第49話 あの星の王子様(2)


「どうして……!? 何がダメなの? 僕はこんなにもヒナのことが好きなのに……愛してるのに……」


 ついには泣き始めてしまった星野に、小鳥遊家の男性陣は酒を勧める。

 未成年であるが、宇宙人なので日本の法律は関係ない。


「まぁ、とりあえず飲め。ぐいっと飲んで、うん」

「いいか、星野くん。女っていうのはな、よくわからない生き物なんだ。こっちがどんなに好きだの惚れただの言っても、思い通りにはいかないもんなんだよ」

「我が妹ながら、ちょっとあれはこう言うことに疎すぎるんだ……すまん」


 雛の父、叔父、そして兄がリビングで星野を励まし、麗音はその様子を呆れた目で見ているというなんとも奇妙な状況だ。

 一方で、雛の母、叔母は二階の雛の部屋で雛にお説教をしていた。


「ダメじゃない、好きかどうかもわかってない男の子を家に連れて来ちゃ。ママはてっきり彼氏なんだと……」

「この状況、どう考えてもそういうことだと思うじゃないの! 紛らわしいわ! っていうか、本当に好きじゃないの?」

「いや、だから、好きかどうかよくわからなくて……」

「わからないって、星野くんに対してドキドキしたりしないの!?」


(何……この状況。なんで私、怒られるの?)


 ママは呆れてしまった。

 流石に高校生にもなって好きかどうかもわからないというのは問題ではないだろうかと……

 それに、好きでもない男とキスしちゃったのかと……

 親の顔が見て見たい————あ、自分か……

 育て方をどこで間違えたんだろうかと……


「ドキドキはする……よ? 星野くんなんか、いつも距離が近くて…………体中の血液が沸騰するみたいになんかこう……熱くなることもあるし」


(でもそれは、フェロモンのせいで発情してるからだけど……)


 雛がそういうと、それまで黙っていた祖母が急にガシッと雛の肩をつかんだ。


「雛、それはあんた、惚れてるんだよ」

「へ!? お、おばあちゃん? どうしたの? 急に……」

「おばあちゃんにはわかる。雛、あんた————あの子と結婚しなさい」

「へ!?」

「心臓がドキドキするんだろう? それはね、恋だ。歳をとったらただの動悸だけど……それに何より————」


 祖母があまりに真剣で、雛は驚いた。

 いつもはのほほんとして、おっとりしている人なのに……


「おばあちゃんは、雛とあの子のひ孫が欲しい。あれだけイケメンなんだから、絶対可愛い子が生まれてくるよ」


(お、おばあちゃん!?)



 * * *



「うちの王子が大変お世話になったようで……申し訳ないです。改めて、お礼にお伺いいたしますので、今日のところはこれで……」


 宇宙船をちゃんとしたところに停めなおしたシッジーが戻って来たときには、星野はベロベロに酔っ払っていた。

 二階で祖母からさっさと結婚しろだの、もうなんだったら結婚は後でいいから子作りしろとかものすごいことを言われて困っていたが、一階の方が何があったのか酷かった。

 一人でまともに立てない星野の肩を支えて、シッジーは立ち去ろうとしたのだが————


「ヒナ! ヒナ!! まだ、ヒナにチューしてない!! ヒナにチューしてから帰るろ!! ヒナ!!」


 玄関で見送ろうとしていた雛が視界に入った途端、星野は雛に抱きついて父と母が見守る中、無理やり雛の口にキスをする。


「っ……!? ちょっ……星野く……やめっ……お酒くさ……」


 雛は拒んだが、ものすごく激しい。

 なんどもちゅっちゅと音を立てながら唇を吸われて、舐められて、雛の心臓は本当に爆発しそうだった。

 息もまともにさせてくれない。


(もう……だめっ! おかしくなる————っ)


「……ふへへ、ごちそうさまでしま」


 雛は星野を殴ろうとしたが、その前に満足したのか急に唇を離される。

 幸せそうにヘラヘラと笑うと、殴ろうと振り上げていた雛の手を取って手の甲に軽く口づけをしてから帰って行った。


(な……なんなのよ!!!!!!!)


 真っ赤になって、その場にヘナヘナと腰が抜けて座り込む雛。



(もうやだ…………何今の…………)


 星野は雛の尻を触ろうとしたりと、なんだかんだで変態ではあるが、いつも優しかった。

 王子様らしく、無理強いはしない。

 これまでも強く抱きしめられたり、不意打ちで触れられたりすることはあったけれど、その手はいつも優しかった。


(なんかわかんないけど————めっちゃいい)


 いつもとのギャップに、雛は完全にやられていた。


「雛? 大丈夫? 立てる……?」

「う、うん、大丈夫」


 母に支えられて、立ち上がった雛は部屋に戻ったが、父はその場で立ち尽くす。

 そして泣き出した。


「……お、おじさん!?」


 そこへ帰ろうとしていた麗音が来て、ぎょっとする。


「ちくしょう……雛が……————俺の可愛い雛が……————大人になってしまった」

「お……大人……?」


 この日、父は泣きながら飲み明かしたそうだ。



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