Episode 8 Never Talk to Aliens:やつらに関わるな
「『街に核兵器が落とされる』か……にわかには信じがたい話だな」
トキワの話を聞いて、ガイラは腕を組む。
「ヘイムとガイラには、心当たりあるかなと思ったんだけど」
ヘイムは作戦の報告書を執筆しながら応える。
「なんとも言えん。ただ、その情報がよそに知られるメリットは何一つ無い。誰にも喋るなよ」
「でも、ちょっと気になったんだが……そいつは、『
ガイラはいかにも納得いかない、という顔で言う。
「誰かを誘拐しなくても、そいつが一人で街から出たらいいんじゃないか?」
ヘイムは作業の手を止めた。
「確かに、
「
ヘイムは顎髭の剃り跡を撫でる。
「そうだとしても、お前より残りの女子2人から狙う方が自然だろうな」
「……そいつはもしかして、トキワ君を狙っていたんじゃないか?」
思っても見なかった考えに、トキワは目を丸くする。
「オレを……?」
ガイラは頷いた。
「トキワ君、思い当たる節はないか?」
トキワは腕を組んで考える。考えれば考えるほど、自分は普通の中学生である。一つ上げられるとすれば、トキワは両親の記憶が朧げにしかなく、物心ついてすぐからは
「うーん、ないこともないけど、考えてもわかんないな」
「そのロイという男を捕まえたときに訊けばいい。それより、今日の仕事だ」
そう言ってヘイムは、トキワとガイラに地図を手渡した。地図のある地域には、赤いペンで丸がつけられている。
「
「
武者震いするトキワへ、ヘイムが諫めるように言う。
「あくまで調査が任務だ。やむを得ない場合を除いて、戦闘は控えろ」
「わかった」
トキワとガイラは頷いた。
◆
トキワとガイラは、地図で指定されたポイントへやってきた。
「なんか、寂れたところだな」
休眠中の
しかし、トキワの感覚的にはなおのこと人の気配が少なく感じた。というのも、一体が瓦礫でできたバリケードで囲まれており、その内側が見えなかったからだ。
「
トキワは、体内のゼノに訊ねる。
「あァ。かなりショボいケドなァ」
トキワの
「うん……間違ッてない、と思うヨ……」
ガイラの
「すみません。どなたかいらっしゃいますか」
ガイラが呼びかけると、バリケードの向こうから男が顔を出した。男はトキワとガイラの着用する軍用ベストを認めると、不機嫌そうな目つきになる。
「
「パトロールです。
「……部外者は立入禁止だ。自覚が無いだけで、お前らが寄生されてる可能性がある。……聞いたところじゃ2年経ってるってのに、寄生された奴から一般人を見分ける技術も、寄生された奴からエイリアンを追い出す技術も、寄生されないようにする抗体みてぇな技術も出来てねぇって言うじゃねぇか」
「たまたまだろうケド、オレたちが
キュリオが小声で言った。
「見回りが済んだらすぐに立ち去ります。ご容赦ください」
ガイラは頭を下げた。トキワもそれに
「ダメだ。俺達はさっき言ったような技術ができるまで、このバリケードの中で暮らす。誰にも入らせねぇ」
取り付く島もない、といった様子の男はバリケードの向こうへ引っ込んでしまった。
ガイラはトキワを振り返って小声で言った。
「……仕方ない。こうなったら潜入しよう」
集落の外側をぐるりと回っていると、山道の崖になっているところにバリケードの敷設が甘いポイントがあった。
「ここの人たちの態度からして、調査は大変そうだな」
トキワとガイラは
「ああ。それに調査対象の
崖を登りきったところで、声が聞こえた。トキワとガイラは草陰に身を隠す。
「
続いて、大勢の足音が聞こえる。幸いにもこちらへ向かって来ているわけではなかったが、トキワとガイラは胸騒ぎを感じた。
「言ったそばから、だな」
声が過ぎていったのを見計らってから、トキワとガイラはそれぞれの
バリケードによって囲まれた街は
「もし攻撃されても、能力は使わない方がいいよな?」
トキワが訊ねると、ガイラは頷いた。
「その方がいいだろうね。色々と厄介そうだ」
「話してるトコ悪いケド……そろそろ近いヨ」
チュニの声を聞いて、2人は辺りを見回す。狭い路地にうずくまっていたのは、青白い肌に黒い髪の少年だった。
「君、大丈夫か?」
ガイラが手を伸ばす。
「う、うん……こわい人たちにおいかけられてびっくりしたけど、だいじょうぶです」
少年のか弱い手が、ガイラの筋張った傷だらけの手を掴んだ。
「ここに長居するのはよくなさそうだ。私達と一緒に逃げよう」
男の子は立ち上がって、ぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございます。お兄さんとおじさん」
まだ20代前半のガイラは、おじさんと呼ばれたことに若干の悲しみを覚えないわけでもなかった。しかし、中米出身で体格の良い自分は日本人にはそう見られるのも仕方ない、とガイラは内心で自分を説得しつつ訊ねる。
「君、名前は?」
訊ねられると、男の子はおずおずと答える。
「ぼく、ザクロって言います」
トキワはしゃがんで、目線の高さをザクロと同じにする。
「ザクロは、どうしてここに来たんだ?」
「えっと、一人で歩いてごめんなさい。おなかがいたくて」
ザクロは俯くほどに頭を下げた。そして、手を弄びながら弁明する。
「でもこのちかくに、おくすりやさんがあって、ほかのおくすりやさん、知らなかったんです」
ガイラは念のため周囲を警戒しつつ、訊ねる。
「保護者……一緒に暮らしている人は、誰かいるかい?」
「お兄ちゃんがいます。……けど、さいきんは、あんまり家にいないから」
ザクロは寂しそうな顔で、俯いた。
「お兄ちゃんに連絡するのは……難しいか」
ザクロは頷く。その表情に、トキワとガイラは異変を感じ取った。顔色が青白くなり、眼は視線が定まらなっていくのだ。
「ザクロ……どうした?」
トキワがザクロの顔を覗き込む。
「……ううッ!」
突然、ザクロは右手で汚れたTシャツの胃のあたりを握りしめて苦しみだす。そして、左手で抑えた口から大量の血液を吐き出した。
鮮やかな赤は、青白いザクロの指の間をすり抜けアスファルトへ降りかかる。
「お、おいおい、『お腹が痛い』って、そういうのかよ!」
トキワは慌てて、ザクロの背中をやさしくさする。
「早く、
ガイラがザクロを背負うための蔓を腕から生やそうとしたときだった。
「ザクロ!」
トキワとガイラの背後から、ザクロの名前を呼ぶ声がした。
「あ、お兄ちゃん……」
ザクロは口から血を滴らせたまま、声のした方向を見て安心しきったように笑う。
トキワとガイラは振り返って、目を疑った。
立っていたのは
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