Time is life 5
第二生徒会準備室と呼ばれたこの部屋は完全に物置だった。物置というよりゴミ置き場と表現しても差し支えないかもしれない。部屋の大きさや間取りはさっきいた生徒会室と同じで入り口の引き戸の反対側にはベランダに出る窓があり、部屋の左右には天井まで届く5段の棚が設置してあった。問題はその棚に置いてあるもので、黒ずんだ段ボールやら埃まみれになった謎の布(カーテンか?)、何が包まれているのかわからないゴミ袋などなど、大量のゴミが置いてあった。もう5年は人が出入りしていないような部屋だなこりゃ。そう思ってため息ついでに足元を見てみると床に積み上げてある雑誌や散乱している新聞紙には埃が積もっていた。俺の予想は正しいかもしれない。
「この超汚いガラクタ部屋のどこが作業部屋なんだ?どうみても物置にしか見えないんですが」
俺は部屋から漂ってくるホコリと古い紙の匂いをかぎながら言った。
「そうよ。物置よ。だからあなたとルナで掃除してもらうの。大丈夫よ、すぐ終わるわ」
葵はさも当然であるかのようにい言い切った。掃除?
俺は隣に立っている夕霧ルナの顔を見てみた。ルナは額に困惑と書いてあるように見えるぐらい困った顔をしていた。おそらく俺も似たような顔をしているのだろう。どうやらこの先輩には人に事前になにかを話しておくという考えがないみたいだ。
「今の生徒会室は秋夜高校との会議で結構頻繁に使っちゃうから、いっそのこと新しい部屋を用意しちゃおうと思って。掃除が終わったらあとはあなた達が仕事しやすいように好きにレイアウト変えていいわよ」
葵はゴミには目もくれず、さも当たり前であるという顔をして喋り続けた。
つまり、俺たちはここを掃除して、自分たちで作業部屋を構築しろと。
「そう」
なんで俺たちがそんなことやらなきゃいけないんだ。
「人員が足りないからよ。いい考えだと思わない?新しい部屋、自分たちだけの生徒会室!」
いやちっとも。大体壁にひびが入ってる部屋のどこが新しいのか。
「それはあなたたちの頑張りしだいでどうにでもきれいになるわ」
掃除をするのはわかった。それで、綺麗にしたらどんな仕事をすればいいんです?
「掃除が終わったら伝えるわ、それよりまずは作業場所を確保するのが先決よ」
マジで言ってるのか?この汚部屋を?俺たち二人で?
「マジよマジ」
俺と葵がそんな不毛な言い争いをしていたとき、ルナは何をしていたかというと室内に恐る恐る入って棚を物色し歓声を上げたりしていた。
「わーアオちゃん、見てこれ。かわいいぬいぐるみ!」
などといって持ってきたのは埃まみれのテディベアであった。
「あら、そんなものもあったのね。十数年前の生徒会の置き土産かもしれないわ。捨てちゃっていいわよ」
「そんなー、かわいそうだよ。きれいにして生徒会に置いちゃダメ?」
「なんでもいいわ。とりあえず、この部屋にあるものはほとんどいらないもの…というかこの学校にいる生徒と教師にも何だかわからないような古いものだから全部ごみとして捨てちゃって。好きなものは取っておいてもいいわ。粗大ゴミは中庭の粗大ごみ置き場、燃えるごみと燃えないゴミは分けずにゴミ置き場、紙とか新聞紙は資源ごみとしてまとめて事務室のベランダね。期限は今週中。できれば今日明日で終わらせてほしいわ。じゃないとそのあとの仕事がきつくなるわよ」
そう言って私はほかの仕事があるからじゃあね、と俺が反論する前に葵はすたすたと部屋から軽やかな足取りで出て行った。なんなんだあの上級生は。
「え?ちょっと!アオちゃん待ってよ」
とルナが追いかけるのも虚しく行ってしまったようだ。なんというか、すごい先輩だなあの人。
というわけで今日の俺たちの仕事が決定した。汚部屋掃除だ。
「はぁ~…」
俺は大きなため息をつく。隣で埃まみれのテディベアを抱いたまま突っ立っていたルナも
「2人で。掃除…。一週間……。2人で……」
