清楚な本堂と老僧と
歩き出した凌介の姿に、真咲と新九郎も口論を止めて、渋々その後に続いた。
「こいつぁすげえ。ただの山寺とは思えねぇ」
真咲がうなった。
本堂に入った三人が一番に見たものは、
見上げれば、天井は遥か上だった。高い場所に縦横に
長く吊り下げられた
小窓の外はもうとっぷりと暮れて、本堂の中も明かりの届かない
「誰も、いない……」
新九郎がつぶやいた。
「なに、入れ違いで帰ったのさ」
真咲の低い声は自分に言い聞かせているようだった。
あの時確かに見えていた人影が、今は
立ち尽くす三人の影だけが、もの言わぬ仏像と
ひやり、と冷気が身体を抱きすくめてくる。
「おかしい。俺たち、誰ともすれ違ってない。なのになぜみんないなくなってるんだ」
新九郎が周囲を気味悪げに見回した。
「ハッ! 悪い面ばかり見やがって! 見てみろこの床、化け物が掃除したのか!? あの花鉢、幽霊が
真咲が必死であざ笑う。
確かに、本堂は美しく
それは、
「だけどよ……!」
新九郎が更に言いかけたその時だった。
「どなたかな」
一人の老僧が
新九郎が飛び上がり、びくッと真咲が反応し、ハッとしたようにお互いを見て、何もなかったかのようにそっぽを向いた。
ずっと無言で本堂の中を見回していた凌介が、この時、サッと前に出た。
「
「桐の、三面鏡。
凌介の落ち着いた声に、老僧は板張りの床を滑るように近づいてくると、
「それはそれは。……あいにく
「よろしいですか」
「お
「ご迷惑でなければ」
「承りました。ではあちらに部屋をしつらえましょう」
一礼した老僧が、
「なんでい。やっぱりここは普通の寺か。じゃあ凌介、新九郎、探すもの探してさっさと帰るか」
真咲が、ぐったりと疲れた声音で言った。
「異存なし! はは、やっと意見が一致したぜ。」
その言葉に、初めて新九郎が嬉しそうな笑みを見せた。
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