第50話 あの星の王子様(3)
翌朝————
「おはよう、ヒナ」
「おおおおおおおはおはおはよう!! 星野くん」
いつもの通学路で雛を見つけて王子は声をかけるが、雛は顔を真っ赤にしていて、動揺しているようだった。
視線も合わせてはくれないし、これではまるで、避けられていたあのときと同じではないだろうかと思う。
しかし、王子には何をしたのか記憶が全くない。
朝起きたら宇宙船O1の自分の部屋のベッドで寝ていて、どうやって帰って来たのかも全く思い出せなかったのだ。
覚えているのは、雛に付き合ってないとはっきり言われてしまったところまでである。
その後、酒を飲まされたことも、嫌がる雛に無理やり激しいキスをしたことも覚えていないのだ。
「え、なんで避けるの? 僕、ヒナに何かした……?」
「さささささ避けてないわよ!!」
目は合わせてくれないが、会話はできているので前とは違うのかと思う星野。
だが、やはり耳まで真っ赤になっている雛のこの態度の理由がわからない。
まさかあれだけ「好きかどうかわからない」と言っていた雛が、王子のギャップにやられて悶えているだなんて、思ってもいないのである。
だからこそ、妙な誤解が生じてしまった。
「ヒナは、やっぱり僕の候補になるのは無理?」
「え……? なに、急に————」
王子は、雛を候補としてアノ星に連れて行くのは無理なのかもしれないと思ってしまったのだ。
雛は照れているだけだと思って、懸命に愛を伝えて来たが、こうも上手く行かないのなら、違うのではないか……と、不安になってしまった。
「ヒナが候補になってくれないなら、別の人を探さないといけないから……諦めるのは嫌だけど、僕のことを好きじゃないヒナを無理にあんなに優しい家族からヒナを引き離せないよ」
王子はいつまでも待つつもりでいた。
雛が自分を好きだって、はっきり口に出して言ってくれるまで……ずっとこうしてそばにいようと……
雛にウザがられようと、これからも雛が好きだと、愛していると気持ちを伝え続けようと……
だが、今朝になって事情が変わってしまったこともあり、王子は考え直さなければならなかった。
「僕は雛が好きだよ。愛してる。でも、僕だけが雛を好きじゃだめなんだ。麗音がエイリから聞いたって言っていたけど、候補になっても父上に認めてもらえないと意味がない。雛が僕を好きだって、はっきり言えるくらいに、僕を好きになってほしいけど…………無理強いするものじゃないし————」
王子は、こちらを見てくれない雛を切なそうに見つめる。
「もう時間がないから、もう少ししたら僕は別の星に行くよ」
「え……?」
「父上が————アノ星王は、もう長くないんだ」
☆ ☆ ☆
シッジーが王子を置いてアノ星に一時帰国したのは、王の病状について知らせがあったからだ。
しかし、メッセージが届くまで一ヶ月近くもラグがあったため、途中で別のメッセージが届き、アノ星まで行く必要がなくなりシッジーは地球に引き返す。
王子の側近たちによる緊急会議が行われるはずだったようだが、取りやめになったのだ。
その代わり、嫁候補探しに制限時間が設けられたそうだ。
五人いる王子のうちホシャ王子とエイリ王子以外の三人はすでに候補者を決めており、アノ王の体調を考えると残り一ヶ月もない。
来月の末ごろまでに候補を連れてこなければならなくなった。
今朝目覚めた王子にそのことを報告すると、王子は深いため息を吐いた。
「時間がない……ってことだね」
「ええ、あの女がダメなら、さっさと諦めて他を探すしかないです」
「そう……わかったよ」
王子は雛を候補としてアノ星に連れて行きたい。
だがもう時間がない。
王子の気持ちがどんなに雛に向いていようと、たとえ、雛の家族がそれを許したとしても、雛本人がいいと言わなければそれはできないのだ。
「もし、雛がダメだったら……僕はこの星を出るよ。シッジー」
「……別の星でお探しになると……?」
「うん、地球には……この星には雛がいるから。ここで探しても雛以上の人は見つからないし、雛以外の人との思い出をこの星で作りたくないから」
王子はシッジーに別の良さそうな星をいくつか調べておくように指示し、学校へ向かった。
シッジーはモニター越しに登校していく王子の背中を見守るが、元気がないのがすぐにわかる。
「王子、申し訳ございません。もう、こうするしか時間がないのです。あなたは、第一王子————我がアノ星の王になられる方。いつまでも待ってはいられないんです。急がなければ……アノ星が————……」
シッジーはすぐに別の星のデータを調べ始めた。
王子が雛をきっぱり忘れられるような、いいお尻の生命体がいそうな星を早く見つけなければと……
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