とブツブツ考え込むようにつぶやいていたが覚悟を決めたようで
「しょうがないよ。この量だと3日ぐらいで終わらせられそうだし、頑張ろう。私これでも掃除得意なんだ」
そう言ってルナは部屋の隅にあった掃除用具入れからハタキを取り出した。しょうがない、やるしかないか。
残念ながら掃除用具入れの中に入っていた箒やハタキはかなり劣化していて使い物にならなかったので事務室まで掃除道具やらゴミ袋をもらいに行く。事務員のおっちゃんに事情を話したら、俺が骨折していることに気を遣ってくれて親切にも業務用のハンディ掃除機とモップを貸してくれた。これで床を這い蹲って雑巾掛けしなくて済む。サンキューおっちゃん。
ついでにお互いの教室でジャージに着替えた後、数々の掃除用具をひっさげてえっちらおっちら第二生徒会準備室まで戻ってきた俺らはそれだけで汗だくだった。全く暑い。
まずは隙間もなく床の上に置いてある紙ゴミをまとめる。みると数年前の週刊誌やら印刷をミスった生徒会誌やら黄ばんでもはや書いてある文字すら読めない藁半紙がほとんどで、なぜ今まで捨てなかったのか甚だ疑問だ。本当に仮のゴミ置き場だったんじゃないかここ?
それらをいくつかの束にして一階の事務室との間を往復する。まとめてみると思った以上に重く、こんなのを持って階段を降りたら夕霧ルナの華奢な体では転げ落ちてしまう心配があるので、紙ゴミ運びは俺の仕事になった。俺だって体は細いほうだし、ご存知の通り左手は骨折の治療中なので、右手にまとめた紙類を引っ提げて5回ほど往復した。生徒会に呼ばれて一番にやる仕事が力仕事とは全く思わなかったね。ジャージは早くも埃まみれで、洗濯をしてくれる母が文句を言ってきそうだなと思った。
そのあとは部屋の両脇にある棚に安置してあるガラクタの数々を片付けていった。さっきの布の塊はやはり穴がたくさん開いた古いカーテンだった。入っていた袋には「廃棄」とマジックで書いてあるから粗大ゴミとして捨てて良いだろう。ていうか、廃棄と書くならその時捨てればよかったのに。その他、謎の古ぼけた木箱、壊れたパイプ椅子、パンクしたバスケットボールの残骸十数個、ボロボロになったテニスネット……などなどが粗大ゴミとなった。重い粗大ゴミは一階まで持っていくのが面倒なのでとりあえず廊下に出しておく。この部屋の先には社会科室があるがあの特別教室はあまり使われないので廊下にゴミを置いていてもそこまで迷惑はかけないだろう。
さっきのルナの「掃除が得意」という発言は何かの冗談か全くの嘘であったらしく、昔の生徒会のアルバム等を捨てようとするたびに「もったい無い」とか「かわいそう」とか言うもんだから全く掃除が進まない。
「何か生徒会の今後の活動に使えるかもしれないよ!」
と興味津々に古い生徒会誌を読み込む夕霧ルナから奪い取って捨てることはできなかったので、結局それらは部屋の隅っこにダンボール2箱分となって保管された。いつか使う時が来るのだろうか。
そのほかにもいろんなものが出てきた。いつの時代かわからない埃まみれの扇風機やら、オークションサイトに出せば骨董品としてそれなりの価値がつきそうな超旧式パソコンや、生物部が実験体を冷やすために使っているような業務用冷蔵庫、簡易ガスコンロに鍋まで出てきた。昔の生徒会はこの部屋で生活でもするつもりだったのか?これらの生活に使えそうな道具は何かと便利そうなので取っておくことにしよう。古いながら使えそうだったので後で綺麗に整備するつもりで部屋の隅に置いておくことにする。まだまだ残暑厳しいから、冷蔵庫を綺麗にしたらアイスでもストックしておきたいね。
そんなこんなでぶつくさ文句と無駄口をたたきながら作業を進め、
「ふ〜……、結構片付いたね………」
とルナが言ったのは数時間後のことだった。確かに足の置き場もないゴッチャゴチャのお部屋と比べるとだいぶ片付いたと思う。3日はかかると思ったが意外と早かったな。
