第2話 おかしいのは知ってるよ







 「ああ、行くつもりだけど…というか正式に部活に入ろうと思ってるんだ」


 ひーくんがそう言ってきた時、私は上手く言葉を返せたでたかな?ちゃんと何にもなかったような顔ができてたかな?....また、ひーくんがわたしから離れていく。


 ひーくんは結構モテる、優しいし、顔もかっこいいし、高校生になって人当たりがとてもよくなった。そんなの女の子がほっとくわけない。


 きっと同じ部活に入ったらあの先輩もひーくんのことを好きになる。...ライバルが増えちゃうんだろうなぁ。


 そんなことを考えているとみっともない独占欲が体の内側から沸々と湧いてくる。


(私、情けないな。付き合ってもないのに、こんな……)


 ひーくんとは小さい頃から仲良しで、いつも私を助けてくれていた。優しくて頼り甲斐のある男の子だった。だから、私がひーくんを好きになるのは当然だったと思う。

 小さい頃のひーくんは私以外の女の子は少し苦手で、上手くお話しができないようだった。私だけがひーくんと仲良くできていた。

 だから私はこのまま大人になって、ひーくんのお嫁さんになってあげよう、本気でそう思った。


 けど、そんな甘い考えは高校生になって打ち砕かれた。

 ひーくんは高校生になってから変わった。人当たりがとてもよくなったのだ。私にしかあまり見せなかったあのカッコいい笑顔を、誰にでも向けるようになってしまった。


 他の人にあんな顔見せて欲しくない。ただその一心で何があったのか聞いてしまった。それが始まりだった....


「俺、好きな人ができたんだ」


『......え?』


「えっとね、その子は明るくて、みんなに人気で、かわいくて…」


『...いみが分からない、理解したくない』


「だからおれも、せめて*#〆||^\+????」


 ひーくんの言ってることが分からない。頭が真っ白になった。


『あれ?どうして?』

  

『ひーくんには私しかいないんじゃないの?』 





どうして、どうして、どうしてどうしてどうして?





『私を、捨てないで....』

 



他の人なんて見ないで


話したりしないで


触れないで


そのカッコいい笑顔は、私にだけみせて....



 

 私がおかしいのは知ってる。私の愛が重たすぎるのは、私が一番よく知ってる。だから...告白なんてできっこない。こんな一方的で身勝手な想い、ひーくんに受け入れてもらえると思えない...


だけど....だけど。諦めることは、できそうにない。


 こんな私は見せないようにしないと。貴方に醜い恋をしている私はきっと迷惑に思うだろう。だったら、幼馴染の由美で私を覆ってしまばいいんだ、そしたら中身わたしなんて見えやしない。

 

 だからあなたを想うことだけは...許してほしい。






◇◇◇ ◇◇◇




「おせーよ、何してたんだ?」

「ごめん、ちょっと考え事してて」

「…悩みでもあんの?」

「え?!ち、違うよ!えっと…今日の夜ご飯は何かなーって!」

「えぇー、お前はいつから食いしん坊キャラになったんだよ」

「あぁ!えっと違くて!えっと、えっと...」


(うぅ、失敗したー。私食いしん坊キャラなんかじゃないのに...)


 はやく別の言い訳しないと...そう考えるとますます何を喋ればいいか分からなくなってしまう。

 ひーくんは私の様子が変だと気づいたのか、首を少し曲げて私の顔を怪訝そうな顔で見ている。

 

 .....あぁ

 

(そういう顔も、カッコいいなぁ...)


「ほんとに大丈夫か?」

「う、うん!大丈夫!ほんと大したことないんだよ!」

「ならいいんだけど...」

「あはは〜、ひーくんは心配症だなー」

「うっせ....まぁでも、どんな大したことない悩みでも俺に言っていいからな?絶対お前の力になるよ」


(ひーくん、ずるいなぁ)


 私が諦めようとしても、どんどん好きになっていっちゃう。


「えへへ、ありがとう」

「おう」

「てか時間ないんでしょ!早く学校いこ!!」

「いだっ!」


 私は少し照れくさくなって、ひーくんの背中を叩いてから走って駅の出入り口に向かう。

 駅から出た時の外の空気はいつも以上に美味しかった。

 








◇◇◇ ◇◇◇




 「おっはよー!響!」


 クラスに入るやいなや、真っ先に声をかけてきたのはクラスメイトの早瀬一樹。一年生から一緒のクラスで、今となっては親友と言ってもいい関係になった。


「おはよう一樹」


 軽くあいさつを返して荷物を置くと、後ろの席の一樹が身を乗り出して俺の肩をちょんちょんとつついてきた。後ろを振り返ると一樹が手招きをしていたので耳を傾ける。


「なぁなぁ、結局どうなだよ。華菜先輩とは」

「どうって…別になんもねーよ」

「何もねぇってことはないだろー、天文部って響と華菜先輩だけなんだろ?」

「だからって、恋愛に発展するわけじゃないだろ?」

「はぁーあーもったいねー、華菜先輩は三年生の中じゃダントツ可愛いのにな」


 たしかに華菜先輩は容姿がかなり整っている。しかし、俺は華菜先輩が目的で入るわけではない。単純にもっと星を見たいし、知りたいと思ったからだ。


「かわいいからって好きなるわけじゃないだろ」

「はぁー?なんて贅沢なやつだ!モテるからって調子に乗ってんじゃねーぞ?」

「調子になんかなってねーよ。別にモテたっていいことあるわけじゃないしな。」

「だったら俺に女の子の一人でも分けてほしいな」


 

 今まではあの子のために明るく振る舞おうと頑張っていたが、もうそんなことしなくてもいい。逆に、今までについたイメージが邪魔になりつつある。


「ねーねー!二人共!」


 ふと、声が聞こえてきたので一樹と一緒に聞こえてきた方を見る。すると神崎さんが手を上げている。


「ちょっとこっち来て!」


 今度はぴょんぴょん跳ねながら頭の上で手を振っていた。

 

「なんだあのかわいい生き物」

「あれを素でやっているから更にいいな」

「なんだよ響、女子に興味ない感出しながら神崎さんはいいのかよ」

「女子に興味がないわけじゃねえよ。神崎さんはかわいいしな」

「まぁ響もこの学年の二大美女には敵わないってことだな」



 神崎さんこと、神崎陽奈はその類い稀ない容姿で学年二大美女なんて言われていた。少し茶色がかった髪を長く伸ばしていて、二大美女と言われるだけあるザ・正統派美女、という感じの端正な顔立ちをしている。ちなみに、もう一人の二大美女は由美のことだ。


「おーい!早くこっち来てよ!」

「ん?早瀬達も誘うの?」

「うん!人数多い方が楽しいでしょ?」

「たしかに、東堂とかはかっこいいしアリかもね」


 そう言ってくれるのは素直に嬉しい。だが隣の一樹はかなり不服そうな様子だった。

 


「えー!?俺は俺は?」

「んー、悪くわないんだけどね...」


 そう言うのは、神崎と一番仲のいい羽衣朱里だった。

 彼女も神崎さんほどではないが容姿が整っており、基本的に神崎さんと行動を共にしている。羽衣も当然カーストトップだ。


「ちくしょう....やっぱ世の中顔なのかー!!」

「そんなことないよ一樹くん!大事なのはハートだよハート!」

「か、神崎さん!....」


 神崎さんの言葉で舞い上がっている一樹を横目に、響は少し作り物めいた笑顔を浮かべていた。


(一樹みたいにはできないな)


 カーストトップのいわゆる陽キャラという人達は少し苦手だ。つくづくこういう人達とは、自分が違う人種なんだと気付かされてしまうから。

 楽しいフリはできても心の底から楽しめない。


「ていうか、なんで俺ら呼ばれたの?」

「ああ、そうだったね!もうすぐゴールデンウィークになるでしょ?だから朱里と遊ぼうと思ってたんだけど、お二人さんもどうかなって!」

「もちろん!参加させてください!」


 一樹は考える間も無く誘いになっていたが、響としてはあまり行きたくないというのが正直なとこだった。


(というか…



「俺は、部活があるから....ごめん」

「そっかー、ならしょうがないよね。じゃあまたの機会に誘うよ!」

「ああ、悪いな」

「ううん、全然大丈夫!」


 今考えた適当な理由で断ってしまったので多少なりとも心が痛む。もっとも部活は本当にあるので完全に嘘ではないのだが…

 響が所属している天文部は基本的に自由参加だ。ゴールデンウィークの間も無理に顔を出す必要なんて実の所はない。


「響がいけないなら、俺も今回はやめとくわ」

「そっか、一樹くんもまた誘うよ!」

「おんおん、誘ってくれ」

「お前らー、席につけー」

「あ、先生きた」


(ゴールデンウィークの間、けっこう部活行こうかな)


 各々が席につく中、響は少しニヤついた。






◇◇◇ ◇◇◇






「こんにちは」

「こんにちは華菜先輩」


 響が見つめる先には机で本を読む一人の少女がいた。





 

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好きだった人がトラウマになったので彼女はしばらくいりません ナナツキ @Tu000916

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