記憶の友達6

「で? どうすんだ?」

「調べるっつても手がかりはあのあやふやな夢とこの名前だけだしな」

「じゃあ、とりあえず先にその颯羊って子を探さない? 何でみんな揃って中学からの彼との記憶が無いのか。何で今まで彼の事を忘れてたのか。それが分かればその女の子の事も思い出せるかも」

「確かにな。でも中学からの記憶がないのに関しては、引っ越したとか別の中学に行ったとか、説明のつけようはあるけど……」

「でもそれだけじゃ僕たちが忘れてた説明がつないよね」


 どうして忘れてしまっていたのか。それが一番最初に解決すべき事なのかもしれない。


「もしかしたらさ」


 すると莉緒が少し浮かない声で恐々としながらまずは一言そう言った。


「いや、オレ今から不謹慎な事を言っちまうかもしれないんだけど」

「なに? 別に何言っても聞いてるの僕らだけだし」

「――もしかしたらその二人って」


 莉緒は直前でもう一度、言葉を止めた。少しもどかしかったが俺も夕晴も続きの言葉を黙って待っていた。


「死んじまった……とか」

「今朝と同じ事言ってるぞ?」

「何でそうなるの?」

「いや、ちげーんだよ。今朝はもっと昔に死んだ霊が一緒に遊んでた。でもこっちはオレたちと遊んでる時に、オレたちの目の前で事故かなんかでさ。それでオレたちはそのショックで忘れてたとか」


 確かにそれなら忘れてた説明も中学から一緒にいない説明も一応はつく。


「だけどそう言うのって事故の瞬間とかを忘れるもんじゃないのか? 詳しくないから分かんねーけど。そんなその人物を丸々全部忘れるもんなのか?」

「いや、オレも分かんねーけど」

「それに全員が全員、同じように忘れてたからね。――あっ、でもさ。何で蓮だけはずっとあの夢を見てたの?」


 夕晴はそう言うと俺の方を見たが答えられるはずもない。


「分かってたら言ってる」

「だよねー。それに莉緒の言う通りショックから忘れてたんなら、その颯羊っていう子を思い出した時点で全部思い出しそうだけどね。そうじゃなくても女の子の事を少しぐらいは思い出しそう」

「確かになぁ」


 振り出しに戻った俺らはまた黙り込んだ。かと思ったがすぐに莉緒が再び声を上げた。


「じゃあじゃあじゃあ! 昔遊んだとこを回ってみるってのはどうだ? ここに来て思い出したんならもしかしたら他の場所でも思い出すかもしんねーじゃん。んでどんどん思い出していって最終的には全部思い出すかもじゃん」

「まぁ確かにそうかも。それにもしかしたら他の場所で少女の事を思い出すかもしれないし」

「ここの他だと公園とかか」

「あとあの駄菓子屋もだろ? てかあそこってまだやってんの?」

「さぁ。でもなんか想い出巡りみたいでちょっと楽しみかも」

「あっ、そーいえば何回か神社にも行ったことあったよな」

「あったか?」

「僕は覚えてるよ。名前は覚えてないけど小さいとこだよね」

「そうそう」

「まぁでもさ。とりあえずそれは明日にしない? 丁度、土曜だし」


 俺は一度スマホで時間を確認した。別にそんな時間でもなかったが、色々と回る時間はない時間帯。それに暗い中より昔遊んだ時と同じ日の照る時間帯の方が思い出しやすいのかもしれない。


「そーだな」

「だな」

「あと、二人も中学とか小学校の友達に長宅颯羊って子の事、覚えてないか訊いてみてよ」

「俺らが忘れてるだけで誰かは覚えてるかもしれないしな」

「でも別の学校だったって可能性もないのか?」

「なくはないけど、訊いてみて損もないでしょ」

「おっけー。っつってもオレと蓮の知ってる奴なんて全員お前が知ってるだろ。無駄に顔がひれーんだから。無駄に」

「人脈があるって言ってくれる? まぁでもそうだけど、めんどいじゃん」


 そう開き直ったように清々しい顔で言う夕晴へ近づいた俺は肩に手を置いた。


「頼んだ」


 遅れて莉緒ももう片方の肩へ。


「さすが夕晴! さんきゅー」


 すると俺らの言葉を聞いた夕晴は溜息と共に一瞬にして表情を変えた。めんどくささと諦めが混じった表情へ。


「――はぁ。もう分かったよ。その代わり今から秘密基地に戻って他に何か彼の物が無いか調べるのは二人だからね」

「それぐらいはな」

「任せとけって」


 その後、秘密基地に戻り中を色々と調べてみたがセピア色の欠片はあれど、あの缶以外に手がかりになるような物はなかった。基地内は狭く何かあるとはあまり思えなかったが、やっぱりそうだったというだけ。

 そして俺らは他にやることも無くその日はそれぞれ家へ帰ることになったのだが、その途中で莉緒がこんなことを言っていた。


「はい。ここでオレからもう一つ、説を提唱したいと思います。名付けて、実は空想のお友達だった説」

「却下」

「んでだよ! あるだろ。それを本物だと思い込み過ぎてそう記憶に定着しちゃった説」

「莉緒だけならあり得るけど、僕は空想のお友達を作るタイプじゃなかったし。それに小学生って言っても高学年だよ? ない」

「嘘つけ。ホントはいただろ空想のお友達。蓮はどう?」

「お前の説か? それとも空想のお友達がいたかどうかか?」

「両方」

「流石に三人揃って同じ空想の友達を見るとは思えないし。実際に友達がいるんだから空想のは必要ないだろ。俺にいたかどうかは――知らん」


 この時、少し思い出してみた訳だが物心が付いたぐらいにそんな友達がいたような気もする。だけど「いたかも」なんて言えばあれこれ訊かれそうだったから止めた。よく覚えてないし何より面倒だ。


「あっ! さては居たな?」

「えっ? 蓮もいたの? 莉緒と同じで?」

「だから知らねーって」

「まぁまぁ恥ずかしがる事ねーって」

「うわぁー。莉緒はちょっとバカっぽいけど、蓮は何て言うんだろうギャップ? 可愛いかも」

「おい。差別だろ。何でオレはバカなんだよ」

「っぽいだから。あーでも気になったんなら訂正してあげる。よしよーし。可愛いぞりおー」


 頭を撫でる夕晴とそれを払いのける莉緒を他所に俺はやっぱりいないと答えればよかったと一人後悔していた。

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