まあ片付いたと言ってもゴミをまとめて捨てただけのことで、まだ棚には無造作に前述の鍋やら謎の遠心分離機(これも捨てようと思ったのだが化学室の備品だったら怖いのでとってある)やらが置かれていて、整理という点では何も終わっていない。廊下にも粗大ゴミが安置されたままだ。あれを一階まで運ぶのには相当の労力が必要で、俺たちだけじゃ無理そうだから応援でも呼ぶしかないな。
だが今日のところはこんな感じでいいだろう。作業を始めてから結構な時間も経過した。4時くらいから始めたから多分もう下校時刻の7時近いんじゃないか。
俺は部屋の真ん中に仮設した長机にハンディ掃除機を置き、壁に立てかけてあった折り畳み椅子を広げ、座る部分の埃を手で払ってからドカッと座り込んだ。床に折りたたんであったパイプ椅子は4脚がまだ使えそうだった。これで床に座り込んで作業する羽目にはなるまい。とルナも同じ動作をやさしい手つきで行い俺の向かい側にストンと座った。座った途端これまで以上に疲労がドッと押し寄せてきてしばらく2人とも無言でまるで体がゴムになったかのように全身を脱力させる。
「アオちゃん戻ってきてないけど今日はもう帰っていいかな?」
「いいんじゃないか。ここまでやったら文句は言われないだろ」
埃っぽい部屋の換気のため最大限開け放った窓から涼しい風が吹き込んできた。空は絵具で塗ったかのように真っ赤に染まりちょうど黄昏時を迎えている。
「まだ日は長いな」
そう呟いて俺はふぅ〜と息を吐いた。前を見るとルナも顔に赤い光を反射させながら眩しそうに目を細めて空を見上げていた。
突然前触れもなくバンッと引き戸が勢いよく開いた。向かいに座って黄昏ていたルナが「ひょえっ」と変な声をあげて椅子から飛び上がる。
「どお〜?進んでる〜?」
ほしかったおもちゃを買ってもらった子供のように何やら上機嫌そうに声を上げながら入ってきたのは俺たちの疲労の元凶である月原 葵であった。
葵は疲労困憊で口も開かない俺とルナ、そして部屋全体を見回し
「あれっ」
と声を上げた。どうした。掃除させる部屋を間違えたとか言うなよ。
「違う違う、思った以上に早く片付いてびっくりしたのよ。あの量をこんな短時間で処理するなんてあなた達結構やるわね」
確かに葵は今週中には終わらせろと言っていたから早い方なのかもしれない。
「ただ粗大ゴミは廊下に置きっぱなしなんだがあれはどうすればいい」
「あれはどこかの掃除当番にでもやらせとけばいいわ。そうね、社会科室掃除なんて暇そうだしちょうどいいんじゃないかしら」
「あ、アオちゃんそれなら社会科室掃除担当はうちのクラスだから当番に言っておくよ」
「それがいいわ。ルナから頼まれればどんな願いでも男子は受け入れちゃうしね」
そんな茶化しに突っ込む気力はもはやルナにはないようで「そんなことないよ…」と呟いただけだった。
「とりあえず、これだけ終われば今日は文句ないわ。帰っていいわよ。これから毎日放課後はここに来て仕事すること。いいわね」
毎日?マジでいってんのか?週何回とか隔日とかじゃないのか?ていうか仕事ってなんだよ。マラソン大会にそこまで多くの仕事があるとは思えないんだが。
「注文が多いわねぇ。マラソン大会だっていろいろ名簿だとか景品だとか生徒会通信とか仕事は山ほどあるのよ。それに隔日でやって間に合わなかったらどうするの。学校行事なんだから間に合わないのはもってのほかよ。そのためには早め早めの準備が必要だわ」
葵は口角の上がった上機嫌顔のまま続ける。
「だから、毎日来て仕事すること。作業が終わればそれであんたの役目も終わり。だらだらとマラソン大会当日まで続けるなら一気に終わらせた方がいいじゃないの」
いやでも、俺にも用事とか…あー……今のところはないがこれから入るかもしれない。
「じゃあこれが用事ね。カレンダーに毎日生徒会手伝いって書いておきなさい。言っておくけど遅刻とサボりは許さないから」
