第46話 未知との遭遇(6)
エイリの前で大泣きした麗音は、今朝、宇宙船O3で目を覚ました。
しかも、同じベッドの上にエイリがいる。
そして、なぜか二人とも裸だった。
「……ごめん、エイリくん。あんまり覚えてないんだけど……これ、どういう状況?」
「どういうもなにも……麗音さんがずっと泣いていて、家に帰りたくないっていうから……」
「それは覚えてるんだけど、どうして、裸なんだろう?」
「…………じ、自分で脱いだんですよ!? その、浴衣とかいう服がしわになっちゃうからって、麗音さん自分で脱いだんですからね! 俺が脱がせたわけじゃないですから!!」
顔を真っ赤にして、エイリは慌てている。
麗音は全く覚えていないが、じゃぁ、なんでエイリも裸なんだとと首をかしげる。
エイリは言えなかった。
麗音を自分の部屋に連れてきて、めずらしく執事ではなく自ら冷蔵庫を開け、ジュースを出したつもりが、それが実は酒だったことを……
それに、飲んで酔っ払って暴れていた麗音が自ら脱ぎ始めて、「お前も脱げ!」と身ぐるみをはがされていたことを……
さらに、麗音にバックドロップや逆エビ固めなどのプロレス技をかけられ……
そのまま寝てしまって、この状況であるとは、さすがに言えなかった。
「と、とにかく、起きたならその……服を着てください————俺のでよければ……」
「ああ、ごめん。借りるね」
ベッドから出ると、エイリから服を借りて着替えると、麗音は脱ぎ捨てたあと執事が畳んで置いてあった浴衣に視線を向ける。
雛と色違いの、京都で祖母が買ってくれた新しい浴衣。
これを着て、雛と花火を見る予定だったことを思い出し、ぎゅっと唇を噛む。
「こんなことなら……早く告白しておけばよかった」
ぼそりと呟くと、麗音はエイリにずっと隠していた本心を打ち明けた。
「あの変態————エイリくんのお兄さんが現れる前に、ちゃんと言えばよかった。そうしたら、何か違っていたかもしれなかったのに……」
女子は好きだと言われると、意識してしまっていつの間にか好きになる場合が多い————なんて話を、麗音は聞いたことがあった。
雛が全然自分を男として見ていないこともわかっていたし、そもそも女装のせいで麗音の恋愛対象は男だと思われている。
実は、麗音の女装は小さい頃に親が女の子が欲しかったと着せたワンピースがきっかけだった。
女装をすると雛が可愛いと喜んでくれたのが嬉しくて、麗音は雛を喜ばせたくていつの間にか自ら女装をするようになっていったのである。
しかも、凝り性なので、成長期を迎えてもいかに女の子に見えるかにこだわっている。
体も心も男だが、服装は女性ものが好きなだけだ。
「意識されないのはわかってたから、もう少し、大人になってから告白しようと思ってたんだ。雛がみんなから避けられるようになったのは、男のくせに女みたいで気持ち悪いって、いじめられてたオレを助けようとしたことが原因だから。高校ではちゃんと友達を作って、普通の青春を満喫して欲しかった。友達を作って欲しかっただけなのに……なんで、彼氏ができてるんだよ……くそが!」
言っているうちに、もっと早く行動しておかなかった自分への後悔と雛を星野に奪われたという悔しさがこみ上げてくる。
「ご、ごめんなさい、兄さんが余計なことを————ちゃんと、別の嫁候補を探すようにきつく言っておくから……」
「嫁候補————……そうだ、その嫁候補なんだけど……もし雛がその嫁候補になっちゃったら、どうなるの? アノ星に連れて行かれちゃう……とか?」
「え? はい。そうですね。だって、兄さんは第一王子で、アノ星の王位を継ぐべき人ですから……! その嫁になるので。まぁ、本人の意思と、両親の許可が必要にはなるんですけど……それに、候補になったとしても父上が最終的に認めないと連れて来ても正式に妻になれるかどうかは————」
* * *
「————ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」
「れ、麗音!?」
珍しく男ものの服を着ていた麗音が、窓から身を乗り出して怒っている。
このまま窓から窓からと飛び移ろうとしているかのように、片足を窓枠に引っ掛けて……
「ど、どうしたの!? っていうか、今のどこから見て————」
「どこからでもいいよ!! 雛、目を覚まして!! もうそいつに近づくのはやめるんだ!!」
「は!? 目を覚ます!?」
(な、なんなの突然)
「アノ星に行って、嫁候補になったら、もう二度と地球に戻って来られないんだよ!? あの星の王が雛を認めなかったら、結婚もできないで、愛人として搾取されるだけだ!!」
麗音は身を乗り出して、屋根を足場にして雛の部屋に窓から入ると、雛を守るように星野の間に立ち、星野を睨みつけながら言った。
「騙されないで! こいつの目的は、結局、雛の体————お尻だけなんだから!! アノ星になんて、行っちゃダメだ!!」
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