Episode 13 Calling:召命
幼い少女は追われていた。木々をすり抜け草をかき分けやってくる、得体の知れないなにかに。
二年前から放棄された山林は、崩れた地盤に伸び切った草と木の根で足場が不安定だった。
十歳にも満たない少女にとって、木の根っこの一条は跳んで越えなくてはいけないほど巨大な障害として道を阻んだ。枝が陽の光を遮ってできる闇には、なにか怖ろしいものが隠れてこちらを窺っているように思われた。
少女のすぐ背後へ、割って入る影があった。少年は青い
「やるぞ、キュリオ!」
乱入した少年──トキワが足を軽く前後に開く。両手で脇に抱えているのは、
「
トキワは男へ突撃すると、
「ぐげッ!」
さらに、よろめいた男の脇腹へトキワのボディーブローが刺さって、めり込む。手首の回転に巻き込まれ、男の腹が捻れる。
「痛デデデッッ!!」
トキワは
「入れッ!!」
続けて、男の股間を蹴り上げた。風を巻き起こすほどの衝撃に、男の身柄は宙に浮く。
「アギィィィィッッッッ!!」
打ち上げられた男は、
「他にコイツの仲間ァいねェみてェだ。任務完了だゼ」
トキワの首元で、マフラーに擬態したキュリオが耳に似た器官をそばだてる。
「OK。ありがとうキュリオ」
落ちて地面へめり込む
続けてトキワは首を傾け、襟元の通信機に話しかける。
「
《ご苦労だった。すぐに職員を向かわせるから、その場で待機しておけ》
通信機から、上司であるヘイムの声が返ってくる。
トキワは追いかけられていた少女を振り返ると、微笑みを見せて言った。
「もう大丈夫だ。これから
涙目の少女は、黙ったまま頷いた。
「──へぇ、やるじゃない」
樹上から、聞き覚えのある声がした。トキワはとっさに、傍らの幼い少女を庇うようにして立つ。
「アンタは……!」
トキワは声のした樹の上を見上げた。
少女の黒い髪は束ねられ、露出度の高い服装からは少し褐色がかった肌が覗く。何よりも特徴的なのは、腕に生えた羽毛と鳥獣のように変質した脚だ。
「
ミアは辺りを見回してから、トキワに訊ねた。
「貴方、今はひとり?」
「……ああ。ちょっといろいろあって、単独で任務をやってる」
先日、トキワたち
「それで、オレに何か用?」
トキワは未だ、目的のはっきりしない少女に対して不信感を抱いていた。
「シズミのその後を伝えに来たのよ」
ミアはパンツのポケットからロリポップを取り出すと、ナイフのように鋭利な爪で包み紙を裂いた。
「シズミの?」
トキワの返事に、ミアは頷いた。
「そう。あの子は今になって、これまで殺してきたことについてものすごく悩んでるし、苦しんでる」
「これまでだって、別に好きで人を殺してたわけじゃないのに。毎晩吐いてたし、魘されて、でも弟を生かすためなんだ、って必死に言い訳してたのに。その肝心の弟に『人を殺さないお兄ちゃんの方がいい』なんて言われちゃったんだから」
もしかして、自分が無責任に首を突っ込んで余計なことをしたのではないか。トキワは焦りのようなものを感じる。
「でも大丈夫。人殺しなんてしなくたって、ザクロを延命する方法はある」
ふわり、とミアはトキワの目の前に降りてきた。
「
飴の甘い香りが鼻孔をくすぐる。トキワは警戒して、一歩後ずさった。
「協力しない?あたしたちの目的は同じ。母神を殺すことよ」
ミアは上目遣いで、トキワに微笑みかける。
「アンタは、どうしてオレにそんなことを言うんだ?」
ミアは人差し指を唇へ当てると、斜め上を向いて思案する素振りを見せた。
「そりゃあ、あたしが『人を殺せばザクロは延命できる』って言ったからこうなったんだし。多少は責任感じてるのよ」
トキワは、ミアの発言にピクリと反応した。
「……アンタがシズミを唆したのか」
ミアは少しだけ、口をへの字に曲げる。
「人聞き悪いこと言わないでよ。ザクロを見捨てろって言うの?」
そう言われると、トキワは返事に詰まってしまった。
「……って言っても協力するったって、オレたちは何をしたらいいんだ?」
ミアはトキワの顔を見ると、にっこりと笑ってみせた。
「心配には及ばないわ」
ひとたび手を羽ばたかせると、ミアがその場に浮上した。今度は見下ろす姿勢で、優しげに微笑する。
「もうすぐ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます