Episode 14 Awakening:覚醒
兵士たちが訝しげな表情で見つめる中、やがて支部長は意を決したように口を開いた。
「……全員、すぐに倉庫にある耐放射線用の装備へ換装し、
言葉の意味を咀嚼するわずかな沈黙を経た後で、小さなざわめきが起こる。
「耐放射線用……!?」
その場の隊員たちの脳裏に、否が応でも一つの可能性が浮かぶ。ソ連の
支部長がカーテンを開けた。窓から地上を見下ろすと、基地の外周を囲むように人が立ち並んでいる。
多種多様なプラカードが、群衆のシュプレヒコールに合わせて上下する。
「
「知っての通り、我々は反
アーノルド支部長は、血が滲むほど唇を噛んだ。
「上層部は、
アーノルド支部長は、深々と頭を下げる。
「すまない。本部を説得しようと試みたが、叶わなかった。これから起こることは、力及ばなかった私の責任だ」
「頭を上げてください支部長。謝罪したところで、状況は改善しません」
ヘイムが言い放つ。アーノルド支部長は苦笑いして、顔を上げた。
「ああ……その通りだな」
ヘイムはくるりと踵を返し、早足で歩きながら通信機へ小声で話しかけた。
「俺だ。たったいま全隊員へ向けて退却命令が出た」
通話相手のガイラが驚きの声を上げるが、ヘイムはそれに構わず続ける。
「それと、この街に核兵器が落とされるという話……どうやらデタラメではなかったらしい」
◆
胃袋を揺らすような地鳴りが響いて、地面が小刻みな縦揺れを起こす。トキワはバランスを崩したが、体勢を立て直した。
「いまの揺れ……母神が目覚めたからなのか……?」
あまりに突然の衝撃だったせいで錯覚かと疑ったが、風もないのに木々が揺れている。
「それじゃ、また後でね」
ミアは翼をはためかせると、空の向こうへ飛び去っていった。
入れ替わりに、遠くから呼びかける声がした。
「トキワ君!」
ガイラが、大きく手を振りながらやってくる。
「
「わかった。さっき救助した女の子がいるから、送っていこう」
それでいいか、とトキワが確認すると、傍らに立つ少女は頷いた。
──女の子を麓の安全なところまで送っていったあとで、ガイラが自動車を止めていた場所へ向かった。
助手席に乗り込むと、後部座席に乗っていたハネズが嬉しそうにひらひらと手を振る。
「……ルリ先輩とヘイムはどうしてるの?」
シートベルトを締めながら、トキワが訊ねた。
「ルリ君は外縁地区でパトロール中だ。そしてヘイムたち
ハンドルをさばくガイラは、進行方向を見据えたまま答える。
「退却……って、なんで?」
「反
駅でロイが起こした騒ぎの影響は、じわじわと大きくなりつつあるようだった。トキワとハネズは自分たちにも責任の一端を感じて、少し落ち込む。
「……ただ、これは建前かもしれない」
ガイラは一段と重苦しい声色で述べた。
ハネズが疑問を口にする。
「建前、ですか?」
「もしかすれば……街に核兵器が落とされるという計画が実現されつつあるのかもしれない。
ガイラの目元に影がさした。
「もしそうなら、私たち
トキワの表情に焦りの色が浮かぶ。
「ヤバいな。急がないと」
「わたしたちなら、大丈夫だよ」
後部座席から、ハネズが励ます。
「ああ」
トキワは小さく微笑んで、頷く。
やがて、目的地に到着した車が停止した。
車のドアを開いたそばから、強烈な生臭さを帯びた埃っぽく生ぬるい空気が襲ってくる。トキワたちは思わず顔をしかめて、顔の下半分を手で覆う。
「ガイラだ。
ガイラが、通信機でヘイムに報告した。
すると背後から羽ばたく音がして、トキワ、ハネズ、ガイラの3名は振り返る。翼の生えた少女ミア、そして蛇の
「よろしく。さっきぶりね」
シズミの姿を認めるとハネズは体をこわばらせ、不安そうにトキワの袖を掴む。ハネズは2人と会うのは、襲撃されたとき以来初めてのことだった。
「警戒しなくてもいいわ。私たちの目的は
そうでしょ?と、ミアがトキワに目配せすると、トキワが頷いた。
「ああ。
「
そう言ったガイラへ、シズミが恭しく頭を下げた。
「宜しくお願いします。ガイラさん」
空気中を舞っていた粉塵が落ち着き始めると、母神の姿が顕になった。
見上げた山のような塊は、いびきのような音を立てながら膨張と収縮を繰り返す。シワだらけの皮膚は細かい穴が無数に穿たれ、重油のような液体を垂れ流している。血走って黄色がかった巨大な眼球が、ぐるんと回転して
「戦闘、開始だ」ガイラが呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます