最終章 あの星の王子様

第48話 あの星の王子様(1)


 アノ星の王には、三人の妻がいる。

 そして、王子が五人、姫が五人の十人も子供がいるが、まだ若い長男のホシャ王子をはじめとする残りの四人には婚約者もいない状態だ。

 なぜなら、アノ星の女性たちの体に異常があるからである。

 尻の大きさが、重要視されているアノ星の多くの女性陣は、二十年ほど前にアノ星を侵略しようとした別の星による宇宙化学兵器の影響で、大きなお尻の女性がほとんど生まれなくなったのだ。


 アノ星の科学者たちは必死にその要因を取り除こうとしたが、そのせいで進んでいる少子化の波は抑えきれなかった。

 アノ星の王は、息子たちに尻の大きな嫁を全宇宙から探すように指示。

 未来の王妃となるにふさわしい、尻の嫁候補を連れてきた王子が、次の王となるのである。


「————と、いうわけで、僕はヒナをその候補に、と、考えているんです」


 星野は、改めて小鳥遊家の一堂に自分がアノ星の第一王子であることを伝えた。

 それに、雛を自分の嫁候補として迎え入れたいのだと。


 テーブルの上の寿司も、オードブルも全く減らない。

 食べている余裕なんてみんななかった。

 冗談だと、そういう設定だと思っていた星野の発言が、本物であることはあの宇宙船を見て明らかである。

 小鳥遊家にとって、雛は可愛いお姫様である。

 両親や兄たちからはもちろんだが、祖母からしても女の子の孫は雛だけで、叔父夫婦も今は実家を出ているが、麗音の兄達も雛を可愛がっていた。


 学校ではその怪力のせいで、みんなから避けられてはいたが、雛は家族や親戚一同にはとても愛情を注がれて育っている。

 それに、まだ高校生で、結婚の話は気が早すぎる。

 初めての彼氏ができたお祝いということで、今回集まったはずが、このまま嫁に行くかどうかの話になってしまった。

 しかも、その相手は宇宙人である。


「その嫁候補に雛ちゃんがなってしまったら、もう戻ってこれないの? とても遠い星なんでしょう? そのアノ星ってやつは」


 叔母が尋ねると、星野はこくりと頷いた。


「戻ってこられないなんてことはありません。ただ、候補としてアノ星へきたら、色々と手続きがあるので……しばらくは帰ってこられないです」

「……それだけじゃないよ」


 いつの間にかその話し合いに参加していた麗音が、不機嫌そうに口を開く。


「————嫁候補になったとしても、アノ星の王に認められないと結婚できないんだ。それにアノ星は、一夫多妻制で、第一王妃とそれ以外では扱いが全然違う。こいつは、結婚してもしなくても、雛以外の女とも寝るんだよ? そんなの、雛耐えられるの?」

「いや、待って。その、一夫多妻制とかの前に……麗音、ずっと気になっていたんだけど、なんでそんなに詳しいの?」


 自分より詳しい麗音を雛は不審に思った。

 嫁候補探しを手伝えという話を聞いた時、そんな話を雛は聞いていないのだ。


「エイリくんだよ。エイリくんが教えてくれた。嫁候補はあくまで候補。結婚すらできず、一生愛人として過ごす女だっているって言っていたよ。王が認めない限り……そんなところに、雛を嫁に出すなんて————できるわけないだろ」


 大事な小鳥遊家の姫を、異星に嫁がせるだけでも不安がいっぱいなのに、もし嫁いでもそんな不遇な人生を送らせたくない。

 可愛い可愛い雛が、大変な目にあうに違いないと、それまで黙って話を聞いていた父が口を開いた。


「その通りだ。いいか、星野くん。俺は雛が選んだ相手ならどんな男でも最後は結局折れるつもりでいた。娘には勝てないからな。でも、宇宙人はダメだ。それも、雛が傷つくのがわかり切っているじゃないか」


 父は星野を睨みつける。


「雛が不幸になるような結婚は許さない。今すぐ別れるんだ!!」


 珍しく父親らしいことが言えたと、ちょっと心の中で満足している父。

 星野は反論しようと口を息を吸ったが、その前に雛が父に言う。


「ちょっと待って。別れるも何も、付き合ってないんだけど」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 流れる沈黙。


「————え? どういうこと!?」


 耐えきれず、母が沈黙を破った。


「さっきから、まるで私が嫁候補になってアノ星に行こうとしてる————みたいなことになってるけど、私、星野くんと付き合ってないのに、なんでそうなるの?」


 雛は首を傾げている。

 これは完全にそういうことなんだろうと思っていた小鳥遊家一同は、一斉に星野を見た。

 星野も星野で、雛の発言の意味がわからず雛の方を見る。


「え、ヒナ? 僕たち、付き合って……ないの? キスだってしたのに?」

「あ、あれは! 星野くんが勝手にしただけでしょ!? 私、まだ星野くんが好きかどうかもわかってないんだから」


 あのキスは、雛からしたら本当に星野のことが好きかどうかを考えている途中で、勝手にされたことなのである。

 嫁になる気があるかどうか以前の問題だった。


「そ……そんな」


 ショックを受け、落胆する星野。

 それがあまりに可哀想で、小鳥遊家一同は逆に星野に申し訳なく思えてくる。

 うちの姫が、なんか期待させてごめんなさい……と。


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