第44話 未知との遭遇(4)


「パスワード……?」


 雛は手紙の意味がわからず首を傾げていたが、星野はなんのことかわかっているようで幹にある不自然な溝を見つけ、そこを押すと入力画面が現れる。


(え、何これ!? 木じゃないの!?)


 星野がパスワードを入力すると、その幹の中からキュイイイイイイインと電子音が聞こえて、ぱかっと幹が縦に割れた。

 そして、中から出て来たのは、星野の着替えや制服、全く手をつけていない夏休みの課題などが入った鞄だ。


「うーん……しばらくホテルで暮らすしかないかな?」

「ほ、ホテル!?」


 そんなところに連れ込まれたら、何をされるかわかったもんじゃないと、雛は顔をまた真っ赤にするが、夜なので星野は全く気づいていない。


「雛は初めてだし、できれば僕の部屋が良かったんだけど……まぁ、ホテルでもいいよね。誰にも邪魔されないし」


 星野はニコニコと微笑みながら、鞄を持つと、反対の手でまた雛の手を掴んで歩き出した。

 近くのホテルに泊まろうとしているようだ。

 しかし、この日は花火大会ということもありどこも満室で、今から泊まれるホテルはどこにもなかった。


「どうしよう……僕、外で寝たことないんだけど……」


 仕方がなく、このままエイリのいる宇宙船O3に行くしかないかと諦めて連絡してみるが、なぜかエイリから返事は来ないし、執事に連絡しても「エイリさんは今、お取り込み中なので無理です」と言われてしまう。

 このままでは、星野の泊まる場所がない。


 困っている星野を見て、雛はなんとかしてあげなくちゃと考える。


(部屋か……————そうだ……!)


「ねぇ、星野くん」

「ん?」

「ウチくる?」


(勇にぃも仁兄も、確か夏合宿でいなかったはずだし……部屋なら空いてるし……)


「い、いいの!?」

「うん、兄ちゃんたちがいいって、言ってくれればだけど……多分大丈夫」



 * * *



「まぁ、それは大変ねぇ。いいわよ、いくらでも泊まって。お兄ちゃんたちはどっちも来月まで帰ってこないし……あ、それとも雛の部屋で————」

「何を言ってるんだ!! それはダメだろう!! 流石に!!」


 雛が星野を家に連れて帰って来た途端、母はニコニコと満面の笑みで出迎えてくれたが、父は猛反対していた。

 可愛い一人娘が、なんの連絡もなく、初めて彼氏を連れて来たのだ。

 それも、やけにイケメンで、雛の手をずーっと握っているのが気にくわない。


「だいたい、他に泊めてくれる友人もいないのか!? 行くあてがないからと、女の家に転がり込むとは……情けない」

「あら、あなただって、若い頃よく私の実家に入り浸ってたじゃないの。それで勇を妊娠したの……忘れたの?」

「……ぐぬぬぬ」


 父は何も言えず、渋々星野を受け入れた。

 こうして、シッジーが帰ってくるまでの数日、雛の家で世話になることになったのだが、雛が風呂に入っている間、星野はダイニングで母に質問攻めにあう。


「雛のどこが好きなの?」

「全部です。可愛いところも、強いところも……それに、とっても優しくて、いつも僕のことを助けてくれるし、あと、何より僕の理想のオシリの持ち主なんです……」

「あら、星野くんはお尻派なのね。うちのパパと一緒だわ」

「え、そうなんですか? ああ、お母さんのお尻もとっても魅力的ですもんね」

「ふふふ……自慢じゃないけど、雛のお尻は私に似てるのよ」


 父はふてくされながら、リビングのソファーに座り聞き耳を立てている。


「ご両親は、何を? こんなにイケメンなんだから、まさか芸能人とか?」

「いえ、父は王で、母は王妃です」

「……おう……?」

「はい、僕は第一王子なので、将来は跡を継いで立派な王に————」

「何それ、面白いこと言うわねぇ。そういう設定なの?」

「いえ、設定じゃなくて、僕はアノ星の王子なんですよ」


 母は、目をパチパチしながら、もしかしてこのイケメンくん、ちょっとおバカさんなのかな?と思う。


「あの星? どの星? 火星とか?」

「まさか、そんなここから近い星じゃないですよ。それに、今の火星に生命体はほとんど存在していないですし————」

「あら、宇宙に詳しいの? 良かったわねぇ、パパ。趣味が合いそうよ」

「……は? どこがだ」

「だって、パパ、UFOとか好きじゃない。SF映画とかもよく見てるでしょ? エイリアンとか、未知の生命体とかそういうのよ」


 急に話をふられて、父はちらりと星野を見る。


「……なんだ、君、興味あるのか? 宇宙人とかUFOの話に」

「興味があるといいますか……僕、宇宙人なので————」

「宇宙人? ははは、確かに君はムカつくくらい綺麗な顔をしているが、宇宙人だって? そんな冗談はよしてくれよ」

「いえ、冗談じゃなくてですね」


 星野はこれから嫁にする雛の両親だからと、素直に自分が宇宙人であることを打ち明ける。

 しかし、全く信じてはもらえず、雛の両親からは「そういう痛い設定の男」だと思われてしまった。


 あまりにイケメンすぎて、雛をたぶらかす悪い男なのではないかと思っていた父は、残念なイケメンだと思い、なんだか少しホッとする。

 とんでもない野郎だったら、空手家として暴力はいけないが、目の前で技の一つでも決めて追い返そうかと思っていた。

 発言はユニークだが、雛を心から好いている誠実さを感じたのだ。


「……ん? なんかすごく盛り上がってない?」


 風呂から上がって来た雛は、すっかり馴染んでいる星野に驚いて首をかしげる。


「あ、雛! 星野くんって、すごく面白いわね」

「ああ、少々変わってるが、パパも気に入ったぞ」

「そ……そう?」


(何を話したんだろう……?)



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