最終話 あの星の王子様(完)
「一体、どうなってるの!? 麗音!!」
「どうも何も、エイリくんの嫁候補になった。ただそれだけのことじゃない」
「いや、だって……! 麗音は男でしょ!?」
「あのねぇ、雛。愛には性別とか関係ないの。それに、バレなきゃ大丈夫」
「ば……バレ……!?」
麗音はエイリに頼んで、男であることを隠しアノ星に来てしまったのだ。
雛をたったひとり、こんな見知らぬ星に嫁がせるなんて、麗音は絶対に認めたくなかった。
エイリは麗音に「どうせ王位を継ぐ気がないんなら、もし相手が実は男だとバレてもなんの問題もない」と言われて、確かにそうかと思ってしまったのだ。
「あのね、変態……————あ、えーと、お義兄様」
「お、お義兄様!?」
急に麗音にそう呼ばれて、ホシャ王子はゾッとする。
「なにも、あんたから雛を取り返しに来たわけじゃないよ。オレはただ、監視しにきただけ。雛が傷づかないように、悲しい思いをしないように。まぁ、雛を傷つけるようなことをしたら、即刻地球に返してもらうけどね」
麗音はにっこりと微笑み、ホシャ王子に握手を求める。
「そう? それなら、僕は雛を傷つけたりしないから、君だけすぐに帰ってくれていいんだよ?」
「それは、これからのお義兄様次第ですわ」
とっても力強い握手を交わす二人。
雛はそんな二人を見て、呆れながらエイリの方を見た。
「……エイリくん、いいの? 本当に、麗音が候補で……無理やり連れて行けって言われてない?」
「いいんだよ。俺は麗音さんと一緒にいられるなら……それに、今は俺のことなんて眼中にないだろうけど、俺は麗音さんのためならなんだってしたい。そういうのも、愛だと思う」
「愛……ね」
雛は健気なエイリがあまりに不憫に思えて、麗音の弱点をこっそりとエイリに教えてあげた。
「左足のふくらはぎ、触られると弱いから」
「左足の……ふくらはぎ?」
「そう、なんでか昔から弱いの。麗音って、時々すごくわがままな時があってね、そういう時は触ってみて。すぐおとなしくなるから」
それは麗音の性感帯なのだけど、雛はそれに気づいていない。
単純に嫌がるところだと思って教えたのだが、麗音の体が過剰に反応するとは思ってもいなかった。
そのせいでエイリの恋が成就することになるのは、もう少し先の話である。
* * *
「あれはUFOだ! 間違いない!!」
それから三年後、地球ではUFOの目撃情報が相次いでいた。
目撃されたその未確認飛行物体は、よく晴れた春の日本の空を飛んで、とある一家の庭に着陸。
宇宙船
王妃のために用意されたアノ星の最新宇宙船である。
船から降りて来た背の低い女性の腕には、とても可愛らしい男の子がしっかりと抱かれていた。
「ほら、
「ぷぎゃー! ぷぎゃー!!」
「キャーっ可愛い!! さすがあの星の王子様ね。絶対パパに似てイケメンになるわよ」
「ぷぎゃー! ぷぎゃー!!」
可愛らしいその子は、まだ生まれて三ヶ月のアノ星の王子様。
父がその小さな手に触れると、小指を握り返してくれた。
「おお、かわいいなぁ……この小さい手が————痛っ!! 痛い痛い!!」
ものすごい力の強い赤ちゃんで、父の指を折りそうなくらい握りしめている。
父は慌てて手を引っ込めたが、このままだと完全に持って行かれていた。
「なんということだ……雛が赤ん坊の時とそっくりじゃないか!」
「え、私もこうだったの? 随分力の強い子だと思ってたけど……」
顔は星野にそっくりなのだが、この力強さは雛そのものだ。
指はものすごく痛かったが、父は元気があっていいと顔がほころんでいる。
「これは将来大物になるな……————っていうか、王子なんだからもう大物か!」
「ははは! そうよパパ、あの星の王子様なんだから!」
「あははは!! ところで、父親はどうした? 一緒に来たんじゃないのか?」
「あーいや、それが…………」
急に顔が暗くなった雛。
一体何があったのか、みんな心配になった。
「……なに? 浮気でもされたのか?」
「いや、そうじゃなくてね……ほら、この子が生まれたら、私つきっきりじゃない? そうなると、この子のパパに構ってる暇がなくって————」
————プワンプワンプワンプワンワン
小鳥遊家の上空に、もう一隻、宇宙船が現れる。
「ヒナぁぁぁぁぁぁ!! 置いて行くなんてひどいよぉぉぉぉぉ!!!」
「王様!! まだ着陸してないです!! 顔を出さないでください!!」
宇宙船O1の窓から身を乗り出して、叫ぶ星野をシッジーが必死に止めていた。
「こんな感じで……構ってくれってしつこいから、置いてきちゃった」
雛は上空を指差してそういうと、息子に嫉妬して王の威厳の欠片もないアノ星の王を無視して、家の中に入ろうとする。
「待ってってば!! ヒナ!! ヒナぁぁぁぁ!!」
「いい加減にしてください、王様!!」
あの星の王子様は、王様になっても何も変わっていない。
王妃の尻を追いかけてばかりいるらしい————
そのお陰で、この王様と王妃の間には、五人の元気な王子と姫が生まれたそうだ。
— END —
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