そう言って葵はバンっと入り口の引き戸にA4のコピー用紙らしきものを貼った。そこには手書きで左側に『阿武隈 陸』『夕霧 瑠奈』と並んで書かれ、バラバラな間隔で線が縦に引かれていた。どうやら出席表らしい。
おいおい、マジで俺たち二人だけなのかよ。
「え?アオちゃん手伝ってれないの?私たちだけ…?」
ルナも同じようなことを口にした。
「もちろん私とか竹クンも暇だったら手伝いに来るわよ。けどそれ以外はあんたたち2人で作業してもらうわ」
そこで葵は俺に顔を近づけて
「いいじゃない。あのルナと密室で二人っきりよ。学校の男子の少なくとも全員がよだれを垂らしてうらやましがるわよ」
そしたら涎ダラダラのそいつらにやらせればいいじゃないか。俺は例のテディベアにガムテープをペタペタつけて埃を取っているルナを目の端に捉えながら言った。
「そしたらルナが何されるかわからないわ。男と二人なんて危険よ」
俺も男なんだが。
「あんたは別よ。他人に興味なさそうだし、そもそもそんな勇気ないでしょ。顔はいいけど性格がダメなパターンね」
それは褒め言葉として受け取っていいのか。
「さあね。自分で考えなさい」
そう言って葵は壁の天井付近をキョロキョロと眺め「あら、ここ時計ないのね」といってポケットからスマートフォンを取り出した。
「私はもうすぐ会議だから失礼するわ。ルナは鍵の返し方教えてあげて。職員室でいいから」
ルナは「うん、わかった…」と言ってから
「アオちゃんホントに2人だけなの?2人だけは…その……ちょっと…」
「だぁいじょうぶよ。この坊やはおとなしいから特に何もしてこないわ。何かあったらすぐ私に言いなさい。速攻で死刑に処するから」
おいおい、俺の人権はどこに行ったんだよ。ていうかルナが言いたいのは俺と二人きりってことじゃなくて人員が足りないってことだと思うぞ。
ルナは数秒間俺をちらちら見つつ何やら考え込んでいるようだったが
「まあ…うん。わかった。暇なら手伝いに来てね」
とだけ言ってそれから
「坊や…?」
と首をかしげた。
「じゃあね」と黒い髪を優雅になびかせ葵は第二生徒会準備室から出て行った。
見た目と性格のギャップが激しい先輩だな。ぱっと見ではおしとやかで寡黙キャラのはずなんだが…。やれやれだ。
「あいつはいつもあんな感じなのか」
「うん。もともとは1年生の頃に学級委員長をやってたらしいんだけど、リーダーシップがあるから生徒会にスカウトされたんだって」
なるほど、人を引っ張る型の天才か。俺とは正反対みたいな先輩だな。
「たぶん次の生徒会はアオちゃんじゃないかな。2年生生徒会代表やってるし。まあ2年生も人少ないんだけど」
ふーん、まああの感じだと立候補すればなれるだろう。まあ生徒会選挙は確か11月後半だし、その頃には俺は生徒会を去っているだろうから関係ないが。信任投票になったら信任票を投じてやるぐらいはしてやるか。
「ふー」
俺は一息ため息を吐いて
「帰るか」
とつぶやいた。
「そうだね、帰ろう」
俺たちは床に転がっていた鞄を背負い、戸締まりをして外に出た。鍵の返し方を教えてくれると言うのでルナについて行く。
職員室の入り口で
「生徒会役員1年の夕霧瑠奈です。えっと……第二生徒会準備室?の鍵を返しに来ました。失礼します」
と、まるで戦国武将のような律儀な名乗りをあげて入っていったルナに「うっす……」と適当に挨拶をして続く。職員室奥にある鍵棚を目指して歩いて行くとパソコンとにらめっこしていた教師が顔を上げ次々にルナに声をかけていく。ルナは「えへへ…」とか適当な返事をして教師どもの声をやり過ごしていた。まるでアイドルだな。ルナを見上げて目の保養をしたらしいおっさん教師どもはそのニコニコ顔(ニヤニヤといった方がいいかもしれない)を彼女の後ろに向け、目を丸くした。言わなくてもわかる。「なんでこんな美少女の後ろにこいつがくっついているんだ」の顔である。失礼な。俺は教師どもにできるだけ冷たい視線を浴びせるよう努力しながら歩いた。
