第47話 未知との遭遇(完)
麗音が乗り込んできたそのタイミングでドアを開けた雛の母は、目の前の光景に目をパチパチする。
宿題を頑張っている二人のために差し入れに麦茶とクッキーを持ってきたのだが、いつの間に麗音が来ていたのか、全く気がつかなかった。
それに、なんだか星野に対してとても怒っているようだ。
「騙されないで! こいつの目的は、結局、雛の体————お尻だけなんだから!! アノ星になんて、行っちゃダメだ!!」
麗音の言葉に、母は笑い出した。
「ちょっと、麗音、まさか本気にしてるの? あははは」
「お、おばさん!?」
「それとも、星野くんの設定に合わせてあげてるの? 地球に戻って来られないとか……そんな、おとぎ話みたいな話、あるわけないでしょ」
「え、いや、おばさん、何言ってるの!? こいつは本当に宇宙人で、雛を自分の星に連れて行こうとしてるんだよ!?」
「ああ、わかったわ。雛を星野くんに獲られたみたいで嫉妬してるのね! そうよねぇ、お姉ちゃんに彼氏なんてできたら、びっくりするわよねぇ」
「だから、違うって————!!」
麗音は何度も否定し、星野は宇宙人で、このままじゃ雛は宇宙人に誘拐されてしまうんだと話しても、この母はまったく信じてはくれない。
「まぁ、とにかく、今は二人の邪魔をしちゃだめよ。星野くん、ごめんなさいね、この子ったら昔から雛にべったりだったから……でも、誤解しないでね。イトコだし、弟————いや、妹みたいなものだから。雛が好きなのは、星野くんだけだからね」
「ちょ、ちょっと、ママ!? 何言って————」
「あら? 違うの? 昨日雛が星野くん連れて帰って来た時、星野くんの唇にラメがついてたから、てっきり……」
「ら、ラメ!?」
昨日、雛に浴衣を着せて、さらに化粧もしたのはこの母である。
ラメ入りの口紅を使ったようで、母は星野を見た瞬間にピンときたのだ。
「とっくにキスは済んでるんでしょ?」
「き……キス……きききき……雛が…………雛が……キ」
母の爆弾発言に、麗音はショックで倒れた。
* * *
「はーい、それじゃぁ、夏休みの宿題も無事に終わったということで、お祝いね!」
夏休み最終日の夜、小鳥遊家のリビングには、お寿司とオードブルが並んでいた。
雛に彼氏ができたお祝いだといって、祖母が注文したのだ。
ちなみに、ケーキもあるらしい。
隣の家に住む祖母と叔父たち————つまり、麗音の両親もそのお祝いの席に呼ばれていて、合宿先から急遽帰ってきた仁もいる。
麗音は絶対に行きたくないと言って部屋から出て来ないので、計八人でテーブルを囲んでいる。
「まさか雛がこんなにいい男を連れてくるなんて……やるわねぇ。さすが私の孫だよぉ……じいさんの若い頃にそっくりだわ」
「いや、ばあちゃん、じいちゃんこんなイケメンじゃなかったから! 嘘言わないで」
「そうかい? ああ、間違えた。あれだ、ばあちゃんの初恋の人に似てるんだわ。外国の人でねぇ、確かどこかの国の王子様だったのよぉ」
雛の祖母やよく、この話をする。
中学生の頃に留学生が近所に住んでいたとかで、とてもいい男だったのだが尻の大きい女といつの間にかデキて国に帰ってしまったそうだ。
「あの時、私の尻がもっと大きければと……」
「それより、星野くんって言ったかな?」
「あ、はい!」
「しばらくこの家に泊まっていくそうだけど……ご両親は何をしてるんだい?」
叔父が祖母の話を無視して、星野に尋ねた。
彼女の家に息子を泊めさせて、両親はどこで何をしているのか、普通に疑問だったからだ。
「僕の父は王で、母は王妃です」
「え……? おう……ひ?」
「遠い星にいるので、普段は執事と一緒に暮らしてるんですが……今その執事が急用で出てしまって————終わったらすぐに迎えにくるとは言っていたんですけど」
「……ん? えーと、あれかな? 君はもしかして日本人じゃないのかい? どこか、外国で生まれたとか」
「ええ、外国というか…………星なんですけど」
「ほ……星?」
戸惑う叔父。
雛の親戚ということは家族なのだから、素直に話そうとする星野。
その時ちょうどトイレに行っていた雛は、まさか星野自ら自分が宇宙人であることを打ち明けているとは思ってもいない。
「ああ、また始まった! この子、自分はアノ星から来たアノ星の王子だっていうのよ。こんなにイケメンなのに、変わってて面白いでしょ?」
「ええ何それ、昔のアイドルみたいね」
母と叔母が話に入ってきて、叔父もああそういう設定なのかと納得する。
確かに、見た目と違って変わっているなぁと思ったが、不思議系彼氏なのかと思った。
「そういうことか。じゃぁ、雛と結婚したら、雛はその……アノ星のお姫様になるってことか? あ、いや、王子妃様か」
「そうなりますね! まぁ、僕がヒナと夫婦になるためには、アノ星に連れていくことになるので、みなさんとはあまり会えなくなるかもしれないですけど……でも、僕はヒナを心から愛しているので、安心してください。必ず幸せにしますから」
「あらやだ、もう雛ちゃんをお嫁さんにもらう気満々じゃない。よかったわねぇ、こんなにイケメンなお婿さんができて」
「何を言ってるんだ。結婚なんてまだ早いだろう!」
父は反対していたが、星野は本当に心から雛を愛しているんだなぁというのが伝わってきて、雛がトイレから戻ってきたときには、もう叔父たちも星野の味方になっている。
「雛ちゃん、もう、こんないい男他にいないわよ。学校卒業したら、すぐにでも結婚しちゃいなさい!」
「そうそう、きっと幸せになれるぞ」
「ひ孫の顔が見れる日は近いねぇ……」
母と叔父夫婦と祖母にすっかり気に入られている星野は照れていたがとても嬉しそうだった。
父と仁はまだ早すぎると思っているが、まぁ、結婚するのならこの男がいいだろうと思い始めたそのとき————
————プワンプワンプワンプワンワン
「ん……? なんの音だ?」
外から何か音が聞いたことのない音が聞こえてきて、皆、窓の方を見る。
閉められたカーテンの隙間から、夜だというのに謎のピンク色の光が漏れていた。
父が不思議に思ってカーテンを開けると、小鳥遊家自慢の広い庭が上空からライトを当てられているかのように明るくなっている。
そして、上を見ると普通ではありえない動きをしながら、だんだん近づいてくるのは、お椀を二つ重ねたような、大きな宇宙船。
『王子、お迎えにあがりました! お待たせして申し訳ございません』
「…………UFO?」
「…………未確認飛行物体?」
「…………ほ、本物……?」
————プワンプワンプワンプワンワン
「あ、ヒナ、迎えが来たみたい……」
一斉に星野の方を見る小鳥遊家の一同。
「「「いや、ちょっと、待って!!」」」
未知との遭遇である。
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