第54話 あの星の王子様(7)


 アノ星————王都・デエトでは、ホシャ・アノ第一王子が連れてきた嫁候補の話題で持ちきりであった。


「さすがホシャ王子、見る目がありますね」

「ええ、まさかあんなに立派なオシリの候補者を見つけてくるとは……!!」


 ホシャ王子が連れてきた候補者は、それはそれは可愛らしい女の子で、立派なお尻だと評判だ。

 他の王子の候補者もそれはそれは素晴らしいのだが、やはりホシャ王子の連れてきた候補には敵わないだろうという。


「おしとやかそうだし、将来は王妃として立派になられること間違いなしね」

「あんなに小さくてか弱そうな女の子だから、みんなで守ってあげないとなぁ」

「風が吹いたら飛んでいってしまうんじゃないか?」


 まだあくまで候補者なのだが、都民たちはその小さな地球人の少女に過度な期待をしていた。


「編入式は何時から中継だっけ?」

「十時じゃなかった?」

「楽しみねぇ!」


 アノ王と対面する二ヶ月後までに、候補者となった者たちはアノ星について学ぶため、王都にある学校に入学しなければならない。

 他の王族や貴族たちと一緒にアノ星の常識や歴史を学び、王子妃としての品格を保つための授業もあるのだ。


 そして、アノ王と対面し、正式に認められた者だけが王子妃となることを許され、さらにその中で一番いい評価を受けた嫁候補を見つけてきた王子が、時期アノ王となる。

 これから五人の候補者たちの編入式が始まろうとしていた。

 ところが————



「やばいやばいやばいやばい!! 遅刻する!!!」


 その第一王子の嫁候補・小鳥遊雛は朝から大寝坊。

 急いで王都の街中をめぐる。


「ちょっと、ヒナ! 待ってよ!! そんなに急がなくても————……置いて行かないでよ!」

「何言ってるの!? 初日で遅刻なんかしたら減点されるでしょ!?」

「一緒に登校しようって約束したじゃない。ちょっとくらい大丈夫だって……はぁ……はぁ……」

「大丈夫じゃないってば!!」


 ホシャ王子は雛を必死に追いかけていたが、息切れしてきた。


(全く、誰のせいで寝坊したと思ってるのよ!)


 昨夜、早く寝たかった雛の睡眠を妨害したのはホシャ王子である。

 勝手に雛の寝室に入り、雛と一緒に寝ると言って聞かなかったのだ。

 それも、何もしないからと言いつつ、ちゃっかり雛の尻に手を回し、揉み出したので、雛は全然眠れなかった。


「待ってってば……!」

「……もう!!」

「うわっ!」


 雛は疲れてヘトヘトになっていたホシャ王子を肩に背負って、走り出した。

 偶然目撃した都民たちはその様子に驚き、ぎょっとする。

 小さな女の子が、ホシャ王子を担いで猛スピードで走っているのだ。


「い、今のって————ホシャ王子……だよね?」

「女の子に背負われてなかった?」

「え、え、え? どういうこと!? なんなんだあの地球人!?」


 塀を飛び越え、屋根の上を走り、最短距離で学校に着くとなんとか門が閉まるギリギリのところだった。

 教師たちも驚いて、一体何事かと思ったが、ホシャ王子が雛に担がれたまま申し訳なさそうに教師たちに声をかける。


「驚かせてすまない、編入式の会場は第一体育館であってるか?」

「は、はい。そうです」

「第一体育館!? どこそれ……」

「目の前の、あの大きいヤツだよ、ヒナ。っていうか、もう大丈夫だから下ろしてくれないかな?」

「ああ、うん」


 雛はホシャ王子を下ろして、第一体育館に向かった。



 * * *



 壇上には王子五人が一つ間を開けて座っていて、司会者が一人一人その嫁候補者の名前を読み上げ、一人ずつ登壇していく形になっていた。

 舞台袖で待機していた雛は、五人並んだ王子たちのそれはもう美しすぎる容姿に圧倒される。


(あ、エイリくんも戻ってきてるのね)


 この学校は、地球の……日本でいう学校の小学校から大学まで一貫の大きな学校で、第五王子まで全員がこの学校に通っているそうだ。


(エイリくんも、候補を見つけたってことかしら?)


『それでは、ホシャ第一王子の候補・ヒナ様どうぞ』


 名前を呼ばれたので、登壇する雛。

 軽く挨拶をして、すぐにホシャ王子の隣に座った。


『続いて、ロロ第二王子の————』


 第二王子の候補者も席に着く。


(お、次はエイリくんの候補者ね。どんな子かな?)


『続いて、エイリ第三王子の候補のレオン様どうぞ』


「…………は?」


 登壇したのは、麗音だった。

 それも、どの候補者よりも美しく可愛らしい姿の————

 麗音はにっこりと微笑みながら、雛とホシャ王子を見る。


「よろしくお願いしますね、お義兄様、お義姉様」


(え、ええええええええええええええええええええっ!?)


 麗音はエイリの隣に座ると、顔を真っ赤にしてデレデレっとしているエイリの手を握る。

 エイリは完全に麗音に手玉に取られていた。


「ちょ、ちょっと、星野くん、どうなってるの? 麗音は男なのに、なんで嫁候補に!?」

「し、知らないよ! 僕も今初めて知った!」


『あーすみません、お静かにお願いします。続きましてグレイ第四王子の————』


 司会に言われて静かにする二人。

 この編入式の様子は、アノ星全土に生中継されているのだ。


 結局、編入式が終わるまで一体どういうことなのか何も聞けなかった。






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