「ここに管理棟のキーケースがあるから、開けて……よいしょ、ちょっと硬いから気をつけて。4階の鍵はこの段。鍵を借りる時と返す時は右の名簿に部屋と名前書くのがルールなの。それで無かったときは——」
ルナから鍵の説明を受けていたところ、「おや、夕霧さん、元気?」と横からおっさんの声がした。振り替えるとたっているのは40代くらいのおっさん、もとい校長だった。半袖のTシャツ姿で右手にソーダ味のアイス片手にニコニコ笑っている。とても偉そうには見えないがこれでも地域での評判はなかなかなものらしい。
「そちらは…?ああ、1年生の…阿武隈君…だっけ?」
「そうです、どうもこんちは」
どうやらこの人の良さそうなおじさんは俺の名前を覚えているらしい。一,二度くらいしか話したことなかったはずだがよく覚えていたな。我ながら珍しい3文字漢字の苗字なので割と名前を覚えてもらえることは多いが。
「生徒会に人が足らなくて手伝ってもらってるんです」
とルナが補足してくれる。
「あーそうなの。自主的に手伝ってくれるなんて偉いね」
「はあ、ありがとうございます」
別に自主的に手伝うとは一言も言っていないし、むしろ強制労働と言ったほうが正しいとは思うのだが、そこは黙っておく。
「いま第二生徒会準備室の掃除してたんです。あそこを作業部屋にする予定らしくて」
「えっ!あのゴミ部屋を?それはそれはご苦労様」
校長がゴミ部屋と言ってしまうのはいかがなものかと思うが事実だからしょうがない。
「阿武隈くんはその腕、大丈夫なの?」
「ええ、まあ、お陰様で後1ヶ月もすれば治るらしいです」
「全治2ヶ月ってところかい?意外と長くかかったものだねぇ。おだいじにね。牛乳とか飲んでカルシウム摂ることを忘れずに」
「ああ、はい、ありがとうございます」
そう言って俺はちょこっと頭を下げる。
「なんか手伝うことあったら言ってね。校長って結構暇だから」
そう俺とルナに言って食べ終わったアイスの棒を持ちながら校長は校長室に入っていった。ずいぶんフランクなおっさんだな。
「校長先生もいつもあんな感じ。よくケーキ差し入れしてくれるんだ」
ふーん。いい人なんだな。できれば教室の効きが悪いエアコンも新装してほしいものだが。
「それは私も同感。フフ」
ルナは少し笑ってから
「これで鍵の説明は終わり。帰ろう」
といった。そうだな。疲れたし早く帰りたいな。
職員室を出て左に曲がるとすぐ生徒玄関がある。俺たちはそこで靴を履き替え、埃まみれのジャージ姿のまま学校を後にする。本当は登下校は制服でないといけないという校則なのだが、部活動や放課後居残りした場合はジャージ姿で下校してもいいという暗黙の了解が教師含め全員にある。校則通りびっちり制服を着こなしていた夕霧ルナもこの暗黙の了解には従うらしい。
駅までの約2kmウォーキングコースを俺たちはやれあの教師の教え方が下手だとか、あのおばさんは優しいだとか、そんなことを話しながら歩いた。どこにでもいる普通の高校生の会話である。成り行きではあるが夕霧みたいな美少女と帰路をともにできるのは、まあ正直言って少しうれしかった。普段一人で帰っているからなおさらだ。20分も歩いて駅に着いた。2日前に謎の初対面を果たした場所だがお互いなんともなく通過した。ホームにはうちの学校とは反対口にある私立高校の制服を身にまとった女子高生が集団で何やら話している。人がいるだけで何だか安心するね。ちょうど急行列車が到着したところだったのでそれに乗る。この時速100kmで走行する鉄の箱はかなり便利なもんで、俺の最寄り駅にはたった5分で着いてしまう。一駅間だけだがな。
夕霧はこの次の駅が最寄りと言うことで今日はここで別れた。
「じゃあまた明日。サボらないでね」
そう言って夕霧は小さく手を振った。
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