの」

「いや、でも好きなんでしょ? 恋愛的な意味で」


 友達としてという回答を予め潰すように夕晴はそう付け足した。


「別にそんな事、一言もいったことないでしょ。勝手に止めてよ」

「えー? そうなの? 僕はそうだと思ってたんだけどなぁ」

「オレもそうだと思ってたけど、違うのか」

「ちょっと莉緒まで」

「ふーん。――じゃあ。咲良がいらないんだったら僕が貰っちゃおうかなぁ」


 要らない、貰うって。物かよ俺は。


「えっ?」

「ダメ?」

「ダメって……。確かに女の子っぽい顔してるけど、そもそも夕晴、男じゃん。それに蓮も男だし」

「いやいや。愛に性別は関係ないって。実は僕、両方いけるから。蓮、クールでカッコいいし、僕の好みなんだよね」

「えっ? ちょっ、本気で言ってるの?」

「本気だったらどーする? 言っとくけど後からやっぱ好きだったって言っても、もう渡さないよ?」

「待って待って。ちょっと待って。混乱してきた。――私、ちょっと先に行ってるね」


 そう言って咲良は行ってしまった。


「お前、なにやってんの?」


 依然と腕に抱き付いたままの夕晴に俺はさっきの行動の真意を訊いた。


「いやぁ。ここら辺で正直な気持ちを打ち明けさせてあげようと……」


 すると俺を挟み莉緒が夕晴に近づいた。


「なぁ。さっき言ってた事、マジ?」

「ん? さっきって?」

「お前って両方いけんの?」

「んー。もしそうだったら?」

「いやいやいや。べ、別にオレはなんにも。お前がどうだってこれまで通り友達だ。これからもずっと友達だからな。あと、オレ彼女いるからかんけーねーし」


 やたら友達を強調する莉緒。


「そうだっとしても莉緒は別にいいかな」

「おい! なんだよそれ!」

「なに? もしかして嫉妬してる?」

「してねーけど。なんか、そうあっさり捨てられると癪っつうか。傷つくっつうか」

「うわー。めんどくさっ。あんまり彼女にめんどくさがられる事しちゃダメだよ。どれぐらいまでが良くてどれぐらいからがダメかちゃんと見極めておかないと。あっ、でもあんまり無理して溜め込むのも良くないからね」

「なんでお前にアドバイスされねーといけねんだよ。お前、彼女いたことねーだろ」

「でも莉緒の十倍は知ってるからね」

「じゅ、十倍は言い過ぎだろ」


 自分より女性の事を知ってるという点は否定しないのか。俺は莉緒の返事を聞きながら密かにそう思った。

 そしてそんな風にいつも通りのやり取りをしながら二人は歩き出した。


「何やってんだあいつら」


 一人残された俺はそう呟くと、お墓参りの道具を拾い二人の後に続いた。

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四月の忘れ事 佐武ろく @satake_roku

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